万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

シリア問題―化学兵器使用と国連決議なしのどちらが国際法違反?

2013年09月06日 15時31分08秒 | 国際政治
シリア攻撃、国連決議を断念=「安保理人質」とロシア批判―米大使(時事通信) - goo ニュース
 シリア内戦において化学兵器が使用された件について、国際社会では、米ロの対立が際立つようになりました。アメリカは、化学兵器の使用を国際法違反として厳しく制裁する姿勢を示す一方で、ロシアは、国連決議なしの軍事行動は、国際法違反と主張しています。

 米ロ両国とも、”国際法違反”を掲げて相手方を批判しているのですが、一体、どちらの行為が国際法に違反しているのでしょうか。化学兵器の保有や使用に関しては、生物化学兵器禁止条約があり、シリアを含めた一部の国は加盟していません。この点に関しては、以前のブログ記事でも指摘したのですが、条約未加盟を以って化学兵器の使用や保有が”合法化”されるわけではなく、また、民間人の大量虐殺が国際法上の犯罪であるジェノサイドに当たることからも、ジェノサイド条約にも違反します。因みに、シリアはジェノサイド条約には加盟しています。ですから、化学兵器の使用による民間人の大量虐殺は国際法違反とするアメリカの主張には、相応の根拠があります。それでは、国連決議なしの軍事行動はどうでしょうか。国連の安全保障理事会は、現状では、司法機関、あるいは、警察機関としては機能していません。何故ならば、たとえ、国際法が既に存在している分野の懸案であっても、それを無視する常任理事国が存在するからです(中国も同類…)。法ではなく、国益に従って判断する常任理事国が存在しているのですから、国連決議なしの軍事行動は、即、国際法違反とは言い切れないのです(この主張を認めれば、常任理事国による侵略は、国際法において合法化されてしまう…)。むしろ、シリアの事件は、国際社会の規範としてのルールを破るような行為があっても、常任理事国の一国の反対でもあれば、実効性のある制裁を科すことができないという、国連の制度的欠陥を露わにしているのです。

 国際社会にあっても、安全のために治安を維持する機能は必要なのですから、国連決議を唯一の国際法における合法性の源泉と見なしますと、治安の維持の方が疎かになります。国連とは、担うべき機能に対して不完全な組織である以上、有志連合が、この欠陥を補うしかないのではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村



 

 
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする