万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ロシアとウクライナの核をめぐる茶番?

2024年11月26日 13時00分02秒 | 国際政治
 他者に恐怖を与えることは、相手を自らの意思に従わせる手段の一つです。個人間、集団間を問わず、社会にあってはしばしば見られるのですが、時代と共に法整備が進み、今日では、利己的な悪意があって実害が生じるような場合には、恐喝や脅迫行為として刑罰の対象となりました。その一方で、国際社会では、国内よりも遥かに司法制度が低レベルな状況にあるため、今なお恐喝がまかり通っています。その最たるものが、核兵器保有国による核による威嚇と言えましょう。因みに、この意味においてNPT体制は、一部の軍事大国並びに‘無法国’家のみに独占的に恐喝手段を持ち、かつ、それを実際に‘使用’することを許しているとも言えます。

 いささか前置きが長くなってしまったのですが、ウクライナ戦争が泥沼化する中、ロシアのプーチン大統領が、積極的に核兵器の使用に言及する場面も増えてきました。これまでも、通常兵器戦で劣勢となった場合、同大統領は、躊躇なく自国の核戦略に従って核を使用するのではないか、とする憶測がありました。しかしながら、少なくとも表面上は、核兵器使用を示唆する目的は、エスカレーションを見せているアメリカを含むウクライナ側の攻撃に対する牽制であると解されます。何故ならば、核使用の可能性を最大限に高めつつ、相手を脅すのが最も効果的であるからです。プーチン大統領の発言から、核兵器保有国が、それを保有していない国よりもその恐喝効果をより深く理解し、有効に活用しようとしている様子が伺えるのです。もっとも、こうした核保有国による核の脅しには、一つの疑問があります。

 この一つの疑問とは、他者に対して恐怖心を与える威嚇効果に関するものです。威嚇効果が発揮されるには、先ずもって他者の心の中に恐怖心が生じている必要があります。そして、恐怖心は、自らが直接に被害を受けたことによるよりも、間接的なケースもないわけではありません。例えば、(1)実際に他者が威嚇者の要求を拒んだ故に実行に移され、酷い目にあったのを見た場合(見せしめによる恐怖心・・・)や(2)他者が威嚇者の要求に従っているのを見て、威嚇効果を信じてしまう場合などにも効果が生じます。核兵器に当てはめれば、第1のパターンは、第二次世界大戦末期における日本国の広島並びに長崎に対する核爆弾の投下ということになりましょう。被爆地の悲惨を極めた惨状が核兵器そのものに対する恐怖心を人類に植え付けたのですからです。そして、この恐怖心がNPT体制を成立させたとしますと、今日のロシアの威嚇手段としての核兵器の‘使用’は、皮肉な結果とも言えましょう。

 それでは、第2のパターン、すなわち、恐喝効果の自発的承認はどうなのでしょうか。過去にもゼレンスキー大統領は、自国の核武装を主張した時期があったのですが、今年2024年10月17日に、同大統領は、‘ウクライナは自国の防衛のため核兵器を保有するか、NATOに加盟しなければならない’と語った後で、「NATO諸国は戦争をしておらず、人々はみな生きている。これが私たちが核ではなく、NATOを選ぶ理由だ」と述べています。ところが、この発言、どこか奇妙なのです。

 何故ならば、仮にウクライナがNATOを選択、すなわち、NATO加盟が実現すれば、既にウクライナとロシアは戦争状態にありますので、即、北大西洋条約の第5条が定める集団的自衛権が働いて、NATO諸国は戦場と化してしまうからです。NATO加盟により核の抑止力がウクライナにも拡大するとする見方もありましょうが、通常兵器による戦争は継続されましょうし、最悪の場合には、双方の核使用による核戦争を招きかねない事態に陥ります。ウクライナがNATOに加盟しないからこそ、‘NATO諸国は戦争をしておらず、人々はみな生きている’のではないでしょうか。

 加えて、‘逆は必ずしも真ならず’と申しますように、ウクライナがNATOではなく核を選択したからといって‘NATO諸国が戦争をし、人々はみな死に絶える’というわけではありません。むしろ、ウクライナが独自に核武装し、戦争が同国とロシアとの間の二国間に限定されれば、NATOとは無関係となります。つまり、NATO諸国は戦費や兵器を同国に提供する必要もなくなり、戦争に巻き込まれることも、命の危険に晒されることもなく、人々もみな生きることができるのです。

 論理的に考えれば、ゼレンスキー大統領の発言は支離滅裂です。それでは、この発言の裏には何があるのでしょうか(つづく)。

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