万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

コロナ対策費は国債の中銀引き受けを前提に

2020年06月13日 12時07分56秒 | 国際経済

 日本国の財政は、戦後、長らく‘優等生’と評されていた歴史があります。財政赤字とそれに伴うインフレに悩まされてきた諸外国と比較しますと、歳出入のバランスがとれており、財政赤字も採るに足りない程度でした。それが1990年のバブル崩壊を境に一変し、今では世界最大の財政赤字国に一気に転落することとなったのです。今般のコロナ対策費に充てるための国債発行が加われば、近々、その残高は1000兆円を超えることでしょう。

 バブル崩壊の過程における日本国の財政赤字の急激な膨張の原因は、その‘補填的’な性格にあります。財政赤字の補填という意味ではなく、バブル崩壊に伴う日本経済の損失補填(経済補填?)と表現した方がよいかもしれません。当時の日本国政府は、拓銀、長銀、日債銀、山一證券等の倒産は許したものの、総額200兆円ともされる大量の不良債権を抱え込んだ金融機関に対して、積極的な資本投入を試みます。ケインズ主義的な政府による有効需要の創出、即ち、公共事業への積極的な財政支出に加え、金融救済に多額の予算をつぎ込んでおり、これらが日本国の財政赤字を急速に膨張させたのです(バブル崩壊後の財政赤字のバブル化?)。

 しかしながら、この手法、底なし沼にはまるようなものであったようです。バブルにおける損失額は1500兆円にも達したとする説もありますが、金融や企業から家計に至るまでの全般的な損失に対して、政府の赤字国債発行によって賄う方法には限界があります。そもそも、巨額となる政府支出を国民や企業から徴収する税収では賄えるはずもなく、経済ショック後のリセッションにあっての大幅な増税は致命傷ともなりかねません。となりますと、政府が赤字国債を大量に発行して資金を調達するか、もしくは、中央銀行が‘最後の貸し手’としの役割を果たす、あるいは、買いオペを増額して量的緩和策を実施することとなるのですが、日本国政府は財政的手法を選択し、国債の大量発行を以って危機を乗り越えようとしたのです。

 この結果、今日、日本国政府は、財政健全化を理由に消費税率を上げるに至ったのですが、10%上げによる歳入増加分が他の目的で使用され、かつ、今般のコロナ対策での歳出分が加わるとしますと、近い将来、国民には増税ラッシュが待ち構えているかもしれません。IMFも消費税率を20%程度まで上げるように提言しております。コロナ対策にあって日本国政府は、バブル崩壊後の手法を基本的には踏襲していますので、今後、増税不可避論が高まりかねないのです。

 そして、この問題は、日本国のみならず、コロナ対策として経済補填政策を実施した全ての諸国が抱える問題でもあります。欧米諸国の中には、政府による補填の対象が、全額とまではいかないものの、個人や事業者に対してコロナ禍による収益や賃金の減少分にまで及んでいますので、その総額は膨大です。因みに、EUでは、新たな基金を設立してコロナ共通債を発行し、将来的にデジタル課税や環境税等の共通税を以って同債権の償還費に充てるとする構想が議論されています。同構想では、最終的な負担者はグローバルに事業を展開するIT大手や大企業等となりますので、一般のEU市民としましては賛同しやすい構想なのでしょうが、それでも、EUが、巨額の財政赤字を抱え込むことには変わりはありません(発行額が大きいほど、信用不安から公債の利率を上げざるを得ず、利払いが増えるかもしれない…)。

 このように考えますと、経済ショックに対して財政的な手法、つまり、‘国債の発行による財源の確保と増税による償還’という方法を用いることには、相当の無理があるように思えます。とりわけ、今般のコロナ禍のように、経済活動をストップしなければならず、かつ、停止状態が長引くことにでもなれば、財政破綻は目に見えています。あるいは、日本国のように、一度のバブル崩壊により、その後、長期にわたり財政問題に悩まされることとなりましょう。となりますと、別の手法を考案しなければならないのですが、それは、案外、旧来の手法への回帰かもしれません。つまり、政府紙幣の発行とはでいかないまでも、政府発行が無利子で発行した国債を中央銀行が直接引き受けるのです(長期的には、政府紙幣の発行を含め、新たなシステムが必要なのかもしれない…)。

 いわば、‘なかったことにする’方法となるのですが、この方法ですと、政府は、国債発行に伴う償還や利払いの義務を負いませんので、当然に、国民は、間接的な‘借金返済の義務’から逃れることができます。つまり、増税圧力に晒されなくても済むのです。いささか‘開き直った’ような案なのですが(国民の共通財源としての通貨発行益を認める…)、中央銀行引き受けを前提とした方が、国民の多くは、今般の大規模な財政出動に対しても余程安心していられるのではないでしょうか。

コメント (2)
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