万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新型コロナウイルス対策の経済支援は知恵を絞って

2020年03月17日 11時29分37秒 | 国際政治

 日本国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく、国民に対して不要不急の外出を控えるなど協力を呼び掛けており、国民の多くも自衛し得る範囲で最大限の努力を払っています。外出自粛が国民の間でも浸透してきたため、観光をはじめサービス産業は打撃を受け、新型コロナウイルス倒産も発生する事態となりました。経済へのマイナス影響は株価下落にも表れ、日本経済の先行きにも不透明感が漂っています。

 リーマンショック時レベルの経済の縮小もあり得るため、日本国政府は、後手後手批判を払拭するためにか、‘今度は先手を’とばかりに経済支援策を矢継ぎ早に打ち出しています。しかしながら、この先手策、今度は逆に、先走りとなって裏目に出るリスクもないわけではないように思えます。

 その第一に指摘すべき点は、新型コロナウイルスの毒性の如何によって今後の経済システム自体が激変する可能性です。現状では、一先ず、日本国政府は、感染者の回復、並びに、無症状を以って同ウイルスの感染力は消滅するものと見なしています。この立場は中国も同様であり、3月10日に習近平国家主席が抑え込み宣言を発したのも、少なくとも湖北省以外の地で感染者が限りなくゼロに近づけば、最早同ウイルスはこの世から消滅したに等しいと考えたからなのでしょう。しかしながら、同ウイルスがステルス型であるならば、終息宣言は時期尚早となります。HIVのみならず、水疱瘡を引き起こすウイルスも、加齢等により免疫力が低下すると帯状疱疹を発症します。ステルス性が認められる場合には、一過性の疫病として扱うことはできず、応急措置的な支援は最悪の場合には全くの無駄になってしまう可能性もあるのです。

 第二の理由は、生産や消費が減少している局面での金融緩和は、インフレ、つまり、2%の政策目標をもゆうに越える物価上昇を招きかねない点です。ニューヨーク証券取引所では記録的な下げ幅となりましたが、株価暴落の懸念を受けて、各国の中央銀行とも金融緩和措置をとりました。株価対策としての一定の効果は認められるのでしょうが、緩和マネーの行く先には警戒が必要です。しかも、中国からの輸入品の減少による供給不足に加えて、各国とも、消費者の危機意識による備蓄志向から特定商品の買走り現象が起きており、トイレットペーパーといった日常品の品不足も深刻です。しかも、日本国内では、一時的であれお米が店頭から消える事態も起きており、今後とも、直接的な関連性の薄い他の商品分野にも値上がり現象が波及する怖れがあります。

 第三に挙げるべき懸念は、中国による新型コロナウイルス禍を機としたグローバル戦略です。3月11日以降、中国では休業状態であった生産を徐々にではあれ再開させており、トップから‘安全宣言’が出された以上、指導部は‘世界の工場’を誇った生産力を以前の状態にまで回復させようとするでしょう(労働力が不足する場合には、AIやロボットの導入も…)。その一方で、凡そ2か月間に及ぶ遅れを取り戻し、かつ、再躍進を図るために、他国の生産力を落とす戦略をとるかもしれません。その際、中国は、他国に自国の措置を範とするように強く求め、強制的な外出の禁止や工場の生産停止を推奨するかもしれません。つまり、中国型の対策の採用が、その実、生産力低下への誘導策となる可能性も否定はできないのです。生物兵器の使用目的は、戦場での敵兵を対象とした使用のみならず、相手国政府に財政負担をかけさせて破綻に追い込んだり、生産力を破壊することにあるとされています。同ウイルスの起源の真相はどうあれ、過度な財政出動や生産停止措置は、生物兵器使用の効果を自らで実行するようなものにもなりかねません。しかも、他国の生産が停止している間に一早く生産を再開させた中国は、各国における品薄状態をチャンスとしてこれまで以上に積極的な輸出攻勢をかけてこないとも限らないのです。

 以上に幾つかの問題点を挙げてみましたが、何れも否定しがたいリスクです。こうした事態に対しては、政府は、先手よりも慎重な見極めが必要なように思えるのです。第一の懸念については、新型コロナウイルスのステルス性に関する正確な情報を把握すると共に、回復後の感染リスクをも消滅、あるいは、激減させる治療法や特効薬、並びにワクチンの開発を急ぐべきと言えましょう。もっとも、疫病が終息したとしても、新型コロナウイルス禍は、現経済システムの脆弱性を晒すこととなりました。何れにせよ、原状復帰は難しく、根本的な経済システムの見直しを要することとなりましょう。この点を踏まえますと、新型コロナウイルス禍は時代を画する転換点として捉え、経済支援策は、新たな経済システムへの移行支援を目的とするべきかもしれません。
 
第二の問題については、日本国を含め、各国とも生産と消費を維持することで、まずは金融界のパニックを沈静化する必要があります。その一方で、実体経済は、脱中国に向けたサプライチェーンの再編成に取り組むと共に、内需の喚起に努めることが肝要です。この点は、第一の問題点と関連しています。また、新型コロナウイルスがステルス型であった場合には、観光業、飲食業、接客業などのサービス産業が、衰退産業となる可能性も否定できないため、新たなビジネスモデルの開発や代替産業の育成も重要な課題となるでしょう。また、観光業については、中国からのインバウンドに期待するのではなく、国内観光客を収益の基盤とする持続可能な形態への回帰を試みるべきかもしれません。そして、インフレを防ぐべく、政府も中央銀行も緩和マネーが商品市場に投機マネーとして流入しないよう監視を強化すると共に、国民の生活を護るために便乗値上げ等は厳重に取り締まるべきです。

第三の問題についても、第二と同様に生産と消費の維持し、経済の歯車を止めないことこそ、生物兵器使用効果、すなわち、自滅を招かないための有効な対処法です。この点、消費を維持するため減税策は、多くの国民も支持することでしょう。加えて、短絡的な‘ばらまき’や過度な財政出動は控え、財政破綻を招かない程度に抑制する必要があります。金融危機に加えて財政危機も重なれば、日本国のみならず、多くの諸国は‘戦わずして敗北’することになりましょう。

新型コロナウイルス禍が中国を原動力としてきたグローバル化の結果であることを認識し、その抜本的な是正を図ることで対処すべきかもしれません。この点、アメリカのトランプ政権によるデカップリング政策こそ先を見越した政策であり、日本国も参考にすべきなのではないかと思うのです。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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エリートぶりをする必要もない (Unknown)
2020-03-18 14:23:15
 ツインタワーが崩落し始めたようなものだ。結果はわからない。
 無保険の貧乏人が動くウィルス噴霧器として歩き回るだろうし、食い詰め者が何をするかわからない。銃と弾薬がバカ売れしているらしい。
 暴動を恐れて一人1000ドル、配るつもりらしい。さすがトランプさんだ。暴れる奴の気持ちがわかるらしい。
 何が起こるかわからないのにかしこぶってエリートぶりっ子をしても意味ない。わからんことはわからんでよい。
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Unknowさま (kuranishi masako)
2020-03-18 20:54:53
 我が国では、エリートであろうとなかろうと、誰もが自由に政治について意見を表明する自由があります。言論の自由こそ自由主義国の強みであり、民主主義国家の優れた点なのです。Unknownさまの言うエリートとは、中国共産党のことなのではないでしょうか?
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