万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の不動産バブルは日本国に波及する?

2021年09月27日 12時40分14秒 | 日本経済

ここ数日、中国の大手不動産である中国恒大集団の株価の値動きが全世界の注目を集めています。それもそのはず、総額で33兆円を超えるともされる莫大な債務を抱えている同社が利払いに行き詰れば、デフォルトの事態も予測されるからです。しかも、リーマンショック時におけるリーマンブラザーズ社と同様に、同社は、中国の不動産バブルの象徴でもあります。近年、中国の不動産価格は一般市民の手の届く範囲を遥かに超えており、広東省深圳市に至っては平均年収の凡そ58倍に跳ね上がっているそうです。中国のシリコンバレーとも称される深圳市ですので、IT富豪や高所得エリート社員等が居住しているのでしょうが、都市部への不動産投資の集中は、投資ではなく’投機’によるバブルの状況を呈していたのです。

 

そして、恒大集団問題の背景の一つとして、習近平国家主席が唱え始めた「共同富裕論」が指摘されています。貧富の格差拡大が留まるところを知らない中国では、大多数の国民が不動産価格の高騰を含めて現状に不満を抱いており、それが、何時、共産党批判へと向かうか分からないからです。つまり、政治介入によるバブル崩壊の足音が聞こえてきていると言えましょう。

 

 それでは、中国の不動産バブルとその崩壊は、日本国にも波及するのでしょうか。先ずもって、近年の中国の不動産バブルは、日本国内の不動産市場にも及んでいるようです。例えば、長引く不景気によって売れ行きが鈍っていた首都圏のタワーマンションや高級マンションの空き室の多くが、海外資産として中国人富裕層によって購入されているそうです。また、コロナ禍にあっては、移動規制によって観光客が減少した観光地が狙われており、京都の老舗旅館や町家、並びに、熱海等の温泉地などの多くが、中国人の手に渡ったとされています。大挙して押し寄せてきた中国人観光客は激減しても、マネーは国境をたやすく越えますので、日本の不動産市場にも中国の不動産バブルが押し寄せていたと言えましょう。

 

 中国不動産バブルが日本国内にも波及していたとしますと、同バブルが崩壊した場合、当然に、日本国内にも影響が及ぶはずです。中国人富裕層によって買われていたマンション等には売却の動きが広がるとも予測され、都市部を中心にマンション価格も下落傾向に転じることでしょう。そして、観光地において買い漁られていた宿泊施設や温泉地なども、手放さざるを得なくなるかもしれません。もっとも、こうした影響は、日本国民からしますと、入手しやすいレベルまで不動産価格が下がることを意味しますし、日本らしさが資源となる観光地の保全にとりましても、旧経営者による安値による買戻し、あるいは、日本人事業者による購入のチャンスともなりましょう。

 

 その一方で、中国の不動産市場に投資を行ってきた日本の金融機関は、戦々恐々とならざるを得ないかもしれません。先ずもって恒大集団の破綻問題で明るみになったのは、GPIFによる同社の株式保有です。運用額としては凡そ96億円程度とされていますが、日本国民の命綱である年金基金が中国企業をも投資先としていたことは、多くの国民にとりましては寝耳に水ではあったことでしょう。GPIFの判断の是非については今後議論すべき課題となりますものの、同社が破綻すれば、当然にGPIFの損失となります(日本国民の損失でもある…)。加えて、投機目的で中国の不動産バブルに’参加’していた日本国の民間金融機関があれば、中国の金融機関ほどではないにせよ、バブル崩壊による損失を被ることになります(不良債権問題の発生…)。なお、中国発の世界恐慌の再来も懸念されていますが、日本国内の一般企業にまで及ぶ連鎖的なマイナス影響については、日本の金融機関による対中投資額、諸外国の金融機関が被る損失、バブル崩壊後の中国経済の下落レベルなどによって、違ってくることでしょう。

 

 これまでのところ、恒大集団は利払い期限を延期するなど、軟着陸を目指す様子を見せており、株価も持ち直しを見せています。もっとも、急落の直前には、投資家による逃避の時間稼ぎのために安心材料が報じられるとの指摘もあり、楽観視はできない状況にあります。言い換えますと、日本国もまた、中国マネーの国内不動産市場への流入、並びに、日本の金融機関による対中投資によって、それが、プラスであれ、マイナスであれ、バブル崩壊の影響を受けざるを得ないこととなりましょう。

 

なお、ここで若干、注意を要する点は、中国における不動産バブルの主役が金融機関ではなく不動産会社である上に、バブル崩壊の‘下手人’が国家主席である点です。この側面は、日本のバブル崩壊とも、リーマンショックとも異なっているのですが、先日、ロイター?配信の記事にあって(配信元の記憶が定かではありません…)、恒大集団に対して不動産の引き渡しを要求しているものがありました。誰が要求しているのか、といった点に関する詳細な説明はなかったのですが、不動産取引に際する融資には、通常、抵当権が付されます。このことは、恒大集団の破綻に伴って、土地の‘所有権の大移動’が発生する可能性を示唆しています(中国の場合は、正しくは土地の所有権ではなく使用権…)。果たして、中国の膨大な不動産に関する権利は、最終的に誰の手に渡るのでしょうか。上述した「共同富裕」の一環としての習政権による私権消滅の兆しなのでしょうか、共産党幹部の一部がほくそ笑むのでしょうか、それとも、外資系金融機関の餌食になるのでしょうか。舞台が共産党一党独裁国家である故に、バブル崩壊の行く先を見極めないことには、日本国への長期的な影響にてついては、正確に予測することは難しいのではないかと思うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新首相に期待されているのは... | トップ | ’開国’とは素晴らしいことな... »
最新の画像もっと見る

日本経済」カテゴリの最新記事