正月ボケの私は、あろうことか007の第2作「ロシアより愛をこめて」を見てしまいます。BS-TBSでした。デジタル補修をしてあるので、それなりにきれいにはしてありましたが、そこに出てくる景色は55年前のヨーロッパの風景でした。
もう歴史映画を見るような感覚で、半世紀前のサスペンス映画を見ていました。
たぶん私は今から40年以上前に見たことがあります。当時はそれなりにハラハラしたし、まだ世の中は冷戦が続いていたので、東西の対決というのはリアルな感じだったように思います。
でも、今見てみると、映像も古いし、そんなことがあったのだ、という時差を感じてしまうのですが、40年前と55年前とはまだ地続きではあった。そして、それはスパイが生き生きしていた時代であり、そのリアルなものをベースに映画世界があった。(私が生きてきた最近の40年で少しずつ世界は変わってきたのでした。少しずつ混沌と閉塞感と不安感・不信感が広がっている。みんなが不寛容で、自分のことで精一杯になっている。他人は他人。スパイしてみたい国なんて、もうないのかもしれない……)
今は冷戦もなくなり、一強時代と混乱の時代で、何が敵キャラとして設定できるのか、007シリーズの模索は別のところで続いている。一度東西冷戦という地平は崩れてしまった。
映画は、後半のトルコのイスタンブールから、ブリガリア、旧ユーゴーを通過してイタリアのトリエステまで向かう列車の中でのサスペンスが目玉の逃走劇ではありました。前半のロシアの秘密の機械を奪うまでは何だかウソっぽかった。
改めて地図帳を開いてみると、最初はトルコとブルガリアの国境あたりで列車を一時停止させて、そこから下車して、ギリシヤに入り、そこからイタリアのベニスに移動するという段取りになっていたそうです。
それが筋書き通りにいかなくて、次から次と敵側からのアプローチがあって、殺し屋が入り込んできたり、ヘリコプターに襲われたり(これはヒッチコックの方が先で、それよりも衝撃度は低い感じでした)、ボートでの追いつ追われつがあったりと、さんざん苦労することになっています。映画の鑑賞者はそれを楽しむようにできていました。
まあ、密室劇というのはオールドファンには楽しさが感じられました。今の若い人は移動する密室の列車でのサスペンスって、あまりリアリティを感じないでしょうね。列車があまりにのんびりしていて、とても国際列車の気分はしなかったでしょう。
さて、ようやくベニスに着いた、もうすぐロンドンに行ける、というところで最終キャラの女スパイが現れ、これが意外とマヌケで、簡単にやられてしまい、めでたしめでたしになる、そういう映画でした。
追いつ追われつがメインの映画でしたか。
なぜ追われることになったのか、そもそもジェームズ・ボンドは何をしにイスタンブールに出かけたのか?
謎の組織・スペクターは、第1作の敵キャラのドクターノウのかたき討ちのため、ジェームズ・ボンドをおびき寄せる作戦を立てました。
エサは、ロシアの暗号解読機を渡すというふうにロシア領事館に勤める女からのアプローチがあったということでした。女の写真付きのアプローチで、そんな敵がワナを仕掛けたところにだれが飛び込むというのでしょう。
スペクターは、イギリスもソ連も混乱させたり、情報を売り買いするのがお仕事なので、とりあえずそのようなワナをたくらんだ。
ボンドさんは、ショーン・コネリーで、ワナと知りつつ、女にも興味があるし、暗号解読マシーンを手に入れることをテーマとして潜入し、現地の協力組織と連携して機械を奪い、ついでに女の人も手に入れて、列車でベオグラード(現在のセルビア共和国)、ザグレブ(現在のクロアチア)、もう少しでイタリア国境というところまで来て、海に出て、そこからボートに乗り、イタリア入りをしたような感じでした。
これで映画は終わったようなものでした。
この映画のボンドガールは、ダニエラ・ビアンキさんといい、ボンドガールの中でも人気のある人なんだそうです。私は全く記憶にはなかったけれど、名前が印象的だし、それが記憶のどこかに引っかかっていて、映画はどうでもいいけど、ビアンキさんを見てみようとお正月気分で見てしまいました。
イタリアの女優さんであるビアンキさんが、ロシア女性の役をやっていたらしい。イタリア女性とロシアの女性の違いがわからない私は、それなりにだまされていたけれど、今思うと、やはりイタリアの女性だったんだなと思います。
確かに髪はゴールドだったし、それなりにスリムだけれど、骨太さもあるし、かわいらしさもふりまいていて、彼女の一番の見せ場は、列車のコンパートメントに入り、ボンドさんから服をプレゼントされて、大はしゃぎするところで、表紙の写真がその一場面だったようです。
そうですか。私は、イタリアの女優さんをロシア女性と思わされてみていたわけか。
国際スポーツ大会などで、いろんな国の女性を見る機会があって、いろんな国の人の違いを多少は知るようになった私たちですけど、さあロシアの女性だよと言われて、現在の私としては多少の違和感があったんです。それで調べてみたら、やはりそうではなかった。
いろんな国の、いろんな人を知ること、まだまだできていません。この正月から三日坊主になるかもしれないけど、英会話の勉強しようかなと思ったくらいです(お正月らしい思い付きですね。すぐにしぼんでしまうだろうけど……)。
当時なら、単純にだまされただろうけど、今なら、「何か違うな」と見ることができた。種明かしをしたら、イタリア女性だった。
そうか、うちの母と同年代のイタリア女性の若いころの動く映像をみせてもらったわけか……。大好きなソフィア・ローレンさんもうちの母と同年代かな……。