万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自己否定になってしまうWHOの弁明

2020年06月20日 11時56分12秒 | 国際政治

 新型コロナウイルスのパンデミック化については、一党独裁を敷く中国の隠蔽体質、並びに、同国に同調したWHOの責任が問われております。国際社会からの厳しい批判を浴び、さしものWHOも過去に遡って同機構の措置が適切であったのかを検証するそうですが、こうした中、当時、WHOの委員を務めていたジョン・マッケンジー氏が、インタヴューに応える形で当時の様子を語っております(産経新聞6月20日付朝刊一面)。

 マッケンジー氏いわく、最初に新型コロナウイルスに関する情報がWHOに寄せられたのは、昨年の大晦日、即ち、12月31日であったそうです。武漢市の保健機関が公式に原因不明の肺炎の発生を報告したのは12月8日であり、未公表の情報によれば、既に11月の時点で最初の感染者が現れていたともされます(湖北省出身の男性とされ、武漢市の住民であったかどうかは不明…)。即ち、およそ1か月間は、中国は、WHOに対して何らの情報をも提供していなかったことになります(12月30日に殉職された李医師がWeChat上で華南海鮮市場での7人の感染について発信していますので、中国当局は、最早隠し切れないと判断したのかもしれない…)。情報提供の遅れはWHOの規約違反となるはずなのですが、何故か、マッケンジー氏はこの報告を迅速であったと評価しているのです…。

 その後の17日間については、中国側からの何らの追加情報も寄せられなかったため、同氏も初期段階における中国の怠慢を認めています。また、早い段階で確認されていながら、‘人から人への感染’を1月20日に至って漸く認めた中国側の態度やウイルス情報の提供の遅れについても批判的な見解を示しています。部分的には中国の対応について非を認めているのですが、全体的な論調としては中国擁護に傾いているのです。

 そして、最も驚かされたのが、「WHOはどのような方法であれ、最も効果的な方法で調査しようとしたのだと思う」という言葉です。つまり、‘中国から情報を得るためには、中国の情報隠蔽を黙認しなければならなかった’という極めて奇妙、かつ、矛盾に満ちた弁明となるからです。仮に、中国から情報を得るための‘最も効果的な方法’が中国による情報隠蔽を認めることであるならば、WHOは、加盟国としての情報提供義務に違反した中国の行為を公然と認めることにもなりますし、感染阻止に必要となる完全なる情報を中国から得ることを早々と断念したことを意味します。

WHOの加盟国ではない台湾が最も迅速に対策を講じ、新型コロナウイルスの水際作戦に成功したのと比較しますと、WHOのこの自己否定とも言うべき方針こそ、やはり、パンデミック化の元凶であったのかもしれません。‘目的のためには手段を択ばず’という言葉がありますが、WHOの今般のケースでは、目的達成のために選んだ手段こそ、目的の否定=職務放棄ということになるのですから。国際機構としてのWHOの目的とは、加盟国、あるいは、特定の地域で発生した感染症にいち早く対応し、全世界への情報提供と感染を防ぐことにあるのですから。

 マッケンジー氏の弁明を読んでおりますと、WHOの問題点は、同機構のテドロス事務局長の個人的な親中姿勢のみに帰するべきものではないかもしれません。背後には何らかの組織的な問題が潜んでいる可能性も否定はできないように思えます。国連を含め、国際機構というものの‘正当性’が根底から揺らぐ中、WHOが投げかけている問題は、全人類にとりまして深刻なように思えるのです。


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