万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新型コロナウイルスショックによる買いだめは合理的行動では?

2020年03月06日 13時31分03秒 | 国際政治

 新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の消費行動にも多大な影響を与えています。最初に起きた現象は深刻なマスク不足であり、店頭からあっという間に商品が消えてしまいました。次いで、感染予防とは触接には関係のないトイレットペーパー等の紙製品にも飛び火し、国民の多くが入手困難な状況に置かれることとなったのです。

 今なお続く消費者の買いだめ行動に対しては、新型コロナウイルスショックによって集団心理が煽られたパニックの一種とする否定的な見方が大半を占めています。とりわけトイレットペーパーに関してはデマの拡散が原因とされており、発信元となった人物まで特定され、ネット上で袋叩きにされる事態ともなりました。こうした状況を重く見た政府並びに製造業者も、必要な供給量は確保できているとして、国民に対して冷静に対応するよう呼び掛けています。しかしながら、買いだめに走る消費者の行動は、実のところ、合理的な判断に基づいているのではないかと思うのです。その理由は、今般の新型コロナウイルスに発するモノ不足については、長期的な不足状態の継続を予測させるだけの合理的な理由があるからです。

 第1の理由は、中国の現状です。日本国内で最初に始まったマスク不足は、発生源国となった中国に原因がありました。同国では、武漢のみならず他の都市も封鎖措置がとられたため、深刻なマスク不足に陥ったのです。このため、日本国内での感染拡大が始まる以前にあって、既に在日あるいは訪日中国人によってマスクが大量に同国に送られていました。中国への転売を目的とした買占めは、マスクに限らず、他の感染予防関連の商品にも及んだことでしょう。実際に、日本国内で騒ぎとなる以前から、市内の一般のスーパーマーケットでも除菌グッズなどを大量に買い占めている人物が目撃されています。この現象から合理的に推測されるのは、中国において封鎖、並びに、生産活動の停滞が長期化するにつれ、感染予防関連の商品のみならず、日常生活において一定量が必ず消費される他の日用品についても、同様の事態が起きるのではないか、とするものです。

第2の理由は、日本国内では、多くの消費者が日用品の殆どが中国からの輸入に依存していると信じている点です。実際に日本国内で販売されているマスクの約8割は中国製品であり、他の製品についても同様に考えてもおかしくはありません。

 第3に挙げられる合理的な理由は、パルプ需要拡大です。トイレットペーパーの品不足については、‘マスク生産に原料のパルプが優先的に供給されるため、他の紙製品が不足する’とするデマが元凶とされています。しかしながら、この‘デマ’、‘嘘から出た実’になる、あるいは、本当になる可能性も否定はできません。何故ならば、全世界的にマスクの増産と供給が至上命題になっているからです。上述したように、中国はマスクの一大生産地です(マスクに関しては、中国からの輸入激減で当然に品不足になる…)。しかしながら、原料となるパルプや再生パルプは輸入に頼っており、今後、凡そ14億の中国国民が毎日マスクを消耗品として使用するとしますと、中国一国だけでもその量は膨大です。現状では、日本国のパルプの輸入依存度は凡そ17%程度ですが(主要な輸入先はアメリカ、カナダ、ブラジル…)、日本国内でも需要が拡大する中、国際商品市場においてパルプの需要が急増し、日本国にあっても海外勢、特に中国勢に買い負けて不足をきたす可能性もないわけではないのです。

 第4の理由は、値上がり予測です。品薄状態を背景に、マスクをはじめとした様々な関連商品の高値販売が既に報告されています。加えて、上述した国際商品市場におけるパルプ需要の高まりによる価格上昇が起きれば、これらの商品は、今後とも値を上げてゆくことでしょう。将来的な値上がりが予測される場合、消費者は、価格が安いうちに大量に買いだめておこうとするものです。

 第5の理由は、誰もが自らも感染者となり、二週間の隔離措置、あるいは、外出自粛措置を受ける可能性がある点です。日本国内での感染者は遂に1000人を越えましたが、実際には、桁違いの感染者が存在しているのではないかとする指摘があります。既に相当範囲に感染が広がっているとすれば、自覚症状はないものの自らもどこかで感染している可能性があり、2週間の隔離は他人事ではなくなります。感染した場合を想定すれば、凡そ2週間分の生活必需品をストックすることは、万が一に備えた合理的な行動となりましょう。

 そして第6に挙げられる理由とは、日本国政府も、中国と同様により強硬な封鎖措置をとる可能性です。仮に中国レベルの外出規制が導入されれば、日本国民もまた、日常のお買い物にも支障を来たし、日用品の入手も困難となります。また、生産活動も停止状態に至れば、これまで使用してきた愛用品も簡単には手に入らなくなるかもしれません。長期に及ぶ自宅での引きこもり生活が予測される場合、できる限り備蓄を増やそうとする行動は理解に難くありません。

 アメリカやオーストラリアでも同様の現象が起きており、‘デマ’の有無は関係がないのかもしれません。このように考えますと、今般の国民の行動は危機感に駆られたパニックというよりも、一斉に合理的な行動に走った結果と言えましょう。そしてこの問題を解決するには、国民が冷静さを取り戻せば済むというわけではなく、予期せぬ事態の発生や、外部環境の急激な変化に対応し得るよう、硬軟を取り混ぜて日本経済の柔軟性を高めてゆく必要があるのかもしれません。買占めや転売、並びに、海外への優先的な輸出に対しては厳しく対処すべきですし、輸入パルプの減少と価格上昇予測に対しては、先を見越して国内で生産可能な再生パルプの利用に切り替えるといった措置も考えられましょう。如何にすれば、国民生活へのマイナス影響を最低限に止め、かつ、日本経済を維持し得るのか、日本国政府、並びに、企業を含めた日本国民の力量が問われているように思えるのです。

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2 コメント

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嘘ばかり言っている総理ですから (Unknown)
2020-03-06 15:15:25
 国民は信用していないのですよ。トイレットペーパーは十分あると言っても、「ま、嘘だろう、とりあえず、みんなが買うから私も買う」となっているのでしょう。我が家は三か月分ぐらいは、いつもストックがあるので便乗せずに済みます。マスクはそれほどないけど、作ればよいし。韓国人はブーブー言うけどチャイニーズは自作もしている。日本人や韓国人よりもチャイニーズはタフなので、なければなんとかするでしょう。
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Unknownさま (kuranishi masako)
2020-03-06 20:58:18
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 個人の努力では限界がありますので、長期的影響、並びに、経済全体を見据えた対応を要するのではないかと思います。
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