
* 「じゃあ、どこなん?」「わからん」「なんやねん、それ」
高校のとき、六時間目の担当の先生が休みだと帰れることになっていた。土曜日だったら四時間目。そういうのはほんとうにたまにしかなくて、隣のクラスがそうやって帰っていたりすると羨ましくてしかたがなかったのだけど、その日はぼくのクラスが当たりだった。開いた教科書の上にうつ伏せになって寝ていたぼくは、チャイムの音で目が覚めた。五時間目の先生が教卓の上を片づけながら「伊藤先生はお休みだから帰っていいです」と言った。途端にみんな大喜びして荷物をまとめだしたので、そのあとの「来週は期末テストやし、受験生なんやから帰って勉強しいや」というのはだれも聞いていないみたいだった。

だから、さっさと遊びに行くつもりやったんやけど。
ぼくとけいとと豊野は、環状線のプラットホームの北の端の三人掛けのベンチに並んで腰掛けていた。けいとの強い希望でそのメンバーになった。そこに座ってから十五分は過ぎていたので、暑くて暑くてしかたがなかった。生え際の辺りから、次々に汗の滴が落ちてきた。昼下がりの中途半端な時間のプラットホームには、人はまばらで、少し角度のある太陽の光がホームの端から五十センチのところくらいまでじりじりと照りつけているだけだった。
「で、どこ行くん?」
「梅田って言わんかった?」
「梅田のどこ? 目的地決めてから行こうや」
「そんなん言うてるから、さっきからどこにも行かれへんのんちゃうん?」
その五分前と十分前にも同じことを言った。ぼくは真ん中に座っていたので、左側のけいとと右側の豊野の顔を順番に見た。だけど二人ともなにも言わないので、どうしようかなあ、ととりあえず言ってみて伸びをした。
「なんかこう、いざ時間ができるとなにしようかなあって感じになるよなあ。昨日の六時間目とか、はよ終わってー、わたしはCD買いに行くんやー、って思ってたのにな。今日にすればよかったわあ」
けいとは膝に載せたリュックに肘をついて、少し陽に焼けた両手であごを支えて向かいのホームを見ていた。電車が出たところだったから、だれもいなかった。
「おれは、決めてから行ったほうがいいと思うな。とりあえず、どこ、っちゅうのは必要や。なにをするにしても」
しはらく黙ってた豊野が、腕組みをして眉間にしわを寄せて近所のおっさんみたいな言い方で言った。
「じゃあ、どこなん?」「わからん」「なんやねん、それ」
ぼくは豊野に聞いてもどうにもならないと実感して、ベンチの背もたれに寄りかかった。アナウンスと聞き飽きたメロディが流れて、次の電車がやってくることを知らせた。
……柴崎友香(しばさきともか)『きょうのできごと』(2000)より

こんなふうに、何気なく会話がつなげられたらいいですね。私の方がオッサンなのに、彼女みたいなおしゃべりを書くことができなくて、仕方なくフツーのオッサンをしています。
小説家になれたら、という希望はものすごい昔は持っていましたが、人とじょうずにしゃべるイメージがないわけですから、私に小説は無理です。もし書くとしたら、歴史小説ですか。
それもあやしいですね。
もう、今日は暑くてヘロヘロなので、実家のあたりの写真でも貼り付けたら、寝ることにします。ハーア。

★ 下の方のフォトチャンネルの「人魚姫と阪堺電車」も見てやってください。あまりいい写真はないかもしれないけど……。元旦に母と散歩にでかけた時の写真も入れました。
高校のとき、六時間目の担当の先生が休みだと帰れることになっていた。土曜日だったら四時間目。そういうのはほんとうにたまにしかなくて、隣のクラスがそうやって帰っていたりすると羨ましくてしかたがなかったのだけど、その日はぼくのクラスが当たりだった。開いた教科書の上にうつ伏せになって寝ていたぼくは、チャイムの音で目が覚めた。五時間目の先生が教卓の上を片づけながら「伊藤先生はお休みだから帰っていいです」と言った。途端にみんな大喜びして荷物をまとめだしたので、そのあとの「来週は期末テストやし、受験生なんやから帰って勉強しいや」というのはだれも聞いていないみたいだった。

だから、さっさと遊びに行くつもりやったんやけど。
ぼくとけいとと豊野は、環状線のプラットホームの北の端の三人掛けのベンチに並んで腰掛けていた。けいとの強い希望でそのメンバーになった。そこに座ってから十五分は過ぎていたので、暑くて暑くてしかたがなかった。生え際の辺りから、次々に汗の滴が落ちてきた。昼下がりの中途半端な時間のプラットホームには、人はまばらで、少し角度のある太陽の光がホームの端から五十センチのところくらいまでじりじりと照りつけているだけだった。
「で、どこ行くん?」
「梅田って言わんかった?」
「梅田のどこ? 目的地決めてから行こうや」
「そんなん言うてるから、さっきからどこにも行かれへんのんちゃうん?」
その五分前と十分前にも同じことを言った。ぼくは真ん中に座っていたので、左側のけいとと右側の豊野の顔を順番に見た。だけど二人ともなにも言わないので、どうしようかなあ、ととりあえず言ってみて伸びをした。
「なんかこう、いざ時間ができるとなにしようかなあって感じになるよなあ。昨日の六時間目とか、はよ終わってー、わたしはCD買いに行くんやー、って思ってたのにな。今日にすればよかったわあ」
けいとは膝に載せたリュックに肘をついて、少し陽に焼けた両手であごを支えて向かいのホームを見ていた。電車が出たところだったから、だれもいなかった。
「おれは、決めてから行ったほうがいいと思うな。とりあえず、どこ、っちゅうのは必要や。なにをするにしても」
しはらく黙ってた豊野が、腕組みをして眉間にしわを寄せて近所のおっさんみたいな言い方で言った。
「じゃあ、どこなん?」「わからん」「なんやねん、それ」
ぼくは豊野に聞いてもどうにもならないと実感して、ベンチの背もたれに寄りかかった。アナウンスと聞き飽きたメロディが流れて、次の電車がやってくることを知らせた。
……柴崎友香(しばさきともか)『きょうのできごと』(2000)より

こんなふうに、何気なく会話がつなげられたらいいですね。私の方がオッサンなのに、彼女みたいなおしゃべりを書くことができなくて、仕方なくフツーのオッサンをしています。
小説家になれたら、という希望はものすごい昔は持っていましたが、人とじょうずにしゃべるイメージがないわけですから、私に小説は無理です。もし書くとしたら、歴史小説ですか。
それもあやしいですね。
もう、今日は暑くてヘロヘロなので、実家のあたりの写真でも貼り付けたら、寝ることにします。ハーア。

★ 下の方のフォトチャンネルの「人魚姫と阪堺電車」も見てやってください。あまりいい写真はないかもしれないけど……。元旦に母と散歩にでかけた時の写真も入れました。