何か月かごとに、私たち夫婦は、三重県の紀北町の古里温泉というところに行きます。
私はわりと好きなんですけど、奥さんは1時間あまりの道のりが長くて、気乗りがしないとなかなか一緒に行ってくれません。というわけで、私が「紀伊長島に行く?」と提案しても、たいていOKが出ません。
それで、結局、数ヶ月に一度ということになります。昔は、月一くらいで行ってたこともあったと思うんですけど、おそらくうちの子が小さかった時、海の見える温泉ということで、よく出かけたんでしょう。
というわけで、長らく長島(紀北町は昔は紀伊長島町と言いました)の温泉に行っていませんでした。
四年前、モノクロで撮った写真をブログに貼り付けていますが、これもやはり2月ころの話でした。
2月に紀伊長島を訪れると、町にはキラキラとサンマの丸干しが誇らしげにつりさげられていたものでした。
でも、昨日、訪れてみたら、全くサンマの丸干しはありませんでした。
干物やさんもほとんど閉まっていました。
確かに、秋から冬にかけて、昔はたくさんもどってきた脂の抜けたサンマが獲れたそうです。でも、今はもう三陸沖で中国の漁船も操業していて、熊野灘にもどってくるサンマは皆無になりました。
サンマの丸干しを作ろうと思っても、サンマは一切獲れなくなった。作りたくても作れないようです。
そして、たぶん、ここの干物業は大打撃を受けたはずです。
カモメたちもおこぼれを頂こうと思っても、何もないわけですから、空腹のままでしょう。
漁港に船はあったけれど、あまり活気は感じられませんでした。サンマのいなくなった港は、今の時期、何を捕まえればいいのか。今までの方法が使えないわけだから、試行錯誤は続くのでしょう。
そして、私たちが大好きだったあんこをうすい生地でくるんだとら巻というお菓子を作っていた「とらや」さんは、昨日訪ねてみたら、お店をたたみ、中をのぞいたけれど、誰もいないし、家の中もがらんどうになっているようでした。
何か月ごとに通っている紀北町だけど、とら巻買おうとか、サンマの丸干しを買おう、となかなかならなくて、しばらく町の中に入り込むことをしてこなかったら、私たちが知らない間にとらやさんは廃業して、お店の技は、三重調理師学校の人たちに伝えたそうで、道具も一式寄付したそうです。だから、お店の中は空っぽになっていたわけです。
私たちがうかつに日々を過ごしている間に、どんどん状況は変化しています。93年も続いた地元の名店も時代の荒波に消えてしまっていた(去年の夏だったそうです)。
冬のサンマは全く獲れない。地元の名物を作っていた「とらやさん」ももうない。温泉はあったけれど、私たちの楽しみの1つはなくなりました。
ああ、新しいクルマでドライブに来たけれど、目的の半分がゴッソリと消え落ちてしまいました。
世の中って、こういうことがあるわけです。私たちが、ついうっかりしている間に、自分たちが大事にしていたものが人知れず消えていたなんて……。
今度は、夏にでもこちらに出かけるかもしれないけど、もう別の楽しみを探すしかないわけです。もう、「とらや」さんは永遠に消えてしまった。