* 「風」って、「死」の象徴だったなんて、知りませんでした。そういう意味を、作詞した方は歌に込めていた、ということでした。
「風」は、きたやまおさむさんが作詞、(フォークルの)バンドメンバーだったはしだのりひこさんが作曲した。68年10月のバンド解散後、翌年の1月、はしだのりひことシューベルツが発表した。
2021年1月23日・土曜の朝日新聞に出ていた記事でした。
きたやまおさむさんは現在74歳で、精神科医をされている。バンド活動もされてるんだと思ってたけど、加藤和彦さんが亡くなられたのが2009年だったそうですから、ほんの一瞬だけ活動されただけだったんですね。
加藤さんが亡くなられてから、もう12年も経過しているんですね。うっかりしていました。
この楽曲は、バンド解散の約1か月前、メンバーが愛媛県でのコンサートを終えて、高知県内に宿泊した時に生まれた。台風に襲われて外出できず、きたやまさんらは旅館の一室にこもった。窓に吹き付ける猛烈な風の音を聞きながら、布団の上で、はしださんがあたためていた曲をギターで弾き、きたやまさんが詞をつけていった。
台風に吹き込められた日の茫然とした時間の中でも、この人たちは何かを作り出すエネルギーを持っていたんですね。すばらしいことでした。
きたやまさんとはしださんは共に、学生時代に親友を自死で亡くす経験をしていた。……中略……きたやまさんが「ただ風が吹いているだけ」と「死」を感じさせる余韻を残して終わらせようとすると、はしださんが「前向きな終わりにしたい」と抵抗した。「振り返らずただ一人 一歩ずつ 振り返らず泣かないで 歩くんだ」を加えることになった。
この決断は、はしださんの感覚の方が、人々に与えるメッセージとしてはよかったと思います。時代をつかんでいた! きたやまさんの無常感も大事だけど、それだけでは歌にはならないし、共感も少し減ったでしょう。
きたやまさんがそんな終わり方にしたかったのにも理由があって、
華やかなステージを一歩降りると、死があり、お金も必要とされる「不確かな日常」との落差に苦しんでいた。顔の見えない聴衆との「マスコミュニケーション」にも、不安と恐怖を感じた。「絶望した僕と、希望を求めるはしだとのせめぎ合いがあった」と振り返る。
きたやまさんは精神科医の道に進み、はしださんは芸能界を生きた。40年のブランクがあって、加藤さんが亡くなった後、お互いに呼びかけて再会したそうです。
「あの曲は、僕とはしだのきずな。はしだとまた会えたことは本当に良かった。いま人生を振り返っても、そこにはやっぱり、風が吹いているだけなんです」
そうなのか、そういうものなのか。やがてはしださんは亡くなり、きたやまさんだけが今も頑張っておられる。加藤さんももう少しオシャレに決めてくれてたらよかったのに、奥さんを亡くして、何かが崩れていったのかもしれません。人って、わからない生き物ではあるのです。
ボブ・ディランは、「答えは、風が吹いているんだよ」と歌い、タイガースは「風は知らない」と歌った「風」。
今、風はどこを吹いているのやら……。