万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ紛争は局外中立を宣言すべきでは

2022年10月28日 10時52分11秒 | 国際政治
今年の2月18日に始まるロシア軍のウクライナへの進軍は、ウクライナのみならず自由主義諸国によって国際法に違反する‘侵略’と認定されています。このため、大半のマスメディアは、ロシアを強く批判し、同軍事行動に対しても侵略や軍事侵攻、即ち、‘侵’の一文字を用いてその違法性を強調しています。国連憲章では、紛争の平和的解決を加盟国に義務づけると共に内政不干渉を定めていますので、ロシアの軍事行動は、人道的介入であったことが証明されない限り、手段としては国際法に反していると言えましょう。また、同軍行動に伴ってブチャ等で住民虐殺などが行なわれたのが事実であるならば、戦争法にも違反することになります。

もっとも、ウクライナ紛争の本質が、ロシア系住民が多数を占める東部の分離・独立問題である点を考慮しますと、ロシアの軍事行動を領土拡張やウクライナの征服を目的に純粋にウクライナに対する奇襲的侵略と見なし難くなります。既にウクライナからの分離・独立を求める親ロ派武装勢力を交戦団体とする内戦状態にあったのですから、事実の検証は後日としても、ロシア系住民の保護を口実とした同国に対するロシアの軍事介入とする見方の方が事実に即しています。すなわち、民兵から昇格した極右組織であり、過激な行動を繰り返し、東部地域のロシア系住民に攻撃を加えたアゾフ連隊の存在が、ロシアに介入の口実を与えたからです。そして、このアゾフ連隊が、ウクライナにとりまして獅子身中の虫なのか、それとも同国を挑発するための鉄砲玉であるのか、何れの可能性も否定はできないのです。

このようにウクライナ紛争の主因は、国内における多民族混住地域における分離・独立運動にあるのですから、国際社会は、一国の内戦が世界大戦へと拡大しないよう、適切かつ賢明な措置をとるべきです。同紛争が第三次世界大戦へと発展した場合、核戦争を招くリスクは高く、愚かしい人間による人類滅亡の悲劇が目前に迫っているかもしれないのですから。そして、世界大戦へのドミノ倒しのメカニズムが、二国間並びに多国間の軍事同盟に必然的に内在している点に注目しますと、まずは、北大西洋条約をはじめとした同盟条約が締約国に義務付ける集団的自衛権の発動を止める必要がありましょう。

ウクライナ紛争が集団的自衛権の発動条件に当てはまらないとなれば、当然に、集団的自衛権は発動できなくなります。この点、ウクライナはNATOのメンバーではありませんので、同盟条約に基づく集団的自衛権の発動対象とはなりません。同条約の第5条は、個別的股は集団的自衛権の発動要件に関して「締約国は、欧州または北米における一または二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃と見なすことに同意する。・・・」と記し、締約国のみに適用されることを明記しています。NATOは既に参戦の準備を始めているようにも見えますが、国際法に従えば、ウクライナに対して集団的自衛権を発動することはできないはずなのです(もっとも、ユーゴスラビア紛争では、NATOは人道的介入を実施している・・・)。もちろん、日本国もウクライナとの間に如何なる軍事同盟関係もありませんので、ウクライナに対して自衛隊が援軍する義務はありません。

 国連憲章が認める集団的自衛権は、ロシアが直接にNATO加盟国を攻撃しない限り、現段階では発動の法的根拠が欠如しています。となりますと、次なる措置は、ロシアがウクライナ以外の諸国を攻撃しないよう、先手を打つこととなりましょう。そして、その先手こそ、当事国以外の他の諸国による局外中立の宣言ではないかと思うのです。

今日、アメリカを含むNATO諸国はウクライナ側に味方する形で軍事支援並びに対ロ制裁を行なっています。NATOの動きに日本国も小規模ながら追随しているのですが、NATOがウクライナの後ろ盾となることは、軍事同盟条約の連鎖的発動が世界大戦をもたらした第一次世界大戦の再来ともなりかねません。セルビア人一青年がオーストリア皇太子夫妻暗殺したサラエボ事件が世界大に戦火を広げたのは、当時、オーストリアの背後にはドイツが、セルビアの後ろにはロシアが控えていたのですから。

一方、NATO諸国や日本国を含む他の諸国が局外中立を宣言すれば、ロシアは、これらの諸国を攻撃する口実を失います。これと同時に、連鎖的に世界大戦に巻き込まれるリスクが著しく低下しますので、NATO諸国の国民も日本国民もそして局外中立を宣言した全ての諸国の国民にも、三度目の世界大戦を回避する道筋が見えてきたとして安堵感が広がることでしょう。局外中立宣言には、他の諸国を戦場から引き離し、集団的自衛権の濫用を封じる効果が期待されるのです。

もっとも、当事国以外の諸国が局外中立を宣言すれば、軍事大国であるロシアの圧倒的な軍事力を前にしてウクライナの敗北は凡そ決定的となります。このため、‘ウクライナを見捨てるのか’という批判も当然に予測されましょう。局外中立の宣言は、必ずしもロシアの放置を意味しているわけではありません。実際に、何れかの軍隊によって住民の虐殺行為が行なわれているのであれば、住民保護の範囲で警察力として軍事力が使用される必要がありましょうし、東部地域の分離・独立問題は、平和的かつ合法的に解決されるべきことです。こうした残された問題については、国際警察活動あるいは平和的紛争解決制度の創設という形で進めることができれば、人類は、世界大戦の呪縛を解くことができるかもしれません。何れにしましても、局外中立宣言は、平和的な紛争解決に向けた仕切り直しという意味において、有望な選択肢の一つではないかと思うのです。

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