日本国の政党政治のタイプは一党優位の多党制とされています。政権交代は過去に一度しかなく、たとえ今日のように連立政権となる場合があったとしても、自民党が ‘一強’として他の諸政党を数で引き離しているからです。しかしながら、今般の衆議院選挙では与党側の苦戦が報じられており、二度目の政権交代の可能性も取り沙汰されています。一方の野党側は、中小の政党がひしめき合っているとはいえ、有権者の投票先の選択肢として意識されるようになってきているのです。
同現象の背景には、自公政権に対する国民の失望と払拭しがたい国民の不信感があることは疑いえません。マスメディアはパーティー券を悪用した裏金問題を信頼失墜の最大原因として報じていますが、前岸田文雄政権に対して渦巻いていた国民の‘怨嗟’の的は、この問題に留まりません。旧統一教会問題に加え、国民に膨大な健康被害をもたらした無責任なワクチン接種事業、早急なマイナンバー保険証への移行(セキュリティー並びにコスト無視のデジタル化・・・)、相次ぐ増税等の国民負担増、巨額のウクライナ支援、物価高、お米不足などなど、数え上げたら切がありません。何れも、巨額の利権も絡み、かつ、世界権力の意向に沿った政策であるため、これと同時に自民党は保守政党を装った‘偽旗政党’である、とする認識も広がることにもなったのです。自民党の正体が明らかになるにつれて保守層の自民党離れが生じ、無党派層も急増しているのです。
となりますと、当然に、投票先を失った保守層の受け皿となり、無党派層を取り込む政党が議席数を伸ばすことが予測されます。このため、10月27日に実施される選挙の結果にあって、連立を組む自民党と公明党の議席数が過半数を割ることになれば、何れの野党にも与党となるチャンスがめぐってきましょう。野党において最大勢力であるものの、立憲民主党も、一党で過半数を制することは極めて困難です。しかも、自民党や公明党との連立もあり得ないことではありませんので、現行の与野党の壁を越えた‘政界再編’も視野に入ってくるのです。
今日の政治状況は、混戦状態であるとはいえ、普通選挙を介して日本国の政治が‘変わる’という意味において、民主主義の価値には即しています。また、国民にとりましても、政党選択の幅が広がりますので、個々の政治的な自由意思が政治に活かされるチャンスとなり得ます。複数政党制は、民主主義国家のメルクマールでもありますので、表面的には民主的制度が機能しているように見えるのです。しかしながら、ここに思わぬ落とし穴があるように思えます。
確かに、今日の選挙では、各政党が政策綱領を作成し、選挙戦に際しては公約としての政策リストを選挙民に提示して臨んでいます。メディア等での討論会や立会演説会などにあっても、立候補者や各政党の代表等は、自らが掲げる政策に対する支持を得るために論戦を張ると共に、自らが示す政策の優位性を有権者に向けて熱心に訴えています。近年にあって一般化した公約を掲げての選挙は、単なる人物選びであったかつての選挙よりも、より進化した選挙制度として評価もされてもいます。しかしながらその一方で、‘公約’という言葉の‘約’の一文字が示すように、その実行において義務的な意味合いを含むため、悪用されるリスクもないわけではないのです。
第一に挙げられる問題点は、有権者は、政策毎に選択をすることができない、という点にあります。政党の政策綱領や公約は、凡そ全ての政策領域に関する政策がワンセットとなっています。しかしながら、各政党が提出している政策リストを読んで、全ての政策を一つも残らず支持できる人はおそらく殆どいないことでしょう。防衛政策や安全保障政策については○○政党の政策に賛同できても、経済政策や社会保障政策については△□政党を支持する、といったケースは珍しくはないはずです。より細かく見るならば、経済政策の××問題に関しては○○政党の政策が望ましく、同政策分野の△△問題は、△□政党に賛成するといった場合もありましょう。何れにしましても、有権者は、アラカルトに政策を選択することが出来ないのです。
この欠点については、政策領域の優先順位に添って判断すべき、とする反論もありましょう。防衛政策が最重要であれば、この領域に関する各党の政策を比較して投票すれば良い、とする意見です。しかしながら、何れの政策分野やアジェンダにも優劣付けがたく重要である場合も少なくありません。例えば、雇用政策については解雇規制緩和を、税制については大幅減税を訴える○■政党と、雇用政策については安定強化を約する一方で、税制については消費税率25%を掲げる●△政党との間で、優先順位から判断せよ、と求められても、戸惑う人の方が多いのではないでしょうか。たとえ国民多数が雇用の安定と減税を望んでいても、プラスとマイナスの政策が‘抱き合わせ販売’となっていれば、国民は、これらを分離して個別に選択することができないのです。しかも、上述したように、公約は国民との‘約束’を含意するために、国民の雇用安定志向から選挙の結果●△政党が与党となった場合、消費税率を25%に挙げたとしても、決して公約違反とはならないのです。否、●△党政権は、‘国民の選択に従った’と悪びれもせずに公言することでしょう。
この問題、民主的選挙における政策綱領や‘公約’が抱える重大なリスクを意味しています。そして、巨大なマネーパワーを有する世界権力の存在を考慮しますと、民主的選挙における公約の問題は、さらなる危機を国民にもたらすかもしれないのです。しかも、今般のように選挙後の連立の組み合わせが予測不可能な場合には、この問題は、さらに深刻となりましょう(つづく)。