万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

TPPへの中国加盟は拒否すべきでは

2021年10月01日 13時55分46秒 | 国際政治

 米国が主導する形で進められてきたTPPは、トランプ政権による離脱により、残る11カ国で発足することとなりました(2018年12月30日に協定発効…)。アメリカは抜けたものの、2021年に至るとイギリスがCPTTPへの加盟申請を公表し、その後も、中国、台湾が同国の後に続くことになりました。イギリスの動きは世界経済の’ラスボス’の意向を表しているのでしょうが、中国の動向にも注意を要しましょう。

 

 イギリス、あるいは、同国をも操る’巨大資本’の視点からしますと、中国のCPTPPへの取り込みは、同勢力のグローバル戦略に合致していると推測されます。ワクチンパスポートとも連動するデジタル化、並びに、脱炭素化を両輪として今後の世界経済を動かすとすれば、比較的環境規制が緩く(脱炭素の公約が’空手形’でも誰からもチェックされない…)、かつ、統制や国民監視体制の行き届いた中国を’世界の工場’、並びに、先端技術の開発拠点(非倫理的な研究も可能…)として温存させておくことは、大きなメリットとなるからです。

 

 日本国政府を含むCPTPP加盟国の政府も、自国民に対して古典的な自由貿易論を以って説明していますが、超国家的なグローバル戦略は、国家レベルの利益、あるいは、国民一般の利益とは必ずしも一致するわけではありません。否、規模に優るグローバル金融や企業に利益が集中し、得てして期待とは裏腹に、中小規模の企業や国民が不利な競争を強いられて苦境に陥る傾向にあります。親中派とされてきたバイデン政権でさえTPPへの復帰に二の足を踏む理由も、伝統的に労働者層を支持基盤としてきた米民主党政権としては、TPP加盟による更なる格差拡大や雇用不安による民心の離反を恐れているのでしょう。もっとも、超国家権力体の計画は、先に中国加盟を実現した後にアメリカをも参加させ、米中二大市場を包摂する’グローバル市場’を実現することかもしれませんし、あるいは、中国としては、先んじてCPTPPに加盟することで、米国加盟申請時に際して’拒否権’を確保しようとしているのかもしれません。

 

 そして、広域市場においては、規模こそが競争力の主要な決定要因となりますので(先端技術の開発も資金力がものを言う…)、中国の加盟は、羊の群れの中に巨大な恐竜が混じるようなものです。ドイツの一人勝ちが指摘されてはいるものの、欧州単一市場形成の動機として、巨大市場であるアメリカに対抗するために、中小規模の諸国が団結する必要があったとされています(政治的な理由から、ロシアも排除…)。この観点からしますと、中国加盟のCPTTP加盟の承認は、自らを恐竜の前に差し出すようなものです。中国加盟に賛意を示す理由として、しばしば14億の市場の無関税化が挙げられておりますが、同時に自らの市場をも中国企業に開放する義務が生じますので、規模において競争力に劣る自国企業が餌食となり、淘汰されてしまう方が余程あり得る未来なのです。

 

しかも、加盟諸国の中国市場への依存度が高まれば高まるほど、CPTTPは、人民元の貿易決済通貨化により’人民元圏’化し、さらには、加盟諸国の国内に対してデジタル人民元網が拡張さる可能性も否定はできなくなります。アメリカが参加していないのですから、敢えて米ドルを貿易決済通貨として使用する理由がないからです(国際送金やデジタル決済も人民元に…)。アメリカは軍事的な同盟国ですので、中国のCTTPP加盟に伴う日本国の中国傾斜については政治的なリスクも考慮されるべきと言えましょう。さらに、先に可能性の一つとして指摘しましたように、中国の加盟により同国がアメリカのTPP加盟の行方を左右する権利を握ることにでもなれば、日米関係にもマイナス影響が及ぶ事態も予測されます(日本国政府による中国加盟承認が背信的行為と見なされる…)。

 

 今般、日本国では、岸田文雄氏が新たな自民党総裁に選出され、程なく岸田政権が誕生する見通しですが、中国のCPTTP加盟申請につきましては、経済面においても、政治面においても、長期的な視点からすれば、日本国にとってのプラス要素は殆ど見当たりません。締約国の一国として、日本国も独自に中国加盟の是非を判断する権利を有しているのですから、先を見通し、安全策として中国加盟に対する承認は見送るべきなのではないでしょうか。そして、徒にTTPの拡大を目指すよりも、そのメリットや存在意義について今一度見直してみる作業も必要なように思えるのです。


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