ボクは中学生の頃、T大に入って、官僚になって、政界入りして、日本を動かしてみよう、などという非現実的なことを考えたことがありました。
バカですね。T大に入れたって、そこから這い上がり、人を押しのけ、自らを磨き、人脈を築き、時には冷淡になり、時にはウソもつき、平気で人を裏切り、いろいろと大変なこと(本人のストレスも大変です)をしなくてはならないのに、そんなことは何も考えないで、ただ政治家になるなんていう妄想をしていたなんて!
まあ、本気ではなかったのかな。ただの夢だったのかも。自分がそんなに優秀な人間ではないって、ちゃんとわかっていたと思うんだけど、つい、そういう夢を見たこともあったというべきなんでしょうか。
もちろん、そんなのになれなくて、私としては良かったし、本望だったのです。そんな鉄面皮で、非情で、官僚的で、事務的なものにはなれなかった。この軟弱なボクには無理でした。
でも、中三の頃、「ムツゴロウの青春記」というのを読んで、T大へのあこがれみたいなのは生まれました。現実はどうあれ、とにかく憧れていたんです。ボクがT大だなんて、そんなことになったら、何だか楽しそうだった。遠くの芝生だったんですね。
この本との出会いは、中二の時の担任の先生、理科の先生だったんですけど、その先生がおススメしてくれました。どういう理由でススメてくれたのか、これはクラス全員の子らにススメておられたので、ホームルームか何かで聞かせてもらったんでしょう。
単行本は1971年に出ていて、おススメしてくださっても、手に入れることはできませんでした。図書館に行くという週刊がりませんでした。でも、いつか読んでやろうと思ってたんでしょう。
1974年の6月に、老舗の出版社である文藝春秋社が文庫本を出すということでした。この時に初めてスタートさせたんですね。それまでは、新潮文庫と角川文庫と春陽文庫と、講談社文庫もあったのかな。岩波文庫は近所の本屋さんには置いてなかった。
そして、新しい文庫参入で、文春は、五木寛之さん、北杜夫さん、柴田翔さん、石川達三さん、井上靖さん、司馬遼太郎さん、松本清張さん、小林秀雄さん、畑正憲さん、J・アダムソンさんの10人のラインナップを組んだようでした。
すごいメンバーでスタートさせたんですね。不思議なことに、女性はアダムソンさんだけで、あとの9人は男性だったなんて、74年はまだ女性の力を世の中もつかみきれてなかったんですね。今だったら、文庫を新しく出しますよ、ということであれば、半分以上は女性作家が入っているはずです。この何十年かで世の中は変わってきたんでした。まあ、当たり前なんだけど。
1974年の6月に出た文春文庫、さっそく買いたかったムツゴロウさんの「青春記」を買い、すぐに読んだものと思われます。
ここから、ボクの誇大妄想が広がったんですね。ちっとも勉強はしないくせに、気持ちだけは気宇壮大で、「でっかいことをしてやろう」みたいな気分でいた。
でも、具体的に、「でっかいことって何?」と問われたら、何もアイデアはないし、いい加減な気分ではあったようです。でも、少しは勉強しなきゃという動機付けにはなったでしょうか。
勉強のことも書いてあったけれど、奥さんとの結ばれ方もステキで、こんなふうに女の人と出会い、愛をあたため合えたら幸せだなという気持ちもありました。でも、ボクにはそんな相手の人もいなくて、こちらの方面も誇大妄想ばかりで、何も動かなかったのでした。
そして、高校生になり、あいかわらず不勉強で、付け焼刃なことしかできてないし、いつもごまかしばかりで、何とか高校の勉強を乗り切ろうとしていたようですが、これはすぐにごまかしがきかなくなり、パンクしてしまいます。
それで、メモを見つけました。
①夏目漱石の「虞美人草」を読み、続けて②「門」を読み終える。
③「ムツゴロウの結婚記」も、「青春記」のあとに1年ぶりかで出たので買って読み、
④国木田独歩の「牛肉と馬鈴薯」、⑤芥川龍之介の「地獄変」、
⑥新田次郎の「孤高の人」下巻、⑦田宮虎彦の「落城・足摺岬」、
⑧三島由紀夫「金閣寺」、だいたい二か月の間にこれらを読破していて、若い時は、勉強もしないでガンガン読んだのだなとつくづく思います。
とにかく、読むことに意義があって、中身はあまり頭に入らなかったみたいです。でも、大事な本たちだから、これらはもう何十年もうちの本棚に古びたまま飾ってありますね。
本には書き込みもしなきゃダメだと、どこかで聞きこんで、書き込みにチャレンジもしていたと思うし、あれこれとやってた時期があったんですね。
そりゃ、数学や化学が分からなくなるはずです。もうすぐに数Ⅰの最初の方でズッコケていたような気がします。何しろ答えを見ても分からないなんて、とんでもない世界があったんですね。何だか悲しいけれど。
それから、夏は何して過ごしてたんでしょう。思い出せないけど、勉強してないのは確かですよ。勉強のフリはしてたかもしれないけれど。
確か、カゴシマに行ったんだったかな……。