ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

獣の奏者 <探求編><完結編>

2010-06-01 | 読むこと。

      『獣の奏者Ⅲ 探求編』



      『獣の奏者Ⅳ 完結編』



アニメにもなった上橋菜穂子さんの『獣の奏者』に、
続編が出ていたことを最近になって知りました。

とにかくおもしろくて、夢中になって一気読みした作品の
続編が出ることほど嬉しいことはありません。
特に、最近はファンタジーも似たり寄ったりで食傷気味。
しっかりした世界観を持つ、骨太のファンタジーを読みたい!と
待ち焦がれていたのです。

期待を裏切らないおもしろさに、早く読み終えるのがもったいない、
と思いつつ、これもまた一気に読み終えてしまいました。
読み終えたあと、もう一度<闘蛇編><王獣編>を読み返したくなり、
本屋で文庫本を購入。
おかげで、この一週間は主人公エリンと共に過ごしたような気分です(笑)
(前作のレビューはこちら→*


読み終えた今は、ファンタジーを読んだというより、
数奇な人生を送ったひとりの女性の生き方を教えられた、
というような気さえするのです。

よく言われることですが、上橋さんの作品はファンタジーでありながら、
「ここではない、空想の世界」の物語という気がしません。
それくらいその世界はリアルで、登場人物たちは確かにそこで生きています。
なぜなら、アジアを彷彿させるその世界では、歴史・文化・言語はもちろん、
食べ物から風土・生活に至るまで、まるで作者が見てきたかのように
きちんと描かれているからです。
守り人シリーズと同じように、作者の頭の中には、
確固たる世界が細部に至るまで創られているのでしょう。

そして、登場人物たちも、ただストーリーの展開上必要だからいる、
というのでなく、彼・彼女たちにも自分が生きてきた人生があるのだなあ、
と思わせるからすごい。
守り人シリーズでは、主人公バルサの話とは別にチャグムの話ができ、
最後でそのふたつが重なってクライマックスを迎えましたが、
この物語でも、この人物の話を読んでみたい、と思わせるような
興味深い人物がたくさんでてきます。
それだけ、登場人物が生きているということですね。


この物語は、児童向けに書かれた物語ではありません。
生き物の生殖に関わる話も出てくるし、国の政治的な部分も
物語の重要な要素になっています。
それでも、王獣と心を通わせていくエリンの姿には
大人も子どももわくわくすることと思います。
でも、それで終わる話でもありません。

人と獣は決定的に違うこと。
それでも、心通じ合う瞬間があるということ。
それを描いた<闘蛇編>と<王獣編>。
そして、王獣を操れるがために、野にあるものは野に帰したいという
己の意思に反して、否応なく国の争いごとに巻き込まれていく<探求編>と<完結編>。

過去と同じ災いを避けるため、祖先たちが闇に葬った真実を
エリンは災いを再び起こすかもしれないと思いながらも探し続けます。
知らなければ、その先の道を探せないから、と。

そしてエリンが恐れたとおり、災いは起きてしまいます。
でも、そこから得た真実は、悲惨な結果が待ち受けていたとしても、
それを知った人々によって、ほんの少しずつでも世界を変えていくのです。

母の葛藤を間近でみることで、ジェシは、戦というものが、
ひとりの英明な人の英雄的な行為で止められるものではないことを思い知った。

人は群れで生きる獣だ。群れをつくっているひとりひとりが、
自分がなにをしているのかを知り、考えないかぎり、大きな変化は生まれない。

かつて、木漏れ日のあたる森の中で母が言っていたように、
多くの人の手に松明を手渡し、ひろげていくことでしか、変えられないことがあるのだ。


自分は、滔々と流れる大河の一点にすぎない。
今の政治家に欠けているのは、こういう謙虚な気持ちではないでしょうかねえ。


<闘蛇編><王獣編>を読んだとき、エリンと同じように孤独な心を抱えたイアルが、
どうも中途半端な気がしてもやもやしていました(笑)
でも、どうやらそんなふたりの間にもいろいろあったようで、
この巻ではちゃんと夫婦になり(やれやれ)、ジェシという男の子もいます。
そのことが、また作品に深みを与えているのですね~
妻として、母としてのエリンの思いが、痛いほどよくわかります。

そして、エリンと離れて暮らし、けっして派手ではないイアルの存在ですが、
要所要所でエリンをしっかり支えているところがいいなあ

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