万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

選択的夫婦別姓から考える家族制度の‘進化?’

2024年10月10日 12時05分23秒 | 日本政治
 選択的夫婦別姓は、先の自民党総裁選挙にあって小泉進次郎候補が不意を突くかのように公約に掲げたことから、俄に国民の関心を集めることともなりました。序盤戦にあって同候補が最有力候補と目されていただけに、選択的夫婦別姓の導入も現実味を帯びてきたのですが、同制度の導入に関しては、賛否両論が渦巻いています。中には、選択的夫婦別姓を、人類が到達した先端的な家族制度と見なす導入支持者も見受けられます。それでは、従来の夫婦別姓は古びた制度であって、夫婦別姓こそ、より進化した制度なのでしょうか。同論争を機に、人類の家族の在り方について考えてみるのも、無駄ではないように思えます。

 他の動物と違う人間のみが有する特徴の一つに、成人するまでの期間が長い、というものがあります。例えば、キリンでも、シマウマでも、生まれたばかりの赤ちゃんであっても、直ぐに立ち上がって歩き始めます。ライオンやヒョウなどの獰猛な肉食動物が跋扈する草原では、生まれながらにして歩行や走行の能力を備えていなければ、直ぐにでも猛獣の餌食になってしまうからなのでしょう。もっとも、草食動物を狙う肉食動物の赤ちゃんも独力の歩行能力がありますので、同能力は、厳しい自然環境が動物たちに齎しているのでしょう。

 この両者の違いに注目しますと、人類は、動物たちと同じく弱肉強食の自然環境にありながらも、より高い知的能力を備えたことによって、集住による防御・保護機能の下で自らの生命を守りつつ長期的な育児を可能としたとも推測されます。否、安全に子育てが出来る長期的な育児期間を確保できたからこそ、知能を発達させることができたとも言えるかも知れません(相乗効果?)。子育て期間の長さは、それだけ様々な生存や生活に必要な知恵や経験知等を次世代に伝えることができることをも意味するからです。そしてもう一つの人間の特徴である言語も、数世代に亘る親子、兄弟、夫婦関係等によって成り立つ安定的な家族といった血縁集団が基盤となったとも推測されましょう。また、文明の基礎ともなる他者を思いやる気持ちや道徳心、さらには、愛情や喜怒哀楽の感情なども、基本的には家族という血縁的集団生活の中から培われてきたものと考えられるのです。

 人類誕生まで歴史を遡りますと、ホモサピエンスと称される人類を人類たらしめているのは、知性や感性を育む環境や条件にも行き着くのですが、婚姻につきましては、民族や部族、地域、時代、によって多種多様な慣習や制度を見ることが出来ます。しかしながら、少なくとも優れた知性や豊かな感性の育成、すなわち、人々が幸せな人生を歩む上で望ましい環境という観点から見ますと、夫婦同姓が‘古く’、夫婦別姓が‘新しい’とする評価は必ずしも正しいとは言えないようにも思えます。前者は、夫婦の横関係を中心とした家族の枠組みを重視し、後者は、父系母系それぞれの親子の縦関係を中心軸としているからです。家族という枠組みを、生活を共にし、子の養育の場と見なすならば、むしろ、前者の方が‘現代的’であるとする見方もあり得るのです。

 その一方で、一夫一婦制と一夫多妻制との間については、圧倒的に前者に対する評価が高いのは、一夫一婦制の方が上述した条件を備えているからなのでしょう。イスラム教徒やユダヤ教徒、あるいは、富裕層や新興宗教の教祖の間では今でも一夫多妻制を支持する人も少なくないのでしょうが、一夫多妻制が動物の世界に近いという側面は否めません。人類に最も近いとされるチンパンジーをはじめ類人猿の多くは、ボスの地位にある一匹の雄が群れの全ての雌を独占する形態が多々見られるからです。この形態では、安定した家族や家庭を営むことが難しいのです。人類が進化を遂げる一方で、チンパンジーが文明なき動物に留まったのも、婚姻形態もその一因であるのかも知れません。

 選択的夫婦別姓の議論にあっては、そもそも婚姻制度自体を‘前時代的’なものと見なし、一夫多妻制や多夫多妻性を将来的な消滅をもって近未来の先端的な人類を描く急進的な人々もおります。しかしながら、上述した生物進化や人類史的な観点に照らしますと、同方向性は、進化ではなく退行なのではないでしょうか。限りなく動物の世界に近づいているのですから。先に進んでいるように見えながら逆戻りさせられてしまうのは、メビウスの輪作戦とも言えますので、家族の在り方につきましては、より慎重な考察を要するように思えるのです。

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