谷川俊太郎さんのデビュー作の『二十億光年の孤独』の詩のなかに、こんなことばがあります。
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
これらのことばはどんなイメージだったんでしょうか。19歳の俊太郎さんが、壮大な宇宙世界に思いを馳せてみたのでしょうね。そして、いくら考えても宇宙は遠いし、つかみどころがないし、きりがありませんでした。
でも、その宇宙に向き合った小さな人間としては、若さで何かをつかみ取っているような感じがありました。さすが詩人の感性なんだなと思います。宇宙全体の見えない動きから自分たちへの脈動みたいなを感じ取り、それをことばにしてしまうんだから、素晴らしいと思います。
宇宙は広いし、うねってるし、つかみどころがないし、そこに宇宙人がいてもおかしくはないんだけど、どこからも何の便りもなくて、うんともすんとも言わない。ただ、世界のどこかで誰かが不思議な円盤を目撃したり、宇宙の誰かと第三種接近遭遇をしたり、私たちの個々には接触があったみたいな話はあったけれど、現実にはそれはなかなかリアルになりません。どうも実体のない大ぼら話としてしか受け止められてなかった。
うわさ話みたいなのはあるけど、ちっとも宇宙をイメージできないでいたんですね。つかみどころがないから、やたらポツンとした気分が広がっていく。
そして、詩が作られた年あたりの宇宙のイメージとは、ものすごく限定的で決められたイメージでした。岡本太郎さんのアイデアのパイラ星人が出てきたのは1956年だそうで、まだまだリアルな宇宙人になれていない。ただの奇想天外なままです。
でも、今の私たちも、何十年も経過したけれど、宇宙人をつかめてないですね。
こんな風に、宇宙そのものが拡大していたら(実際にそうなのかもしれないけど、実感はありません)、つかみどころがなく、際限がなく、いつ終わるとも知れなくて、その渦中にある人々は不安になります。
それで、あまりに卑近な例ですけど、ロシアの拡大政策。まるで何もかもがPの思い通りにいっている感じだけれど、ロシアの人々は絶大な権力を握りすぎるPがいなくなったら、国は混乱するのだろう。また、国のあちらこちらでトラブルや暴動が起きるかもしれない(タガが外れるから?)と、今から六年後や十二年後が不安なはずです。そうした混乱よりも永久にPが王様として存在してもいいよ、とさえも思えたりするでしょうか。
いつかPもこの世を去る。国は混乱し、その結果、また新たな独裁者が上に立っている、それもいくつかの犠牲の上で生まれた独裁者で、いくつもの悲劇を繰り返しながら、私たちの国は、独裁者とは別に続いていく、みたいなロシアの物語はあるんだろうな。
イスラエルは、拡大し、政治的にも、軍事的にも、経済的にも周囲を圧倒し続けていました。ガザにおいて軍事的に地域を支配していたハマスは有形無形のプレッシャーを感じていた。交渉しようにも相手にしてもらえず、話し合いにもならなかった。褒められたものではないけれど、イスラエル本土へ攻撃をして、人質を連れ去ってしまった。それをきっかけにガザは恐ろしいことになりました。もちろんガザの人々は不安どころか、命の危険に七か月さらされ、何万にも人が命を失った。
本当であれば、エジプトが国境を開放して難民を受け入れるか、ヨルダンが受け入れるか、レバノンが受け入れるか、どこかアラブ系の国が難民を受け入れるべきなのに、外に出られないようにしてあるので、狭い地域を逃げ回るだけになっている。
中国も拡大している。たぶん、インドも拡大している。EUも少しずつ拡大している。巨大な国がその力を及ぼそうとすると、周辺国の人々はずっと不安になるはずです。
かくして日本の政府の人たちは怯えていて、中国とまともな交渉をすることを忘れています。ほとんどお手上げ状態です。
縮んでいる国の日本の人々は、不安ではないのか? 中国やロシアが膨らもうとしているけれど、そんな国々も、まさか日本にまでは膨らまないだろうと、少し胡坐をかいているところがありますけど、でも、やはり不安は不安だろうな。私は、とにかく関係をしっかり作ってもらいたいと思ってますが、大臣さんたちはメリットがないと思っているのか、そういう国との交渉をやろうとしていない。
為政者たちの存在そのものも、本当に当てにならなくて、情けないほど私たちは不安でもあるのです。