中国が主張する「一つの中国」論は、今日、台湾に対する武力攻撃の可能性を高めると共に、第三次世界大戦に発展しかねないリスクがあります。この問題を平和的に解決するためには、先手を打って国際法における台湾の法的地位を確立するに越したことはありません。中国では、強権的なゼロコロナ対策を機に習近平独裁体制に対する国民の抗議が続いており、体制引き締め政策として台湾への武力侵攻の挙に出る怖れもあり、何れの国や国際機関であれ、同問題について国際司法機関への提訴を急ぐべきと言えましょう。中国が軍事行動を起こしてからでは遅いのです。
平和的解決に向けた最初の一歩は、国際社会に対する台湾自身によるアピールとなりましょう。国際司法機関によって法的地位に関する確認を得ることで、同問題を平和的に解決する準備があることを広く内外に向けて訴えるのです。あるいは、日米と言った中国の軍事的脅威に晒されている他の諸国であっても構わないかもしれません。何れにしましても、台湾問題については、平和的解決を求める国際世論を醸成してゆくことが中国に対する強力な戦争抑止圧力となるのです。
次に、当事国となる台湾が訴訟に向けた準備を開始するべきなのですが、事実上の同盟国であるアメリカとの協議を経る方が訴訟手続きがスムースに進行する可能性が高まります。あるいは、米台協議における議論の末に、台湾に代わり、アメリカが父権訴訟に準じた形で原告の引き受けに同意するかもしれません。中台問題についてバイデン政権が平和的解決を真に願っているならば、確認訴訟に向けた行動を支持こそすれ反対する理由はないはずです。西方のウクライナ対する間接支援に既に巨額の資金をつぎ込んでいる現状にあって、台湾危機を機とした東アジアでの直接的な米中開戦は、アメリカとしても避けたいシナリオとなりましょう。
米台協議が纏まらずに両国とも何らのアクションも起こせない、あるいは、他国が関与する形での解決で合意した場合には、他の関係国が行動を起こす番となります。特に、日本国には日米同盟に基づく米軍基地もありますので、台湾有事に際しては自国の安全をも脅かされることが予測されます。国連憲章第35条では、安保理等に対して何れの国も平和的解決を求める権利を認めていますので、日本国政府が、率先して台湾に関する確認訴訟による解決を提案することもできます。
それでは、国際機関はどのような役割を果たすことができるのでしょうか。解決の付託機関として国際司法裁判所を選択した場合、台湾は同規程の締約国ではないものの、規程第35条において、非締約国であっても国連安保理の決定によって当事国として同裁判所を利用することができるとしています。平和的解決は国連憲章第6章の問題となりますので、常任理事国も含めた単純多数決をもって台湾を当事国とする決議は比較的容易に成立する可能性があります(ただし、中国による裏工作や‘買収’には要注意・・・)。安保理で台湾を当事国とする決議が成立すれば、同国は、国際社会にあって凡そ独立主権国家として地位を承認されたこととなりましょう(デファクトの国家承認・・・)。なお、紛争の平和的解決を促すためにも、国際司法裁判所規程を改正し、集団的自衛権の連鎖的発動により、世界大戦へと発展する怖れのある事案については、国際社会全体の問題として捉え、常設仲裁裁判所と同様に国家以外の国際機関等にも原告適格を認めるべきかもしれません。
この段階で、原告国が何れであれ、提訴の方針は固まってくるのですが、実際に提訴に踏み切るに際しては、被告を中国として確認訴訟を起こすのかどうか、訴訟の具体的な形態を決定する必要があります。問題の本質上、国際司法裁判所(ICJ)への提訴が望ましいのですが、被告国を中国とする場合、中国が応訴するとは考えられません。もっとも、同規定の第53条には、欠席判決に関する規定を置いていますので、あるいは、台湾その他の諸国による単独提訴であっても、原告となる当時国が手続きさえ進めれば判決を得られる可能性もありましょう(単独提訴を不可とするのは、竹島問題に引きずられた日本国側の思い込みかもしれない・・・)。
また、昨日の記事で指摘したように、台湾の法的地位は、サンフランシスコ講和条約、無主地先占の法理、清国と中華民国との継続性(ただし、清朝末期では台湾は日本領であり、台湾の領域継承を主張し得ない・・・)、カイロ宣言の効力(最終的な確定は講和条約による・・・)等など、様々な法的問題を問うています。このため、台湾が、中国による併合要求を切り離し、単独で国際司法裁判所に自国の法的地位の確定を求めるという選択肢もありましょう。
中国による台湾侵攻を阻止するチャンスは、完全に失われているわけではありません。確認訴訟の路線が難しい場合には、台湾が国連への加盟を申請するという方法もあります。台湾の国連加盟が実現すれば、事実上の国家承認の効果が生じることも期待されましょう。ウクライナの二の舞にならないためにも、国際社会は、台湾有事についてはその阻止に最大限の努力を払うべきではないでしょうか。日本国政府も、対中抑止政策を軍事力の増強のみに頼るのではなく、愚かしく無益な戦争を回避するために、叡智を尽くして平和的な解決の道を探るべきではないかと思うのです。