万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

台湾が証明するWHO不要論

2020年06月01日 12時21分19秒 | 国際政治

 先日、オンラインで開催されたWHOの年次総会では、中国を後ろ盾とするテドロス事務局長の意向が働いて台湾のオブザーバー参加が認められませんでした。度重なる中国寄りの姿勢に失望し切ったアメリカは、早々にWHOからの脱退を表明することとももなったのです。

 参加を拒絶された台湾としては無念の限りなのかもしれませんし、自由主義国のメディアの多くも残念な結果として報じています。しかしながら見方を変えますと、必ずしも落胆すべき出来事ではないかもしれません。何故ならば、台湾は、WHOの非加盟国であったからこそ、新型コロナウイルスの封じ込めに成功したとも言えるからです。

 報道によりますと、台湾は、WHOの加盟国ではない故に、感染症に対する全世界レベルでの情報収集体制を整備してきたそうです。WHOから感染症に関する情報を得ることができないからです。このため、武漢にあって新型コロナウイルスの発生が報告された際にも、即座に専門家会合が設置され、独自に現地に調査員を派遣して情報収集に当たらせています。中国が‘人から人へ’の感染を正式に認める前に既に同情報を察知しており、台湾の迅速な対応と完璧なまでの初動体制は、WHOの非加盟国であったことが功を奏したと言えましょう。全世界に先駆けて中国大陸からの渡航を遮断した台湾政府の決断の裏には、独自のルートによる正確な情報の裏付けがあったのです。

 仮に、台湾がWHOの加盟国であったならば、同国もまた、他の諸国と同様に新型コロナウイルス禍による甚大な被害に苦しめられたことでしょう。台湾と中国大陸との間の活発な人の相互往来を考慮しますと、台北市や高雄等の主要都市の封鎖もあり得たかもしれません。感染が国境を越えて広がる事態に至っても、しばらくの間、WHOは、‘パンデミックには未だ至っておらず、各国政府の渡航禁止や制限も過剰反応という’基本スタンスを維持していました。加盟国としてWHOの指針に従っていれば、一衣帯水の関係にある台湾も大感染地帯と化したかもしれないのです。

  今般の台湾の成功例は、国際機関が時にして有害な存在になり得ることを示しています。国際組織が腐敗したり、重大な情報を隠蔽するといった不正な行為を働いたり、あるいは、故意ではなくとも偽情報を発信したり、決断を誤ったりする場合には、国際機関は本来の役割を果たすどころか、逆の方向に作用します。新型コロナウイルス問題において、WHOが感染の封じ込めとは逆の、感染拡大を招いたように。そして、国際機関の一員としての義務を誠実に果たそうとする加盟国ほど、酷い被害に遭ってしまうのです。このような場合は、国際機関は存在していな方が‘まし’となりますし、アメリカのように早々と脱退した方が賢明であるかもしれないのです。

 しかも、台湾は、比較的規模の小さな国でありながら、WHO以上の高い情報収集能力を示すことにもなりました。機密性の高い軍事分野ではないということもありましょうが、国際機関、あるいは、米中ロといった大国ではなくとも、一国が独自に感染症に関する情報収集網を構築することは必ずしも不可能ではありません。台湾が、実際に証明して見せたのですから。

今般の新型コロナウイルス化を機に、中国依存からの脱却の機運が高まっておりますが、信頼性に欠ける国際機関への依存もまたリスク要因です。むしろ、台湾に倣い、各国が自国の情報収集能力を高め、独自に最適な対策を迅速に実施する方が、国際機関の指示を待つよりも、国際社会が直面している共通問題の解決にも資するかもしれないのです(国際協力は情報交換を中心に…)。アメリカの脱退により以前にもましてWHOにおける中国支配が強まることが予測される中、日本国政府も含め、加盟各国政府は、脱退をも視野に入れつつ、今後のWHOに対する方針を決定すべきではないかと思うのです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする