熊本熊的日常

日常生活についての雑記

「泣かない女はいない」

2005年07月18日 | Weblog
表題作を含め3編がおさめられている。カバー裏の「二人のデート」を除く2編は、男と女の別れの風景を描いたものだ。

表題作のなかで、睦美と四郎が別れることになったのは、睦美が職場の樋川に心奪われたからではないだろう。「センスなし」で、良一の浮気に保子が激怒したのは、保子が良一を愛していたからではないだろう。恋人や夫婦という関係は、守るべき固定化したものと認識されがちだが、日常生活のなかにあまたある脆弱な人間関係のひとつでしかない。日々の積み重ねのなかで、ふと気付くと二人の間に越え難い溝が走っていたりするのである。男と女が別れる時というのは、少なくともどちらか一方がこの溝の深さを認識した時だ。埋めることができないと確信するから、慌てふためくこともない。静かに別れる他に選択肢がないのである。

この男女のズレを早送りにして見せたのが「二人のデート」であろう。ぎくしゃくしたやり取りのなかに、すれ違いの芽がてんこ盛りである。

誰もが変化のなかで生きているから、人間関係を固定化することは不可能だ、と割り切れば、ストレスは軽減される。破綻した関係を引き摺るよりも捨て去ってしまう方が、人生はきっと豊かになる。