万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政治の前提としての“善”と“悪”の混在

2018年02月07日 14時57分40秒 | 国際政治
 今年の『ナショナル ジオグラフィック』2月号のテーマは、“善と悪”でした。脳科学から人類に善人と悪人が混在する理由を解明しようとする試みですが、この研究、政治を考える上でも示唆に富んでおります。

 記事を要約すれば、善人と悪人、即ち、自己犠牲を厭わない利他的な人と犯罪者やサイコパス等の利己的な人とでは、脳内における共感の回路に違いがあり、特に扁桃体が重要な部位となります。前者の扁桃体が平均して8%程大きい一方で、後者は扁桃体や眼窩全頭皮質の部位が小さいのみならず、機能障害もあるそうです。現在、こうした知見は優しい心を育てるトレーニングの開発等にも活用されており、犯罪者を減らし、善き安全な社会の実現に向けた取り組みに貢献しているとのことです。

今日の脳科学は、人間社会には善人と悪人の両者が混在していることを立証しているのですが、近代以降の政治思想を見ますと、人間観において極端な立場からの主張が大半を占めてきたように思われます。近代以降の人権思想は、全ての人間を、‘理性を備えた善人’と見なす性善説に基づいており、それ故に、“悪人”に対する対応が十分とは言えませんでした。“犯罪者の人権を守れ”の大合唱によって、一般の人々が暴力の餌食になり、被害者が泣き寝入りとなるケースも少なくなかったのです。また、暴力革命を肯定する共産主義などは、その主導者自身がサイコパスであった可能性も否定はできません。一般の人々の立場や運命に対する思いやりも共感も一切なく、革命に伴う虐殺に対して良心の痛みを感じていないのですから。

そして、統治の仕組みがこうした偏った人間観に基づいて設計されていたり、政策が策定されていたりする場合には、それは、得てして深刻な問題をもたらします。日本国の憲法第9条はその最たる事例であり、近隣諸国や国際社会には悪人ならぬ“悪しき国家”など存在していないものと前提として起草されています。この結果、当然の正当防衛の行為さえ、違憲と見なされかねないのです。また、隣国の中国は、その利己的なサイコパス的行動を、‘共産主義理論は絶対’する主張を以って肯定しようとさえしています。

政治の世界に正邪の区別を持ち込もうとすると、リベラル派を始めとした“進歩的知識人“なる人々は、価値相対論を持ち出し、勧善懲悪を古びた黴臭い、あるいは、幼稚な思想と決めつけて嘲笑してきました。しかしながら、現代の脳科学が、悪人の存在を科学的、かつ、実証的に裏付けている以上、良き統治を実現するためには、地方、国家、そして、国際社会といったあらゆるレベルで、加害防止・制御装置や善人保護措置を備えた制度設計を試みる必要があるのではないでしょうか。そして、善人と悪人が存在する以上、政治家を選ぶに際しても、善人が選ばれるシステムを構築すべきであり、それは、民主主義のより優れた方向への発展をおいて他にはないのではないかと思うのです。

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4 コメント

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Unknown (宮内庁皇室浄化大作戦)
2018-02-08 04:28:57
私は毎日528ヘルツのソルフェジオ周波数を聞いていますが、環境音楽として社会の中でもっと活かされれば平和の為に役立つと思っています。

紛争地域に528ヘルツを流し続ければ、紛争が静まるのではと思ってしまうのですが、528ヘルツを応用した紛争抑制装置が開発されて、世界平和に役立つと良いのにと単純な頭で思って居ります。
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おや、やはりご存じないようだ (Unknown)
2018-02-08 04:33:31
素人が政治学者に教えるのは、何だか変だが、教えましょう。
日本国憲法はポツダム宣言の結果。そしてポツダム宣言は歴史的遺産になっているのではない。ドイツと違って、日本は第二次大戦の最終条約を結んでいない。例えば日本が大日本帝国憲法に戻れば、交戦国,中国、ロシア、そしてアメリカ,イギリス等も開戦し、占領できる。
日本は最終条約を結んでポツダム宣言を歴史遺産にしていないので、主権制限国家である。
アメリカが安保法案で満足し、憲法改正は望まないのは安保条約より上位規範のポツダム宣言があるから。
昭和天皇は当事者だから当然知っていた。今上も知っているだろう。岸,佐藤,田中,竹下,小沢等はみんな知っている。安倍晋太郎も知っていた。だが、息子は知らなかったようだ。笹川良一は知っていた。息子の陽平が日中若手武官交流を始めたのは、ポツダム宣言を歴史にするには、日中の信頼関係が必要だと気付いたからであろう。
西独のブラント,コールのような東方外交に当たるものが完全に主権を回復するには必要。安倍総理が「主権回復の日」とかを祝ったが、今上は怪訝な顔をしただろう。
外務省のレクチャーを受けて首相もわかったのだろうが、すでに習主席に信頼されていないので最終条約は無理だろう。ま、それで総理は憲法改正で迷走している。自衛隊合憲を含む改正案が国民投票で否決されても合憲だとさ。否決されたら違憲だわ。かつての交戦国で冷戦の敵国と信頼関係を築けなければ、真の主権回復などできない。
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宮内庁皇室浄化大作戦さま (kuranishi masako)
2018-02-08 08:14:17
 コメントをいただきまして、ありがとうございまいた。

 528ヘルツの周波数には、脳に対して攻撃性を制御する何らかの作用があるのかもしれません。脳機能の側面から人々を善性に導く方法の研究や開発も、試みる価値があるように思えます。
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Unknownさま (kuranishi masako)
2018-02-08 08:20:58
 国際法をご存じないのは、Unknownさまではないかと思います。国際法では、戦争が終結し、講和条約が締結され、それが発行した時点で、敗戦国の主権は完全に回復されます。これは、特にヨーロッパにおいて幾たびかの戦争を経験してきた結果でもあります。仮に、敗戦国が永遠に主権を制限されるとなりますと、主権回復の為には再度戦争を挑む必要が生じ、戦争の連鎖から抜け出ることができなくなるからです。いわば、人類の智慧というものなのです。Unkwnownさまのご意見は、日本国の主権を制限したい中国の見解なのではないでしょうか。日本国をはじめ、他国の立場に立って考えることが出来ないのですから、中国は、やはり、サイコパス国家ではないかと思うのです。
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