すべての夢がしぼんでいくのを感じます。
といっても、つまらない、私のこだわりの夢だし、またすぐに違うものが見つかると思うんだけど、この土日も何だかどうだっていいような気分になってしまった。
アメリカンリーグはRaysが勝った。これはどっちでもよかったんです。Astrosでもよかった。でも、ナショナルリーグは本当に久しぶりにあの強いブレーブスが帰ってきたと、二十数年ぶりに期待していました。さっと三連勝して、いよいよワールドシリーズも近いなと思っていたら、大敗したり、惜敗したり、最後の七戦目も、3-4で競り負けてしまいました。
こういうことって、あるんです。せっかくさあ、ワールドシリーズに行っておいでと神様が与えてくれたチャンス、四回もあったのに、そのまま四つ負けてしまって、対戦成績三勝四敗で負けてしまった。
ファンって、こんなことを何度も、何度も繰り返して、何度も挫折して、また期待して、待ち続けるしかないのでしょう。
私がプレーするわけではないし、選手たちの頑張りこそすべてだから、また細々と期待します。もうどっちだっていいやと思って、ワールドシリーズを見るのかな。いや、1988年にラソーダ監督がワールドチャンピオンにさせてから、32年間ワールドチャンピォンになってない? いや、なったような気もする。どっちにしろ、ナショナルリーグのチームを応援しようと思います。
それで、今朝なんですけど、ラジオで、グレン・グールドという孤高のピアニストがいて、彼は何と漱石先生の「草枕」を四つのバージョンの英訳版とか持ってて(フランス語訳?)、それぞれに書き込みなんかしてあって、ものすごく「草枕」がお気に入りだったという話を聞きました。
そこから、そういえば、私は、昔の漱石のいろいろなフレーズ・ことばをまとめて事典作りたいなという希望を持っていたのを思い出しました。
カードも何枚か作ったはずだ! と、探してみたら、1985年ころに書いたカードが出てきました。残念ながら、10枚くらいしかなくて、私の漱石研究はそこで立ち消えになったようでした。
今からでも遅くないから、もう一度カードを書いて、漱石先生のことばをかみしめる時間はあるのか、ないのか、それはわからないけど、やってみる価値はあるけど、いつもの通りに挫折するかもな、とも思ったんです。
でも、自分のペースで、わがままにやってみるかな。たとえば、こんなです。
◇幸福
「私は世の中で女というものをたった一人しか知らない。妻(さい)以外の女はほとんど女として私に訴えないのです。妻の方でも私を天下にただ一人しかいない男と思ってくれています。そういう意味からいって、私たちは最も幸福に生まれた人間の一対であるべきはずです」
私は今前後の行き掛かりを忘れてしまったから、先生が何のためにこんな自白を私にして聞かせたのか判然(はっきり)言うことができない。けれども、先生の態度の真面目であったのと、調子の沈んでいたのとは、今だに記憶に残っている。その時ただ私の耳に異様に響いたのは、「最も幸福に生まれた人間の一対であるべきはずです」という最後の一句であった。
先生はなぜ幸福な人間と言いきらないで、あるべきはずであると断ったのか。私にはそれだけが不審であった。先生は事実果たして幸福なのだろうか。また幸福であるべきはずでありながら、それほど幸福でないのだろうか。私は心の中で疑らざるを得なかった。けれどもその疑いは一時限りどこかへ葬られてしまった。[こころ 上・先生と私]
これは後々、私(青年)が「先生」から遺書を託される前なので、何となく漠然とした不安みたいなのを感じていたから、何か変だなと思ったところだったのか、先生のポーズ・気取りと解釈したのか、青年としてもよくわからないところがあった部分でした。
確かに、先生はKとの関わりの中で、自らの人生に暗く運命づけられたものを獲得してしまいます。それはもう一生消えない先生の運命みたいなものでした。だから、どんなに幸せな条件が整っていても、先生はそれに乗っかることはできないし、これではいけない。自分は幸せになってはいけないのだ。自分はいろんな人の人生をメチャクチャにしたとんでもない人間なんだと、心のどこかが叫んでいるのを聞くのでした。
ああ、先生、そんなに自分を追い詰めなくてもいいのに、自分で自分を追い詰めていた。
でも、妻は大事にしなきゃいけないし、彼女も天涯孤独だから、彼女と二人で支え合って生きていかなくてはという思いも抱えている。もう生きてることが日々引き裂かれているような人生だったのですね。
でも、それでこそ人生じゃないの? と、私なんかは思います。人生なんて、挫折と失敗と他人を傷つけることと、自分のはかない夢と、その夢が消え去るのと、そんなことの繰り返しをして、いつかそれも終わる、というのが当たり前じゃないですか。それを受け入れていかなくては! と、思うんだけどな。
だから、Bravesが負けても、また来年ボクは応援するんですよ。そして、ズッコケたら、またその次って、思うことにしてますし、そのうちいつかいい日も来るさと思うんだけどな。