万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

火星より地球では?

2020年06月23日 13時06分41秒 | 国際政治

 

 今日、宇宙空間は軍事利用が急速に進んでおり、中国はロシアと共同で月面基地を建設する計画があるそうです。大航海時代よろしく、宇宙を広大なるフロンティアとみなしているかのようなのですが、太陽系にあって地球のお隣の惑星となる火星に対しても、人類移住計画が進行中のようです。しかも、火星の環境を人類のテクノロジーで変えようというのですから、その構想は壮大です。

 火星が人類の生存条件を満たしていないのは明白であり、大気の厚さや構成、酸素濃度、水の存在、重力、気温(平均的な気温が氷点下-56度とも…)などなど、どれ一つをとりましても、人類が生きるに十分ではありません。そこで期待されているのが、環境改変技術です。地球から運び入れた様々な装置を用いて、火星を人類の生存に適した環境に改変してしまおうというのです。火星の重力は地球の40%程度ともされていますので、どのようにして重力まで変えることができるのか、想像もつかないのですが、SFの世界のお話ではなく、ある程度の勝算があるのでしょう。航空宇宙技術者であるロバート・ズブリン氏やスペースXの創設者で知られるイーロン・マスク氏などが提唱者とされていますが、因みに、NASAにも、2033年までに火星に宇宙飛行士を送り込む計画があるそうです。

 人類の科学の発展という見地からしますと、火星等の他の惑星の探索、並びに、調査は、必要不可欠のプロジェクトなのでしょう。とは申しますものの、調査や研究が目的であれば、生身の人間を送り込むよりも、不死身のロボットの方がよほど適しているように思えます(もっとも、最近、人工冬眠のマウス実験に成功との情報も…)。敢えて宇宙飛行士を火星に送り込み、何としても生存環境を整えようとする背景には、やはり、人類が火星に移住しなければならない相当の理由があるのでしょう。同計画は、しばしば地球の気候変動と結びつけて説明されており、異常気象や核戦争等の頻発により生存環境が破壊され、人類が最早地球に住めなくなる事態を想定しています。つまり、この説では、火星移住計画とは、人類のサバイバルをかけた地球脱出計画となるのです。

 しかしながら、ここで不思議に感じるのは、人類は地球の環境さえコントロールできないというのに、ましてや火星の環境を変えることができるのか?という素朴な疑問です。逆から申しますと、火星の環境を一変できるほどの高度なテクノロジーがあれば、地球もまた、人々にとりまして住みよい惑星に戻せるはずなのです。少なくとも、大気圏を人工的に造り出したり、気温を適温にまで上昇させたり、重力を変えるといった難題は、地球環境の修復事業にはない課題なはずです。

 モーリス・メーテルリンクの作品に『青い鳥』という物語がありますが、火星に新天地を求めるよりも、真っ暗な宇宙空間にあってひときわ美しく輝く地球を保つためのテクノロジーの開発により熱心に取り組む方が、人類に望ましい未来を約束するように思えます。ましてや、宇宙空間の軍事利用が地球の破壊リスクを高めるとしますと、火星移住の原因を自ら作ってしまうに等しく、宇宙空間の軍事利用には、国際社会が協力して歯止めをかけるべきではないかと思うのです。


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