万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”王様は裸だ”と語ってしまった梁香港行政長官

2014年10月24日 15時08分48秒 | アジア
道路占拠現場で投票へ=政府提案で香港民主派(時事通信) - goo ニュース
 海外メディアとのインタヴューで、香港の梁行政長官が述べたとされる民主化反対の理由。梁長官は、このインタヴューの席で”王様は裸だ”と正直に語ってしまったのではないかと思うのです。

 梁長官の説明によれば、選挙の民主化に反対する理由とは、民主派の要求を受け入れれば”貧困層や労働者が決定権を持つことになるから”というものです。ところが、中国の国家イデオロギーである共産主義思想は、まさに長官が排除を明言した貧困層や労働者が権力を独占し、プロレタリアート(労働者)による政治を実現することを理想として掲げています。否、共産党一党独裁の正当性は、プロレタリアート独裁に支えられていると言っても過言ではないのです(労働者が決定権を持つために共産革命を起こしたはず…)。北京の共産主義政権を後ろ盾としている長官が、”王様”、つまり、共産党の真の姿を語ってしまったのですから、これは、驚くべきことでもあります。もちろん、梁長官のみならず、中国共産党による現在の一党独裁体制が、”労働者のための、労働者による、労働者の政治”を体現していると信じる国民はもはや殆どいません。国民は、”王様”が言うことを信じている”ふり”をしているに過ぎないのです。誰もが”王様は裸だ”と正直に言うことを憚り、口を噤んでいるだけなのです。こうした中、梁長官は、明確、かつ、簡潔に共産主義の真の姿を指摘したのですから、このあまりにストレートな発言に顔が青ざめたのは、むしろ北京政府ではなかったかと憶測するのです。着ていたはずの”プロレタリアート独裁”という王位を示す衣装が、消えてしまったのですから。

 北京政府の代理人と化した梁長官の一言が、共産主義政権の実態を明らかにしたことは、あまりに皮肉なことと言わざるを得ません。あるいは、この発言、北京政府を擁護している見えながら、香港人として北京政府に向けた、梁長官の隠れた抵抗であったのでしょうか。

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2 コメント

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Unknown (ねむ太)
2014-10-24 22:24:39
こんばんは。「貧困層や労働者が決定権を持つ事になるから」この言葉こそが20世紀の共産主義国の実態をそのまま表しているといえると思います。
ソ連も中国も一部の富裕層に富が集中し、政治権力や発言権を持っている。
一般の労働者や貧困層は、思想・言論統制を受け言動は、政府の監視機関によって厳しくチェックをうけ、違反した場合は収容所か最悪の場合は死刑。
労働者が主人公の政治・・などは理想論であり、実際は誰がより多くの権力と富を得るかの奪い合い、労働者はその為の道具にしか過ぎない、というのが共産主義の現実ではなかったでしょうか。
計画経済政策は破綻し、庶民は豊かになる事もなく、文化は何一つ生み出せないままにソ連と東欧の国々を舞台に展開された共産主義という社会実験は破綻しました。
中国は本当に共産主義なのでしようか、一応、共産主義を名乗っていますが実際には、中華思想そのままの体制ではないかと思います。
中国共産党という皇帝がいて、人民は皆平等に奴隷。
これならば、経済開放と称して欧米の企業や資本を受け入れた事も理解できるのです。
ソ連の崩壊は、一台の電卓から始まりました。
日本企業が東南アジアの工場で作った電卓、それを手にした共産圏の人は「ソ連では、此のような物は作れない」と嘆いたそうです。
此のような小さな事の積み重ねが共産主義の崩壊を招いたのですが、中国では欧米の企業が進出し資本が流入しても、それなりに対応しています。
どちらかと言えば、中国は新自由主義の未来を暗示しているのかも知れません。
新自由主義の行き着く先は、富裕層と民衆の間に埋めきれない経済格差が広がり、一部の選ばれたものだけが政治的な発言力を有し、労働者は正社員も派遣も同じ給与で働かされ、使えなくなれば解雇・・
新自由主義も基本になる理論は、実際には考えられない
机上の空論をもとにしています。
歴史上、完全雇用が実現した事は一度もありません。
新自由主義の柱の一つである完全雇用。
企業が倒産しても、すぐに同じ条件の仕事が見つかり無職の期間は無い、とする理論の上で構成されているのです。
先進国でさえ、失業者はいますし企業が倒産し新しい仕事を探すにしても、今までの経験が生かせるような仕事がすぐに見つかるわけでもないのが現実です。
中高年になればなるほど、仕事を探すのは難しい状態なのです。
完全雇用と言うならば、国民全てが国家公務員である共産主義と同じことです。
共産主義・新自由主義は人間は全てにおいて万能であり、一握りの天才が計画した事は全てうまく行く、という非情に傲慢な思想のもとに成立しているのです。
この部分は中華思想と重なる所があります。
此のような、一部の人間が全てを決するという思想と逆なのが民主主義であり、人間は不完全なものだから、より多くの人に参加の機会を与え智慧を求めようとする考え方でしょう。
より多くの人に政治に参加の機会を与えると共に責任を持ってもらう。
つまるところ、民主主義とは責任であると考えます。
梁行政長官の言葉「貧困層や労働者が決定権を持つことになる」だから民主的な選挙は駄目だと言うのならば、貧困層や労働者は何なのだ、という話になってしまい、中華思想そのままの奴隷であるという結論に達してしまうのです。
此のように歪んだ思想を持ち、利権によって私服を肥やすような人間を追放できるのも民主主義なのです。
香港の混乱が本土に飛び火し、民主化を求めるデモと東トルキスタンの祖国を取り戻す戦いを一番恐れているのは中共です。
中華思想・共産主義・新自由主義、此のように歪んだ思想は根絶されなければなりません。
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ねむ太さま (kuranishi masako)
2014-10-25 06:52:07
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 ある意味において、ソ連邦よりも、現在の中国の方が、経済力があるだけ、脅威となる可能性があります。ユダヤ・マネーとチャイナ・マネーが、新自由主義の共有の下で共闘するとなりますと、全ての諸国が、”グローバル化”という名の下で、”奴隷社会”となる可能性があるからです。中国は、歴史的には、遊牧系の民族による帝国体制が長く続きましたが(中華思想も異民族支配に由来しているかもしれない…)、ユダヤ人もまた、国をもたず、”遊牧系”であることを考慮しますと、このシナリオは、あり得ることです(実際に、既に手を結んでいるかもしれない…)。日本国も惰眠をむさぼることはできず、民主主義も、自由も、法の支配も、意識して守りませんと、失われてしまうと思うのです。
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