私のクルマにも、うちの子のクルマにも、奥さんが作ったお守りくまさんが乗っています。たまにはクルマの中から出してあげようと、くまさんにも千枚田を見せてあげました。
体をひねっているのは、奥さんがつけたポーズだったかな。風景に向き合って、うーん、すごいなあと言ってる雰囲気で写真を撮りました。うちにしては珍しく創作的な写真です。たいていはそのまんまを下手くそに切り取るだけなのに、風景と自分たちとの対話みたいなのをしてみたかったんですね。
それくらい、ここの風景は時間を忘れ、風景に吸い込まれる雰囲気なのです。ただの棚田なのに、空と山と森と風と光が交錯して、そこに人間たちの営みが聞こえてきて、私は今何をしているんだろう。これから何をしていくんだろうと、少し考えさせてくれます。
まあ、私は家族と一緒にドライブに来られて、それはしあわせだったんです。温泉に入れたら、もっとしあわせなんだけど、それは少し時間に余裕がなかったんですね。もっとどっぷりとここで一夜を過ごすとか、そういう意気込みが欲しかったなあ。
でも、家に帰ってブログしなきゃ、とかいうスケベー心があったりして、わりと早い段階で帰ってきました。それがザンネンだったなあ。
2時間近くかけて、やっと鬼ヶ城トンネルを抜けました。そこからは熊野灘・太平洋がズドーンと見えます。新宮までの二十数キロがずっとまっすぐな海岸線になっています。トンネルを抜けたらすぐ写真を撮りたいと20年以上思ってましたが、うちの子の運転で初めて実現しました。
そこからもう少し走ると、やっと紀和町(現在は熊野市に編入されました)にたどりつきます。山道を少し走り、やっと展望台に出ます。クルマが2台どうにか止められるというところで、今まではたいてい誰か先客がいました。
でも、この日はたまたま1台しかいなくて、ここでも展望台からの眺めをゲットします。先客は大阪からのダックスフントを2匹連れている老人たちで、わざわざここまで走ってきたようです。お犬さんもかわいそうで、確か私たちはどこかもう少し前に、この人たちを抜いたはずでしたが、千枚田には先に来られてしまった。
たぶん、私たちのトイレ休憩の時に抜かれたのかもしれない。
老人たちと犬2匹は、とりあえず休憩できたこととそれなりの眺望を見られて、満足して去っていきました。あとは私たちだけです。
峠の反対側で見た鰯雲は、今度は山をはさんで反対側に出ています。当たり前だけれど、間に山があるので、西側のこちらは西日に照らされてのっぺりとした感じかな。
反対側にいたときは、シルエットになっていたから、やはり山の反対側にいるんですね。そりゃ、当たり前か……。
途中の東屋で私たち家族はお昼ごはんを食べました。相可高校の食物調理科の卒業生のお店・せんぱいの店の「味ごはん弁当」にしました。以前はサバが入っていたということですが、ちゃんと調整して鶏肉に変わっていました。三重県の中部地方では、味ごはんの具にサバを使うところもあるそうです。でも、私は純粋の三重県民ではないので、サバの味ごはんだったらどうしようと思ってました。まあ、そうではなかった。
時を忘れさせる紀伊山地の山々。どんどん太陽を追い詰めていく広大な大地。
千枚田の真ん中に鎮座する巨石。
私たちは、何度も見ている風景に改めて向き合い、わりとすぐに来られるけれど、カンタンには来られない、それでも時々行きたくなる、この風景の中で、晩秋を感じて帰ったのであります。