万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

過渡期の安全保障政策とは-指向性エネルギー兵器の出現

2023年08月31日 09時39分47秒 | 国際政治
 極めて近い将来において、開発競争を経て指向性エネルギー兵器は実用化されることでしょう。そして、同兵器の登場は、核兵器をも越える脅威となり、人類を地獄に突き落とすかもしれません。しかしながらその一方で、使い方を間違えない、即ち、防衛兵器に特化、限定すれば、人類を戦争の恐怖から完全に解放する可能性をも秘めていると言えます。何れにしても、現在はまさに核兵器を主軸とするNPT体制から別の体制へと移る過渡期にあり、人類は重大な岐路に立たされていると言えましょう。

 そして、過去と現在と未来が混在する過渡期ほど、不安的な時期はありません。過去の延長線上において現在の事柄を決断することができない一方で、未定の未来のみを想定してこれを決めることもできないからです。言い換えますと、過去と未来との狭間にあって、過去に対応しつつ、未来が望ましい状態となるように、賢明なる行動をとらなければならないからです。国際社会における安全保障の分野に当てはめれば、第二次世界大戦末から続く核の脅威、即ち、属国化をも伴いかねない核兵器国による核の使用や威嚇に対処しつつ、未来については、指向性エネルギー兵器を平和目的に限定するという困難な作業を同時に進めなければならないこととなります。

 それでは、各国は、どうように対処すべきなのでしょうか。指向性エネルギー兵器が実用化されていない現段階にあっては、核の脅威は消えてはいません。同兵器が防衛兵器として全世界の諸国に拡散した時点で、はじめて人類は、核の脅威から解放されるのです。このことは、指向性エネルギー兵器の出現、否、その防衛目的への限定が実現する日を待っていたのでは、現在の脅威を取り除くことはできないことを意味します。

NPT体制が如何に脆弱であって、違法並びに不法な核保有国を含めて核を手にする諸国に対してのみ、絶対的な安全並びに攻撃力を与えていることは言うまでもありません。中小の非核兵器国は、いわば、核兵器国に対して無防備の状態に置かれたままなのです。東南アジアや中央アジア等の各地域で締結されている非核兵器地帯条約も、これらの諸国の安全を保障するのではなく、核兵器国優位体制であるNPT体制を強化しているのが偽らざる現状です(南シナ海における中国の東南アジア諸国に対する傍若無人ぶりも説明し得る・・・)。

また、核兵器国の同盟諸国に提供される‘核の傘’も、核のボタンが核保有国のトップが握っていますので、必ずしも開くとは限らず、むしろ、非核兵器国の同盟国が核攻撃を受けたとしても、自国が核の報復を受けるリスクを負ってまで核兵器で反撃しようとはしないことでしょう。また、‘核の傘’の提供は、自国の安全保障の核兵器国への全面的な依存を意味しますので、主権平等の原則も形骸化してしまうのです。軍事のみならず、政治的属国化をも招くのですから、核の傘の提供を受ける非核兵器国は、‘仮想敵国’のみならず‘同盟国の脅威’にもさらされているのです(核の寡占体制は、世界権力の人類支配構想の一環なのでは・・・)。

以上の現状分析からしますと、目下、過去と未来を見据えて各国が進めるべきは、当面における核兵器国に対する抑止力としての核武装、並びに、防衛型指向性エネルギー兵器を用いた安全保障体制の同時並行的な追求のように思えます。後者が完成すれば、無用の長物と化した前者の核兵器を廃絶しても問題はありません。この観点からしますと、アメリカも同盟国の政治的独立を望まないことでしょうから、日本国政府も、同国との間の共同プロジェクトである極超音速ミサイル迎撃システムの開発に資源やコストを費やすよりも、地上配備型の防衛兵器として独自に指向性エネルギー兵器並びにより性能に優れた監視衛星の開発に取り組むべきかもしれません。また、同時に、国際社会に対しては、指向性エネルギー兵器を防衛目的に限定するための条約の制定について賛同国を募ったり、同条約の草案を作成するなど、積極的な働きかけを要しましょう。過渡期を賢く乗り切ることができれば、人類には、世界権力が描くものとは違う未来が訪れるのではないかと思うのです。

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