万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

世界大戦は世界支配へのステップ?-地政学の逆さ読み

2022年06月09日 15時46分54秒 | 国際政治
 第二次世界大戦後の東京裁判では、日本国は、世界支配を企んだ廉で断罪されることとなりました。それにも拘わらず、戦後にあっては、その罪状である「世界支配」という言葉は、どこか陰謀論めいていてSF小説の世界のお話のような印象を受け、「世界支配」に対する認識の低さや嘲笑的な態度が見られます。

 このような世界支配の実存性に対する日本国内における冷淡さは、東京裁判に起因するのかもしれないのですが、それは、あくまでも’当時の日本の国力を考えれば’という前提付きです。否、近現代の国民国家体系にあっては地球上には細かに国境線によって区切られた国家群がひしめいていますので、たとえ軍事大国であっても、この状態が継続する限り、永遠に世界支配を実現できる実力を備えた国家は登場しそうもありません。それでは、世界支配を本気で実現しようとするならば、どのような方法があるのでしょうか。

 ここから先は地政学の逆さ読みによる憶測に過ぎないのですが、世界支配に到達するには、まずもって戦争、しかも、数度、正確にはおそらく最低三度の世界大戦を要すると考えられます。マッキンダーによれば、大航海時代以降の近代史はシー・パワーとランド・パワーとの間の不断の闘争の歴史なのですが(共産主義の階級闘争史観にも通じている…)、その思想背景にはヘーゲル哲学があるのかもしれません。ヘーゲルは、二つの対立するもの、あるいは、矛盾するもの同士の対立や闘争がやがて止揚(統合・統一…)されてより高次のレベルに達するとする理論を提唱しています。同理論に従えば、止揚を繰り返したその先に、人類は’世界精神’に到達することとなります。同理論にかかれば、対立や衝突は回避すべきものではなく、むしろ高みに昇るための必要なステップとなるのです。

 マルクスは、ヘーゲル哲学を批判的に受容することで、階級闘争の繰り返しの到達点、即ち、最終段階としてのプロレタリア独裁を’予言’しました。ヘーゲル哲学は、間接的ではあれ現実の歴史をも動かしたのですが、マッキンダーのシー・パワーとランド・パワーとの二項対立構図もまたヘーゲル流に解釈しますと、最初に低レベルでの止揚が繰り返され、最後の段階で両パワーの中心国同士の対立となり、最終的にどちらかの勝者による世界支配が実現する、という未来を’予言’することができます。

シー・パワーの立場から、マッキンダー自身は、ランド・パワーによるハートランドの掌握による’世界島(ユーラシア大陸+アフリカ大陸)’の支配をディストピアの出現として懸念していたようなのですが、同史観から世界大戦を眺めますと、英仏露の三国協商対独墺伊による三国同盟の対立構図となった第一次世界大戦は、主としてイギリスを中心とするシー・パワーが急速に台頭してきたランド・パワーであるドイツを、同じくランド・パワーであるロシアと手を結ぶ形で抑え込んだ戦争となります。もっとも、ヨーロッパが発火点となった同戦争の目的は、むしろ、アメリカとソ連邦、そして、極東の日本国や中国をも本格的な’世界大戦’に引き込むための布石であったとも考えられます(日本国の場合、特に日露戦争、並びに、日英同盟によるシー・パワー陣営参加が世界大戦への道筋を付けた点で決定的な意味を持ったのでは…)。

 それでは、第二次世界大戦はどうでしょうか。第二次世界大戦の構図では、ユーラシア大陸へとその勢力圏を拡大させた日本国が、シー・パワーからランド・パワーへと移され、日独伊の枢軸国陣営を形成したことに加え、シー・パワーにあっては、アメリカがイギリスに代わりその中心国の地位を獲得しています。と同時に、ランド・パワーにあっては、中心国の候補と目されてきたドイツとソ連邦は、ドイツの敗戦によりシー・パワーの支援で軍事大国となったソ連一国に絞られます。そして、ソ連邦のランド・パワーへの回帰によって(連合国の分裂…)、ついに、シー・パワー対ランド・パワーという二項対立が、東西冷戦構造という形で出現するのです。

その後、シー・パワー陣営では、アメリカを中心にNATOや日米同盟などの軍事同盟が張り巡らされ、一方のランド・パワーにあっては、ソ連邦を盟主としてワルシャワ条約機構が形成されることとなります。さらに、中国共産党政権もランド・パワーに加わったとも言えるでしょう。第二次世界大戦の目的とは、実のところ、世界を二項対立の冷戦構造に収斂させるところにもあったのかもしれません(仮に、第三次世界大戦となって、ロシア+中国のランド・パワーによる世界支配が成立すれば、アフリカに影響力の強い中国の存在によって、マッキンダーが懸念していた”世界島(ユーラシア大陸+アフリカ大陸)’による世界支配が成立してしまう)。

 仮に、地政学をバックとした計画の最終目的が世界支配にあるならば、第二次世界大戦が人類最後の世界戦争とはならないはずです。最終勝者が世界を支配し得るならば、第三次世界大戦は必須の条件となりましょう(ロシアも中国もランド・パワーなので、第4次世界大戦が予定されているとは限らない…)。
 
 このように推測しますと、第三次世界大戦は既に計画されていた可能性は無下に否定はできなくなります。そして、最終勝者の背後には、世界史を裏から操ってきた真の黒幕がしっかりとその手綱を握っているのでしょう(おそらく、どちらのパワーが勝利しても、自らが真の勝者となるように予め仕組んでいる…)。第二次世界大戦と第三次世界大戦との間の戦間期にはグローバリズムが全世界に押し寄せ、ITをはじめ世界支配、否 人類支配に貢献する様々な先端技術も開発されています(世界支配に向けた環境整備?)。

しかしながら、必ずしも計画通りに物事が運ぶとは限りません。計画は、あくまでも計画に過ぎないのですから。そして、計画実現に妨げるものがあるとすれば、それは、被支配者の立場に落とされてしまう諸国民からの抵抗であり、自由や民主主主義を尊ぶ人々の常識と良心なのではないかと思うのです。

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