万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ヤフー・LINE統合問題-デジタル時代は‘財閥支配’の時代?

2019年11月15日 18時30分00秒 | 日本経済
先日、ネット検索大手の一角を成すヤフーと日本国内のメッセージアプリ事業をほぼ独占しているLINEとの統合案が公表されました。統合の目的としては金融サービス部門での投資の効率化等が挙げられていますが、この統合案、スムースに実現するとは思えないのです。

 グローバル化の時代とは、民営化の時代であると共にデジタル化の時代でもありました。これらの3つの新しい波は一体化するかのように全世界を覆ったのですが、それは同時に、財閥化の時代でもあるのかもしれません。日本国では、戦後にGHQの手によって財閥解体がなされ、経済は‘民主化’されています。こうした経緯もあって、多くの人々は、集権的な財閥は過去の遺物であり、来るべき未来には、より自由で分散的であり、消費者や企業を含むあらゆる経済主体が伸び伸びと活動し得る経済ヴィジョンを思い描いていたことでしょう。そして、グローバリズムにこの未来の実現を託していたのです。

 しかしながら、しばしば理想と現実とは違うものです。否、メビウスの輪の如くに逆になることもあります。この点、近年の状況を観察しておりますと、グローバル化と共に分散化よりも集中化の方が遥かに高スピードで進展しており、新たな財閥が登場してきているのです。例えば、フェイスブックの行動を見ましても、デジタル通貨の発行を目論んだリブラ構想でも知られるように、本業のSNS事業で構築したプラットフォームを基盤として、他の事業へも幅広く進出しようとしています。一方、中国でも「スーパーアプリ」が急速な成長を見せており、テンセントの事業は、対話アプリ、ネット通販、決裁、動画配信、ゲームといったあらゆる分野に亘ります。

 こうしたプラットフォーマーの財閥化に関しては、データの独占問題もあり、近年、批判が頓に高まっています。アメリカでは、既に巨大IT企業であるGAFAに対する分割論も大統領選挙の争点に数えられ、日常的に利用される故に国民の関心が高いのです。競争法の世界では、一つ、あるいは、少数の企業が複数の分野に亘って広く事業を展開する‘財閥’の形態は、経済を支配し、競争を阻害する‘集中’として規制の対象となってきました(もっとも、日本国では財閥を解体した当のアメリカでは、既存の財閥に配慮して集中規制が緩いという問題もあったのですが…)。プラットフォーマーの強みを活かして事業分野を拡大し、そこから収集される様々なデータをも囲い込もうとする企業戦略は、公正公平であるべき競争において他の企業や起業家を不利な立場に置きますし、消費者を含む取引相手にも不利益を与えかねないからです。先日、ソフトバンクの孫正義氏が講演会においてデジタル社会は‘勝者総取り’と述べていましたが、実のところ、勝者による独り占めは競争法上の違法行為なのです。

かくして、少なくとも自由主義国における今日の潮流は、巨大IT企業に対する規制強化の方向性を示しているのですが、今般のヤフーとLINEの統合は、許されるのでしょうか。同統合には、アメリカがファウィエを排除した理由と同様に、LINE側が韓国企業であるネイバーの子会社であり、ソフトバンクグループのトップである孫氏も韓国系であることから、情報収集・管理に関する安全保障上の問題点もないわけではありません(ネイバーは反日を国是とする韓国政府に対して情報提供義務を負っている…)。政治的問題に加えて、やはり競争法上の集中が問題となる可能性は低くはありません。日本国でも持ち株会社が解禁され、持株会社が子会社を束ねる企業グループが多数出現しましたが、ソフトバンクグループは、携帯電話等の電気通信分野に加え、太陽光発電等の電力事業、投資事業など、企業買収を繰り返すことで既に巨大な‘財閥’と化しています(‘孫財閥’?)。LINEとの統合が実現すれば、SNSのプラットフォーム諸共LINE傘下の事業をも吸収することになりますので、経済支配力は一段と増すことになりましょう。

最近、日本国の公正取引委員会は、企業規模を主たる基準とする従来型の規制では十分には対応できないとして、データの価値を考慮するなど等の新たに審査指針を示し、デジタル・プラットフォーマーに対する審査を強化する方向性を示しております。事実上のソフトバンクグループによる買収を意味するヤフーとLINEとの統合案は(共同出資の新会社はソフトバンクの子会社に?)、金融サービス事業におけるライバル排除効果のみならず、経済支配を意味する集中問題をも含みますので、同委員会が、すんなりと承認するとは思えないのです。グローバル化がデジタルの世界における財閥支配を帰結するとしますと、警戒論が自ずと高まるのも無理もないのではないかと思うのです。

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