万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国国民による反体制デモの吉凶

2022年11月29日 10時39分44秒 | 国際政治
 厳格な情報統制が敷かれ、徹底した国民監視体制を整備してきた中国において、遂に習近平国家主席並びに共産党一党独裁体制の退陣を求めるデモが起きたそうです。現体制の幕引きを求める声とは、即ち、自由化並びに民主化を求める声に他ならず、天安門事件以来の反体制運動とする指摘もあります。その背景には、新型コロナウイルスの感染者数をゼロに封じ込めようとする習政権強硬政策があるのですが、同運動、吉と出るのか、凶と出るのか、現段階では判断が難しい状況にあります。

習政権が推進してきた‘ゼロ・コロナ’とは国民向けの表向きの理由に過ぎず、その真の目的は、国民管理体制の一層の強化であったかのもしれません。感染者や陽性者に対する隔離政策は、あたたかも自宅軟禁や強制収容所への収監の如くであり、‘ゼロ・コロナ’は、国民を監獄に閉じ込めるための絶好の口実です。‘国民の命を感染症から守るため’と称しつつ、その実態は、‘習近平独裁体制を国民から守るため’であったのかもしれないのですから。しかも、目下、中国では不動産バブルの崩壊も懸念されており、経済成長も著しく鈍化しています。若年層の失業率も20%台ともされ、自らの将来に絶望した人々が、権力も富も一部の特権階級が独占する現体制の打破を目指してもおかしくはありません。今後、同運動がさらなる拡大を見せ、多くの国民が参加、あるいは、賛同する中で国民を独裁者や共産党による圧政から解放し、民主主義体制へと転換する契機ともなれば、同運動は、民主国家中国の出発点ともなりましょう。

中国が民主化されれば、国際社会もまたチャイナ・リスクの低下に安堵するのですが、こうした‘吉’となる展開が期待される一方で、中国は、権謀術数に長けた国であり、かつ、外部からの狡猾な‘入れ知恵’も推測されますので、それなりの警戒も必要なように思えます。最大の懸念材料は、同運動が、習政権あるいは世界権力の‘罠’もしくは‘カバー・ストーリー’である点です。

第1の可能性は、習主席をはじめとした体制派が、敢えて反体制派の国民や不満分子を炙り出し、一網打尽に排除するために、その‘おとり’としてデモを仕組んでいる、あるいは、内部からコントロールしているというものです。この場合、弾圧の手はずは既に整えられており、天安門事件や香港での経緯と同様に、抗議運動が一定の段階まで進行した段階で、人民解放軍の投入も辞さずの構えでデモ参加者の人々を一掃してしまうことでしょう。天安門事件でも、学生側の組織内部に工作員が送り込まれており、事態がエスカレートする方向に煽ったとされます。

第2に、同運動もまた、‘カラー革命’の様相を呈しています。今回は、自由を象徴するとして白色が選ばれていますが、‘オレンジ革命’や‘パープル革命’といった特定の色に反体制や共闘の意味を持たせる‘カラー革命’の背後には、しばしばソロス財団といった世界権力が潜んでいると指摘されてきました。今般の反体制デモが‘白色革命’であれば、その狙いは、民主的で安定した新生中国の誕生ではなく、利権を漁るに好都合な長期的な混沌・混乱状態であるかもしれません(もっとも、敢えて’無カラー’の白を選んだ可能性、あるいは、共産主義の’赤’への対抗という可能性も・・・)。たとえ‘白色革命’が成功し、共産党一党独裁体制が崩壊したとしても、いつまで経っても民主的制度が整わず、国民が自由も安定した生活も享受できないという事態も想定されるのです。

第3に、反体制デモの首謀者が、独裁体制を強化したい習国家主席であれ、体制崩壊に導きたい世界権力であれ、そして、両者の共謀であれ、その目的は、戦争への導火線を引くことである可能性もあります。これは、カバー・ストーリーのための‘アリバイ造り’とでも表現すべき策略であり、‘国民の不満を外部の敵に向けるため’と称して戦争を始めるというリスクです。奇妙なお話なのですが、国情が不安定な国家が、死活的な国益の衝突がないにもかかわらずに戦争に訴える場合、‘国民の不満が高まったから’とする説明に納得してしまう人は少なくないのです。

これらの3つのケースの場合、反体制デモは‘凶’となるのですが、もう一つ、吉凶のどちらとも付かないケースがあるとすれば、それは、先の共産党全国大会にあって、習主席によって失脚を余儀なくされた胡錦濤派(共青団)、あるいは、江沢民派(上海幇)による巻き返しである可能性です。天安門事件の激化も、民主派とされた胡耀邦氏の死去を機としており、胡錦濤前主席はかつて胡耀邦氏を後押ししていただけに、この線もあり得るように思えます。指導層内部の権力闘争が絡んでいるとすれば、国民の支持、あるいは、アメリカをはじめとした諸外国の対応次第では、天安門事件とは異なる展開となるかもしれません。

以上に、中国で発生した反体制デモについて述べてきましたが、‘凶’とならないためには、事態の慎重な見極めを要しましょう。現体制を変えたいとする中国国民による自発的な参加やサポートが増え、かつ、罠や外部からの工作に対する警戒を怠らずに賢明な行動を心がけるほど、‘吉’と出る可能性は高まります。中国の国民には、自らの手で自由と民主主義を勝ち取っていただきたいと願うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ロシアによる日本攻撃計画を読む | トップ | 防衛には合理性の徹底が必要... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事