とげぬき地蔵の近くの路地に「台湾」という名前の台湾料理の店がある。たいへん小さな店なので、時間帯を選ばないと入ることができないかもしれないが、私が訪れる時間はそういう時間を外しているので、たいていは私以外に客がいない。
以前、仕事で3ヶ月に一回くらいの割合で台湾を訪れていたことがあった。訪問先は新竹が多く、台北や桃園であったり、稀に高雄のほうであったりすることもあった。仕事で、しかも客として出かけると、面倒を看る側があれこれと気を遣って立派なホテルのレストランなどで食事をいただくことになる。ほんとうは移動の車のなかから目にする街角の大衆食堂のような場所で、メニューの文字から空想を膨らませながら料理を注文し、出されたものと空想の乖離を味わってみたいと思っていたのだが、こちらも気を遣って相手に合わせていた。
しかし、そういうことが累積すると、やはりあの大衆食堂のようなところのものが食べてみたいという気持ちが膨らんでくる。幸い、東京には台湾料理の店はいくらでもある。東京の台湾料理店の料理が新竹や台北のそれらとどの程度同じなのか違うのか知らないが、台湾で行くことができなければ、東京で行くよりほかにどうしょうもない。それで、たまに銀座の外れとか歌舞伎町にある台湾料理屋を訪れてみたりする。巣鴨で暮らすようになって、この「台湾」の存在にはすぐに気がついたのだが、なかなか自分の腹の欲求と、この店の近傍を通りかかるタイミングが合わず、結果として半年に一回程度しかこの店を訪れることはない。今日はその半年に一回の日だったようだ。
あまり深く考えずに角煮麺を注文した。大きな丼に溢れんばかりの内容。真ん中に大きな角煮が横たわっている。その角煮の大きさだけで、今自分の居る空間が台湾へ瞬間移動したような心持ちになる。麺がのびてしまうといけないので、角煮はそのままに麺からいただく。角煮は十分に煮込まれているらしく、大きな塊であるにもかかわらず、箸で簡単に崩すことができる。また、角煮の大きさの割にスープに浮いている脂分が少ない。こう言っては難だが、見た目とちがって上品な味だ。味も量も栄養のバランスも、おそらく見た目以上に生命活動に適したものなのではないか、などと考えてみたりする。こういうものを日常的に食べているから、彼の地の人々は激動の歴史をしたたかに生き抜くことができるのかもしれない。
実は、この店の料理は店主が考えたオリジナルだそうだ。店主は日本人で、奥様が台湾の方とのこと。詳しくは学習院大学の学生が発行しているミニコミ誌「おてもと」の第4号を参照されたい。
そういえば以前の勤務先の近くにあった台湾人兄弟姉妹が切り盛りしていた店は今もあるのだろうか。今度、人形町へ足を伸ばしてみようかと、ふと思った。
注:「おてもと」設置箇所
学習院内:カフェ・ラ・スリゼ、蓁々会売店、黎明会館踊り場、文学部各学科閲覧室
雑司ヶ谷:古書往来座、旅猫雑貨店、ひぐらし文庫、JUNGLE BOOKS、トシマサロン
早稲田:古書現世、立石書店
東池袋:豊島区立中央図書館
千駄木:古書ほうろう、往来堂書店
谷中:古書信天翁
駒込:ぶた屋DEとり屋
小石川:橙灯
牛込神楽坂:クラシコ書店
神保町:ブックダイバー
下北沢:新雪園
中目黒:JUNKADELIC
以前、仕事で3ヶ月に一回くらいの割合で台湾を訪れていたことがあった。訪問先は新竹が多く、台北や桃園であったり、稀に高雄のほうであったりすることもあった。仕事で、しかも客として出かけると、面倒を看る側があれこれと気を遣って立派なホテルのレストランなどで食事をいただくことになる。ほんとうは移動の車のなかから目にする街角の大衆食堂のような場所で、メニューの文字から空想を膨らませながら料理を注文し、出されたものと空想の乖離を味わってみたいと思っていたのだが、こちらも気を遣って相手に合わせていた。
しかし、そういうことが累積すると、やはりあの大衆食堂のようなところのものが食べてみたいという気持ちが膨らんでくる。幸い、東京には台湾料理の店はいくらでもある。東京の台湾料理店の料理が新竹や台北のそれらとどの程度同じなのか違うのか知らないが、台湾で行くことができなければ、東京で行くよりほかにどうしょうもない。それで、たまに銀座の外れとか歌舞伎町にある台湾料理屋を訪れてみたりする。巣鴨で暮らすようになって、この「台湾」の存在にはすぐに気がついたのだが、なかなか自分の腹の欲求と、この店の近傍を通りかかるタイミングが合わず、結果として半年に一回程度しかこの店を訪れることはない。今日はその半年に一回の日だったようだ。
あまり深く考えずに角煮麺を注文した。大きな丼に溢れんばかりの内容。真ん中に大きな角煮が横たわっている。その角煮の大きさだけで、今自分の居る空間が台湾へ瞬間移動したような心持ちになる。麺がのびてしまうといけないので、角煮はそのままに麺からいただく。角煮は十分に煮込まれているらしく、大きな塊であるにもかかわらず、箸で簡単に崩すことができる。また、角煮の大きさの割にスープに浮いている脂分が少ない。こう言っては難だが、見た目とちがって上品な味だ。味も量も栄養のバランスも、おそらく見た目以上に生命活動に適したものなのではないか、などと考えてみたりする。こういうものを日常的に食べているから、彼の地の人々は激動の歴史をしたたかに生き抜くことができるのかもしれない。
実は、この店の料理は店主が考えたオリジナルだそうだ。店主は日本人で、奥様が台湾の方とのこと。詳しくは学習院大学の学生が発行しているミニコミ誌「おてもと」の第4号を参照されたい。
そういえば以前の勤務先の近くにあった台湾人兄弟姉妹が切り盛りしていた店は今もあるのだろうか。今度、人形町へ足を伸ばしてみようかと、ふと思った。
注:「おてもと」設置箇所
学習院内:カフェ・ラ・スリゼ、蓁々会売店、黎明会館踊り場、文学部各学科閲覧室
雑司ヶ谷:古書往来座、旅猫雑貨店、ひぐらし文庫、JUNGLE BOOKS、トシマサロン
早稲田:古書現世、立石書店
東池袋:豊島区立中央図書館
千駄木:古書ほうろう、往来堂書店
谷中:古書信天翁
駒込:ぶた屋DEとり屋
小石川:橙灯
牛込神楽坂:クラシコ書店
神保町:ブックダイバー
下北沢:新雪園
中目黒:JUNKADELIC