甘い生活 since2013

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孔子さんと盗跖さん その1 中思・特別編

2020年08月11日 20時40分18秒 | 中国の思想家のことば

 これも今は昔、唐土に、柳下恵(りゅうかけい)といふ人ありき。世の賢き者にして、人に重くせらる。その弟に、盗跖(とうせき)といふものあり。一つの山ふところに住みて、もろもろの悪しき者を招き集めて、おのが伴侶として、人の物をば我が物とす。ありくときは、この悪しき者どもを具する事、二三千人なり。

 昔の中国の話です。そこに柳下恵という人がいたそうです。とても賢い人で、人からも知恵者としての扱いを受けていたそうです。その弟さんで盗跖という人がいたそうです。山の上で極悪人たちを集めた盗賊集団を作っていて、人のものは自分のものというとんでもない理屈で動き回り、この極悪集団の三千人あまりで近隣の村から強盗して暮らしていたということです。

 道に逢ふ人を滅ぼし、恥を見せ、よからぬ事の限りを好みて過ぐすに、柳下恵、道を行く時に、孔子にあひぬ。「いづくへおはするぞ。自ら対面して聞こえんと思ふことのあるに、かしこく逢ひ給へり」と言ふ。

 道で出会う人からものを奪い、極悪非道の限りを尽くしていましたので、お兄さんの柳下恵さんと孔子さんはたまたま出会いました。
 「どちらにいらっしゃるんですか? 一度あなたに対面してお話ししたいことがあったんですけど、たまたま出会うことができましたね。」と孔子さんはおっしゃいました。
 
 柳下恵、「いかなる事ぞ」と問ふ。「教訓し聞こえんと思ふ事は、そこの舎弟、もろもろの悪しき事の限りを好みて、多くの人を嘆かする、など制し給はぬぞ」。

 柳下恵さんは「どのようなご用件でしょうか?」と言います。
「いえいえ、お話ししたいのは、あなたの弟さんのことです。本当にいろいろととんでもないことをやらかしていて、多くの人を困らせています。どうしてお兄さんのあなたが、弟さんに忠告してあげないのです? 私は、あなたに何とかしてもらいたいと思っておりました。」

 柳下恵、答へて言はく、「おのれが申さむ事を、あへて用ふべきにあらず。されば嘆きながら年月を経るなり」と言ふ。

 柳下恵さんは答えます。「私があれこれ注意しても、全く行いを改めるところがありませんでした。そして、もう何年も弟の悪事は続いていて、兄としてもどうしようもないところまで来てしまいました。」

 孔子のいはく、「そこ教へ給はずは、我行きて教へん。いかがあるべき。」

 孔子さんは言います。「あなたが弟さんの行いを改めさせられないということでしたら、私が彼の所へ行って、説得してみましょう。よろしいですかな。」

 柳下恵言ふ、「さらにおはすべからず。いみじき言葉を尽くして教へ給ふとも、なびくべき者にあらず。返りて悪しき事出で来なん。あるべき事にあらず。」

 柳下恵は言います。「残念ながら、彼は聞く耳を持たないでしょう。折角いらっしゃっても、無駄骨にならなければいいがと思うのです。どんなにありがたいお言葉でも、彼は聞かないと思います。逆に、あなたさまにとんでもないことをしでかすのではないか、そちらが心配になります。」

 孔子いはく、「悪しけれど、人の身を得たる者は、おのづからよき事を言ふにつく事もあるなり。それに、『悪しかりなん、よも聞かじ』と言ふことは、僻事(ひがごと)なり。よし、見給へ。教へて見せ申さん」と、言葉を放ちて、盗跖がもとへおはしぬ。

 孔子さんは言います。「どんなに悪い人間だとしても、人間というのは、自然の理に沿って話をしたら、聞き入れることがあると私は思います。

 『とんでもないヤツは、どいつもこいつも聞く耳を持たない』というのは偏見だと私は思うのです。よろしい。ぜひ、弟さんを悪の道から引き戻して見せましょう。」
そういうふうに言い放つと、孔子さんは盗跖さんのところに出かけていったということです。さあ、どうなるんでしょう。

 

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