万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

エプスタイン事件の衝撃―‘情報で世界を制した者は情報によって滅びる’?

2024年01月10日 12時10分00秒 | 国際政治
 ‘情報を制する者は世界を制する’という格言があります。何事もがデジタル情報としてメモリーに記憶され、瞬時に発信される情報化時代にあって、この言葉は、真実を語っているように思えます。そして、まさにこの言葉があるからこそ、国家やIT大手、あるいは、これらの上部に君臨する世界権力による情報の独占が国民から危険視されているのでしょう。何故ならば、同格言は、情報を独占する者に対して‘世界を制する立場’を約束するからです。

情報技術が高度に発展した今日にあって、正真正銘の全体主義国のみならず、自由主義国にあってもデジタル全体主義の足音が聞こえてくるのですが、果たして、この情報独占による世界支配の試み、目論見通りとなるのでしょうか。仮に致命的な盲点があるとしますと、それは、情報を制する側の情報にあるように思えます。この点、今般発覚したエプスタイン事件は、極めて示唆的です。

第1に、エプスタイン事件は、司法の独立が、世界権力による情報独占の限界を示しています。仮に、同事件が、権力分立の原則のもとで制度的な独立性が保障されている司法機関によって明るみに出たとすれば、先ずもって、ジェフリー・エプスタインを含む世界権力は、情報の独占に失敗していることを意味します。実際に、犯罪に加わった著名人の名が明らかにされたのは、同容疑者の裁判過程においてのことです。この場合、権力分立を定めたアメリカの憲法が、人類の救い主であったことになりましょう。

第2に、スキャンダル情報に基づく恐喝という手法は、それが実際に使われる段となれば、自らも無傷ではいられなくなります。実際に入手した情報を暴露すれば、スキャンダル情報を支配の手段として使ってきた事実も明るみとなり、世界支配の‘からくり’も見えてしまうからです。言い換えますと、著名人達のスキャンダル情報は、自らのスキャンダル情報に転じてしまうのです。

第3に、世界支配を目的であったからこそ、権力を有する政治家や社会的影響力のある有力者がリストに名を連ねることとなったのですが、エプスタイン情報は、世界各国の国民に深刻な政治あるいは権威に対する不信をもたらします。国民の多くが、外部勢力によって自国の主権が侵害され、民主主義をも歪められている実態に気がつくことになるのですから、各国政府やメディアも信頼が失墜する事態に直面します。同メカニズムが思惑通りに機能するのは、国民が政治家に信頼を寄せ、民主的選挙制度に対して疑いを抱いていない期間に過ぎません(マイナス情報が隠蔽されている間は、国民を騙すことができる・・・)。ところが、情報を制する側において明るみとなったマイナス情報は、各国の国民の政府に対する信頼という世界支配の基盤を根底から壊してしまいます。

 そして第4に指摘し得るのは、同仕組みが表沙汰となった以上、以後、もはや同様の手法を使うことが出来なくなる点です。身の破滅を招きかねないのですから、今後は、誰もが騙されないように警戒することでしょう。世界権力の‘駒’となることの危険性が広く知れ渡れば、同メカニズムも自ずと消滅せざるを得なくなるのです。

 以上にエプスタイン事件のもたらす影響に関する主要な諸点について述べてきましたが、同システムが、現代のみならず近代以降において世界権力による世界支配を支えてきたとしますと、今日の人類は、歴史的な転換点を迎えているのかも知れません。‘情報によって世界を制した者は情報によって滅びる’とする新たな格言が登場しそうな気配がするのです。

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