交通事故で夫と一人娘を失った主人公が、その喪失から立ち直る過程を追った作品である。家族揃って事故に遭い、主人公だけが命を取りとめるのだが、家族をいっぺんに失った主人公には、もはや生きて行く希望が持てない。自らも重傷を負い、入院中の病院で自殺を図るが果たせず、そのままひとりでいきていくことになる。ただ、彼女は、それまで家族と暮らしていた家も、夫の遺産もすべて処分してしまい、それまで暮らした事も無い未知の場所にアパートを借りて生活を始めるのである。しかし、本当に世捨て人のように暮らすことなどできるはずもない。そこで他の住民とトラブルを起こしながらも、突っ張って生活している娼婦とか、夫の仕事仲間で、自分の愛人でもある男性とか、痴呆の母とか、近くもなく遠くもない人間関係に支えられ、主人公は徐々に自分の生活を取り戻してゆく。作品は、淡々と進行する。本来、人の生活とは淡々としたものだろう。そうした静かな展開にリアリティを感じた。主人公を演じるジュリエット・ビノシュの抑えの利いた演技と美しさが光っていた。
子供の友人がバイオリンの発表会に出るというので、それを聴きに行って来た。街の音楽教室が主催する発表会だったが、我が子のそれとはレベルが段違いであることに驚いた。小学校低学年でも、我が子の教室の中高生並みの腕前なのである。ふと、隣の我が子に目をやると、そんな驚きを感じているようには見えない。素直に演奏を聴き、自分の友人の番を待ちかねているようである。その友人と同じ曲を演奏する「ライバル」と友人との比較をしているらしい。休憩時間になって開口一番「○○が一番上手だったよね」と友人を評価していた。「お前もがんばってこのくらいの演奏をしてみろよ」と言いたい気持ちが無いわけでも無かったが、「うん、そうだな」とだけ返事をした。私はこの子のこのお気楽さ加減が好きである。