2011年3月の東日本大震災を機に発生した福島原子力発電所における事故は、今日、新たな問題を巻き起こしています。それは、同施設で貯蔵されてきた処理水の海洋放出問題です。放射性物質を除去する処理を施したとはいえ、水素の放射性同位体であるトリチウムを取り除くことができないため、放射性物質によって海洋が汚染されるとして、中国や韓国から批判の声が上がったのです。中国に至っては、日本産の水産物の禁輸にまで及んだのですから、処理水放出問題は東アジアにおいて紛争要因と化した観さえあります。しかしながら、現下の国際情勢からしますと、この問題、巧みに計算されていたのではないかと疑うのです。
処理水放出問題に端を発する日中関係の悪化は、おそらく台湾有事を発火点とする第三次世界大戦への誘導を目的とした両国を対象とした世論作戦の一環なのでしょう。戦争を富と権力を掌握する手段としてきた世界権力にとりましては、何としても戦争を起こす、あるいは、双方を扇動して軍事的緊張を高め、自らの野望を達成したいところなのでしょう。このためには、日中両国において相手国に対する敵対心や憎悪を高める何らかの切掛を造る必要があったはずです。普仏戦争を前にして宰相ビスマルクがエムス電報事件を画策したように、意図的な反○○感情の誘発は、国民を戦争に誘導するための常套手段です。
日本国側からしますと、IAEAは安全性について問題はないとしていますし、汚染大国の中国や韓国に批判される筋合いはない、ということになります(中国や韓国の原発が放出する汚染水の方が余程高い濃度で放射性物質を含んでいるとも・・・)。特に核保有国である中国は、核実験をも実施してきた黒歴史があり、ロマンに満ちたシルクロード周辺の地域も、今では放射性物質で汚染されているそうです。日本国内にあっては、処理水問題は、中国や韓国からの‘言いがかり’となりますので、反中感情が高まる契機となり得るのです。
その一方で、習近平国家主席が独裁的な地位にある中国にあっては、世論誘導はより簡単です。かつて尖閣諸島の国有化に際して中国にて激しい反日暴動が起きましたが、これは、政府主導の‘官製’であったと指摘されています。今般も、SNSにおいて日本国を糾弾する過激な動画等が投稿され、しきりに反日感情を煽っているそうですが、この動きの背後にも、中国政府による組織的なネット工作活動があるのでしょう。それが演出であれ、中国側は、国民が怒り狂っている様子をアピールするだけでよく、対日批判の口実さえ得られれば、台湾有事に日本国を巻き込むための路線を敷くという目的は達成されるのですから。因みに、上海において東京の976倍の放射線量が測定されたという微博への投稿は、程なく削除されたそうです。
使い古された手法である故に、今般の処理水放出問題に際しても、まずもって台湾有事が頭に浮かぶことにもなったのですが、実際に、元統一教会との関係が疑われる自民党の政治家や識者等を中心に、こことばかりに報復としての対中制裁の実施など、勇ましい発言も聞かれます。その一方で、左派側でも、中国に呼応するかのような発言も散見されるのです。
そして、上述した計算高さは、この問題選択の巧妙さにこそ見出せます。世界権力としては、コントロール可能なレベルでの反中並びに反日感情の高揚を狙ったはずであるからです。つまり、国民感情が爆発するような問題ではなく、双方に言い分のあるような‘ほどほどの問題’が望ましいのです。例えば、日本国内で‘罪のない中国人旅行客に集団で危害が加えられた’、とか、あるいは、逆に‘中国国内で日本人が組織的に虐殺された’といった深刻かつ残虐性が明白な問題であれば、被害国側の国民感情は黙っていても沸騰し、上から制御できるレベルを越えるかもしれません。特に中国では、反日暴動が共産党一党独裁体制の打倒、すなわち、反体制運動へと転じる可能性もありますから、反日運動もリスク含みなのです。この点、処理水の放出問題であれば、目に見える即時的な被害があるわけでもなく、かつ、双方に相手国を批判し得るという相互性がありますので、打って付けなのです。しかも、中国において反米感情が湧き上がるわけでもなく、中国の反感は日本国のみに向けられるのです。
このように推理しますと、日本国民は、処理水海洋放出問題については冷静に対応し、政府やメディアによる世論誘導には大いに警戒すべきと言えましょう(三次元的な視点が重要・・・)。第三次世界大戦の足音は、既にすぐ近くまで聞こえてきているかもしれないのですから。そして、仮に日本国政府が世界権力の‘僕’であるならば、処理水の放出には、公式の説明とは異なる別の意図が隠されている可能性も否定はできないようにも思えてくるのです。