万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国暗黒大陸への予感―外国人入国者への規制強化

2020年03月16日 13時37分58秒 | 国際政治

 習近平国家主席の3月10日の武漢訪問は、全世界に向けた最後の仕上げとしての‘中国安全アピール’でもあったのかもしれません。今では立場が逆転し、‘疫病を克服した偉大な国家’を自認する中国は、海外からの入国者に対して二週間の待機措置を課しています。しかしながら、外国人入国者への規制強化は、防疫のみが目的ではないように思えます。

 仮に中国政府にもう一つの目的があるとすれば、それは、情報遮断であるのかもしれません。新型コロナウイルスが爆発的な感染を起こした理由は、早ければ11月の時点で最初の感染情報を得ていながら当局がこの事実を公表せず、隠蔽してきたところにあります。その後も国家ぐるみでの情報隠蔽がなされ、全人類を恐怖に陥れる今日の事態に至りました。このため、一党独裁体制の病理とも言える情報隠蔽体質に対する批判は高まるばかりなのですが、この外部からの批判、おそらく中国の耳に届くことはないように思えます。何故ならば、中国政府が隠したいことの数は、以前よりも増えている可能性が高いからです。

 そもそも、武漢における惨事や中国の現状については情報が極めて乏しく、情報隠蔽と情報操作を常としてきた中国政府発表の情報は信用することができません。また、感染者数や死亡者数すら怪しく(武漢上空の亜硫酸ガスの濃度から推定するしかない?)、真偽の混ざった様々な情報が交差しています。すなわち、中国国内で起きている出来事について、外部の人々は知るすべがないのです。例えば、今般の有毒ウイルスの流出元と目されている武漢のウイルス研究所についても、証拠隠滅のための爆破説が流される一方で、それを‘デマ’として打ち消すカウンター情報も流布されています。封鎖が解除され、外国人であっても現地を訪れることができさえすれば、同ウイルス研究所の如何は一目瞭然であり、情報の真偽は直ぐにでも判別できるはずなのです。もっとも、武漢は未だに封鎖は解かれていませんので、現時点では無理なのでしょうが、共産党幹部やその家族の感染情報もある首都北京や上海でも、当局が隠したい場所や事実は数多くあることでしょう。実際の被害の大きさを、外部者の誰も知ることができないという点において、新型コロナウイルス事件は、天安門事件をも彷彿とさせます。

情報公開が体制崩壊と同義となり得る中国共産党にとりましては、外国人が自国の情報を自由に入手し得る状況は悪夢なはずです。とりわけグローバル化が進展した今日では、中国から外部に発信された情報はネットや在外中国人等を介して中国国内に逆流してきます。こうした情報によって中国国民による政府批判が高まることが予想されるとなりますと、たとえ新型コロナウイルス禍が終息したとしても、中国政府が、メディアのみならず、如何なる外国人に対しても自由な取材や情報発信を許すとは思えないのです。

こうした中国の情報隠蔽願望を考慮しますと、今後にあって、新型コロナウイルス対策を口実とした外国人ジャーナリストなどに対する‘締め付け’強化も大いにあり得ます。あるいは、今般の2週間の待機期間は、中国政府にとりましては外国人に対する‘再教育期間’であるかもしれませんし、この間において、中国国内における情報収集や対外発信に関する何らかの‘指導’が通達されるかもしれません。そして、中国政府によって予め許可あるいはセットされた場所でしか撮影は許されず、発信内容についても検閲が付されるか、あるいは、当局にとりまして都合の悪い内容は削除されることでしょう。

かくして、中国は、改革開放路線以前の状況に逆戻りし、かつてのソ連邦も顔負けの、鉄のカーテンならぬ‘紅いカーテン’で閉じられた暗黒大陸となるのかもしれません。しかもこの‘紅いカーテン’、共産党が創り出した‘仮想現実’を映し出すスクリーンでもあり、ITやAIが行きわたった理想的な未来社会が映し出されているのです。如何なる状況をも自己の都合のように利用するのが中国共産党の行動原則ですので、‘新型コロナウイルス対策’という名の情報統制強化には警戒して然るべきではないかと思うのです。

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