万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

人材サービス会社と新自由主義

2023年09月27日 15時45分07秒 | 統治制度論
 厚生労働省が新設を予定している中高年デジタル人材インターン制度では、人材サービス会社が介在します。否、同制度の最大の特徴は、仲介役として人材サービス会社を絡ませている点にあるといっても過言ではありません。それでは、政府による人材派遣業界への利益誘導という政治腐敗の問題の他に、人材サービス会社の介在は、一体、何を意味するのでしょうか。

 同システムは厚労省の発案とされていますが、おそらくその背後にあっては、世界権力を構成するグローバル金融・経済財閥が強く後押ししていることでしょう。真の設計者は、日本国外に居るのかもしれません。中高年デジタル人材インターン制度は、‘リスキング’や‘学び直し’、あるいは、短期雇用を要求する「ジョブ型雇用」の導入促進とも歩調を合わせていますし、先ずもって、同勢力が個々人に対する支配力を強める手段ともなり得るからです。

 中高年デジタル人材インターン制度では、インターン先企業と派遣契約を結ぶのは人材サービス会社とされています。インターン期間の終了後においては、同人材の一部は、DX人材としてインターン先企業に雇用されるとしていますが、インターン先に転職できなかった人々に対する支援は、人材サービス会社が行なうとしています。同仕組みは、人材サービス会社が就職先を見つけてくれるのですから、表面上は転職を希望する制度利用者にとってメリットとなるようにも見えます。

 しかしながら、他の派遣事業と同様に、同システムには、雇用者と被雇用者との関係において圧倒的に前者が後者に対して有利になる、あるいは、前者によって就職先の選択権利を握られてしまうという問題点があります。通常の就職にあっては、人材を探す側と雇用者と働く場を探す被雇用者の合意の成立を前提としています。いわば、両者共に、選択の自由が確保されている状態と言えましょう。ところが、派遣の雇用形態では、両者間の対等性は崩れます。派遣事業者と結んだ契約に基づいて、同社の被雇用者となった‘派遣社員’の職場は、派遣事業者が契約した派遣先企業に限定されるからです。

 派遣のシステムでは、雇用者と職場は分離しております。この分離こそが、実のところ、派遣事業者が企業に対しても、また、職を探す個々人に対しても、自らの戦略や意向に沿った形での一定の人事上の支配力を及ぼすことを可能とします。グローバリストの理想が、自らが必要とする人材を思いのままに集め、かつ、資本関係等により自らの支配下や利権を有する企業に提供し得る状況であるならば、派遣システムほど好都合なものはないのです。その一方で、派遣雇用の形態が拡大すればするほど、不必要と判断した人材、あるいは、不都合な人材を排除することも思いのままとなるのです。そしてもちろん、‘中間搾取者’として、企業と個人の双方から利益を吸い上げることができます。

 このように考えますと、新自由主義の旗手として颯爽と登場しながら、今では、非正規雇用の増加による少子化の元凶とまで見なされるようになった竹中平蔵氏が、世界経済フォーラムの理事にして、大手人材派遣事業者であるパソナグループの取締役会長の座にあった理由も自ずと理解されてきます。

 しかも、支配力の及ぶ範囲は、民間のみではありません。民営化の名の下で同グループをはじめとした人材派遣事業者が政府から様々な分野における事業を受託してきたのも、世界権力の計画通りであったのかもしれません。今般の中高年デジタル人材インターン制度にも顕著に窺えるように、永続的に利益が自らの懐に転がり込むように、巧みに政府の政策やシステムに自らを組み込んできたものと推測されるのです。

 かくして、人材派遣事業者は、自らは労せずして企業や個人、並びに、政府からも利益を吸い上げつつ、経済全体に対して支配力を浸透させていったのでしょう。人材派遣事業者にスポットライトを当ててみますと、今日、日本国、否、人類全体が抱えている隷属化の危機の全容が、おぼろげながらも見えてくるように思えるのです。

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