万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

二国共存案の否定は侵略の肯定

2023年12月13日 12時03分19秒 | 国際政治
 イスラエルのネタニヤフ首相は、停戦を求める内外からの声を無視し、‘ハマス壊滅’を口実としたガザ地区制圧作戦をあくまでも貫く構えを見せています。同地区制圧後の将来的なヴィジョンについても、イスラエルを背後から支えてきたアメリカのバイデン大統領が二国家共存を主張する一方で、ネタニヤフ首相はこの案を否定しており、両者の間での意見対立も報じられています。

 解決策としての二国共存論、あるいは、二国併存論については、パレスチナ国に対するイスラエル側の入植状況に鑑みて、非現実的であるとする意見もあります。既に多くのイスラエル人が国連決議で定めた国境線を越えてパレスチナ領域内に居住している現状からすれば、今更これらの人々に‘立ち退き’を求めることは現実的ではないというのです。しかしながら、この‘既成事実の追認’という意味での‘現実主義’の主張は、同地域の歴史を振り返りますと、説得力に乏しいように思えます。

 何故ならば、イスラエルを建国したユダヤ人の人々こそ、僅かの期間に全世界から移住してきた人々であるからです。この移動の迅速性からしますと、入植地からの撤退も不可能なはずはありません。実際に、2005年には、アリエル・シャロン首相の時代に、自らの出身政党であるリクード党の反対を押し切って、1967年の第三次中東戦争以来占領してきたガザ地区並びに西岸地区の一部からの撤退を実行しています。なお、このとき、同撤退に強硬に反対し、シャロン政権の倒閣に動いたのがネタイヤフ首相ですので、今般のガザ地区制圧作戦は、同首相にとりましては‘失地回復’を意味しているのでしょう。何れにしましても、入植地からのイスラエル人の撤退は、イスラエルの決断次第で実現可能な範囲と言えましょう。

 パレスチナ国への入植地返還の可否を持ち出すまでもなく、平和共存路線は、既に1947年のパレスチナ分割決議で定められた既定路線でもあります。今日の状況を見ますと、アメリカをはじめ日本国などの‘自由主義国’はパレスチナ国に対して国家承認を与えていませんが、全体から見れば多数派となる130以上の諸国がパレスチナ国を国家承認しており、国連にあってオブザーバーの地位も獲得しています。バイデン大統領が二国共存論を主張するならば、まずもってアメリカが国家承認すべきとする指摘もあります。アメリカは、パレスチナ分割決議に際して賛成票を投じていますので、国家承認は義務的でさえあります。また、二国平和共存を目指すならば、日本国もまたパレスチナ国を国家として承認すべきと言えましょう。こうしたパレスチナ分割決議の成立から今日までの流れからしますと、パレスチナ国の国家としての地位を否定する方が余程非現実的なのです。

 しかも、今日の国際社会にあっては、一部に違反する国が出現したとしても、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略は重大な国際犯罪として凡そ確立しています。イスラエルが既成事実主義に基づいて、ガザ地区からパレスチナ人を追い出す、あるいは、抹殺し、西岸地区をも武力や暴力をもって併合しようとしましても、その行為が国際社会にあって事後承認されることはまずあり得ません。むしろ、その結果だけを見れば、イスラエルの行動に対する支持は、侵略を支持することと同義となりましょう。たとえ奇襲やテロを受けた被害国であっても、正当防衛を口実に自らの侵略を正当化することはできないのですから。ネタニヤフ首相が大イスラエル主義の構想が実現しようとすれば、国際法上の侵略行為は不可避となるのです。

 国際社会にあって侵略、しかも、ジェノサイドや人道上の罪までも伴う武力による現状変更の追認が非現実的である以上、二国平和共存こそパレスチナ紛争の現実的な解決路線のように思えます。その否定こそ、侵略の肯定となるのですから。ネタニヤフ首相は、犯罪国家の汚名を着てまで大イスラエル主義の夢を追い続けるのでしょうか。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« EUが示唆するパレスチナ経済... | トップ | パレスチナ紛争解決のための試案 »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事