[12月1日 10:00.さいたま市内のユタの家(ユタの自室) 稲生ユウタ&威吹邪甲]
「はい、ユタ」
剥いたリンゴをユタに渡す威吹。
「ありがとう」
ユタは上半身だけ起こして、それを受け取った。
「熱はどうだい?」
「さっき測ったら、39度2分だ……。こんな時に……」
ユタは風邪を引いてしまい、寝込んでいた。
近所に日曜日も診療をしている医療機関が無いため、今日のところは市販の風邪薬でやり過ごすしか無かった。
「今日は広布唱だ……ゴホッゲホッ!」
「ユタ、無理しなくていいから。1日くらい勤行懈怠したところで、罰を下すセコい仏でも無いだろう」
妖怪の威吹が言うと、障魔のささやきに聞こえてしまうのだ。
「1日じゃない……もうふつ……カホッ!ケホっ!」
「だから!」
その時、威吹の右の長くて尖った耳がピクッと動いた。
「とにかく、養生していてくれ。病死でも、早死にされては困るんだ」
威吹は刀を手に取ると、玄関の方に向かっていった。
[同日10:05.ユタの家の玄関 威吹邪甲]
「何用だ?」
玄関のドアを開けると、そこには1人の青年が立っていた。
短い金髪に、両耳にはピアスを着けている。ジャンパーにジーンズというラフな格好をした人間に化けてはいるが、威吹は一発で同族だと見破った。
「威吹先生。えーっと……カンジです。威波、字は莞爾です。弟子入りの志願に参りました」
「今、それどころではない。帰れ」
威吹は一蹴して追い返そうとしたが、
「先生の“獲物”……。お体の具合は、いかがですか?」
「なっ?何故それを!?」
「最近、インフルエンザが流行り出していると専らの情報です」
その時、威吹は思い出した。妖術の中に、流行り病を流布させるものがあると。そしてそれは妖術に長けた妖狐も、十分使用可能だ。目の前にいるカンジという男は、威吹はあまり妖術の得意な男ではないと思った。とはいうものの……。
「お前、まさか……!」
威吹に条件を飲ませるために、ユタに手を出したとしたら、それは許されざる行為である。
妖狐の里の掟では、“獲物”の横取りは厳禁である。
「オレの見立てでは、高僧の類でもないのにS級の霊力を持つ人間。先生の御目利きにも感銘を受けたのです」
「その“獲物”を横取りしようとしているのか、お前は?」
「それは誤解です。オレはあくまで、先生の弟子入りを志願して参った次第」
「じゃあ、どうしてユタが流行り病にかかっていると知ってるんだ?」
「先生、こいつを御存知ですか?」
カンジはジャンパーのポケットから、1枚の写真を出した。おどろおどろしい魍魎の姿がそこに写っていた。
「こいつは先月、オレが取り逃がした“しょうけら”だ」
「正確には現代風に変異を遂げた、“しょうけら”の亜種です。先生の御存知だった江戸時代の“しょうけら”は、狙った獲物をピンポイントで病気にさせるだけでしたが、生き延びた連中は変異を遂げ、インフルエンザを流行させるまでになりました」
「何だって?じゃあ、そいつがユタを流行り病に掛からせたと?」
「そういうことです」
「だから、何でお前がそれを知ってるんだ?」
「この前、オレにケンカを売ってきたヤツが正にそいつで、体をバラバラに切り刻んでやりました。その直前、先生に嫌がらせする為に先生の“獲物”殿をインフルエンザに掛からせたと白状しましたが」
「な、何だって!?」
「これが証拠です」
カンジは至って平然と、さいたま市指定のゴミ袋に入れた“しょうけら”の残骸を見せた。
「いや、持ってこなくていいから!」
「? 先生は御存知無いんですか?」
「何が?」
「今の“しょうけら”変異亜種は、臓器の一部を煎じることにより、奴らが流行らせたインフルエンザの特効薬ができるのです」
「ということは!?」
「先生の弟子にして頂けるのでしたら、すぐにでも特効薬をお作り致します」
「くっ……そう来たか!見た目は現代の遊び人のようで、そこはさすが妖狐だな。分かったよ。背に腹は代えられん。すぐに薬を作ってくれ」
「かしこまりました」
[同日12:00.ユタの部屋。ユタ、威吹、カンジ]
「さ、39度7分……どんどん上がってる……」
「待たせたな、ユタ!」
ユタとカンジはユタの部屋に飛び込んできた。
「キミは……先月の……」
「お久しぶりです。この度、威吹先生の弟子にして頂いたカンジと申します。以後、お見知りおきを」
「ちょっと待った、カンジ。まだだ」
「は?」
「お前の薬がちゃんと効いて、ユタの病気が治ってからだ。それまでは仮だな」
「はあ……。とにかく、これを飲んでください」
「抹茶みたいな……?いや、きな粉か……?」
「ユタの病気の特効薬だよ。妖狐族に伝わる、ね……」
「ふーん……」
「これを飲めば、今日中に完治するでしょう」
「ええっ?」
「とにかく飲んでみて。このままだと、ユタの病気がどんどんひどくなってしまう」
「恐らくこのままですと、今日中に肺炎を併発するかと」
「カンジ!」
「統計の上からですよ」
「いつ、統計を取った!?いつ!?」
「それは……」
「分かった分かった。せっかくだから飲むよ」
ユタは辟易した感じで、山手線よりは濃く、しかし埼京線よりは薄い緑色の粉を飲んだ。
「う……」
「本当に大丈夫なんだろうな?もしユタを死なせでもしたら……」
「大丈夫ですよ。明日から、先生はオレを正式な弟子にしてくださるでしょう」
「万が一失敗したら、お前の体をさっきの“しょうけら”のようにしてやる」
「どうぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この辺はOKネタと大して変わらない。カンジは人間形態ではなく、頭に狐耳を生やした第2形態で現れるだけであります。威吹が、ここは人間界なんだから、せめてオレと同じ第1形態にするか、人間形態にしろとたしなめる。
カンジは素直に言う事を聞いて人間形態になるが、服装も着物から上記のジャンパーにジーンズというラフな姿になり、
「だからって別に、服装まで変えることは無いんだぞ」
と、突っ込まれている。
「はい、ユタ」
剥いたリンゴをユタに渡す威吹。
「ありがとう」
ユタは上半身だけ起こして、それを受け取った。
「熱はどうだい?」
「さっき測ったら、39度2分だ……。こんな時に……」
ユタは風邪を引いてしまい、寝込んでいた。
近所に日曜日も診療をしている医療機関が無いため、今日のところは市販の風邪薬でやり過ごすしか無かった。
「今日は広布唱だ……ゴホッゲホッ!」
「ユタ、無理しなくていいから。1日くらい勤行懈怠したところで、罰を下すセコい仏でも無いだろう」
妖怪の威吹が言うと、障魔のささやきに聞こえてしまうのだ。
「1日じゃない……もうふつ……カホッ!ケホっ!」
「だから!」
その時、威吹の右の長くて尖った耳がピクッと動いた。
「とにかく、養生していてくれ。病死でも、早死にされては困るんだ」
威吹は刀を手に取ると、玄関の方に向かっていった。
[同日10:05.ユタの家の玄関 威吹邪甲]
「何用だ?」
玄関のドアを開けると、そこには1人の青年が立っていた。
短い金髪に、両耳にはピアスを着けている。ジャンパーにジーンズというラフな格好をした人間に化けてはいるが、威吹は一発で同族だと見破った。
「威吹先生。えーっと……カンジです。威波、字は莞爾です。弟子入りの志願に参りました」
「今、それどころではない。帰れ」
威吹は一蹴して追い返そうとしたが、
「先生の“獲物”……。お体の具合は、いかがですか?」
「なっ?何故それを!?」
「最近、インフルエンザが流行り出していると専らの情報です」
その時、威吹は思い出した。妖術の中に、流行り病を流布させるものがあると。そしてそれは妖術に長けた妖狐も、十分使用可能だ。目の前にいるカンジという男は、威吹はあまり妖術の得意な男ではないと思った。とはいうものの……。
「お前、まさか……!」
威吹に条件を飲ませるために、ユタに手を出したとしたら、それは許されざる行為である。
妖狐の里の掟では、“獲物”の横取りは厳禁である。
「オレの見立てでは、高僧の類でもないのにS級の霊力を持つ人間。先生の御目利きにも感銘を受けたのです」
「その“獲物”を横取りしようとしているのか、お前は?」
「それは誤解です。オレはあくまで、先生の弟子入りを志願して参った次第」
「じゃあ、どうしてユタが流行り病にかかっていると知ってるんだ?」
「先生、こいつを御存知ですか?」
カンジはジャンパーのポケットから、1枚の写真を出した。おどろおどろしい魍魎の姿がそこに写っていた。
「こいつは先月、オレが取り逃がした“しょうけら”だ」
「正確には現代風に変異を遂げた、“しょうけら”の亜種です。先生の御存知だった江戸時代の“しょうけら”は、狙った獲物をピンポイントで病気にさせるだけでしたが、生き延びた連中は変異を遂げ、インフルエンザを流行させるまでになりました」
「何だって?じゃあ、そいつがユタを流行り病に掛からせたと?」
「そういうことです」
「だから、何でお前がそれを知ってるんだ?」
「この前、オレにケンカを売ってきたヤツが正にそいつで、体をバラバラに切り刻んでやりました。その直前、先生に嫌がらせする為に先生の“獲物”殿をインフルエンザに掛からせたと白状しましたが」
「な、何だって!?」
「これが証拠です」
カンジは至って平然と、さいたま市指定のゴミ袋に入れた“しょうけら”の残骸を見せた。
「いや、持ってこなくていいから!」
「? 先生は御存知無いんですか?」
「何が?」
「今の“しょうけら”変異亜種は、臓器の一部を煎じることにより、奴らが流行らせたインフルエンザの特効薬ができるのです」
「ということは!?」
「先生の弟子にして頂けるのでしたら、すぐにでも特効薬をお作り致します」
「くっ……そう来たか!見た目は現代の遊び人のようで、そこはさすが妖狐だな。分かったよ。背に腹は代えられん。すぐに薬を作ってくれ」
「かしこまりました」
[同日12:00.ユタの部屋。ユタ、威吹、カンジ]
「さ、39度7分……どんどん上がってる……」
「待たせたな、ユタ!」
ユタとカンジはユタの部屋に飛び込んできた。
「キミは……先月の……」
「お久しぶりです。この度、威吹先生の弟子にして頂いたカンジと申します。以後、お見知りおきを」
「ちょっと待った、カンジ。まだだ」
「は?」
「お前の薬がちゃんと効いて、ユタの病気が治ってからだ。それまでは仮だな」
「はあ……。とにかく、これを飲んでください」
「抹茶みたいな……?いや、きな粉か……?」
「ユタの病気の特効薬だよ。妖狐族に伝わる、ね……」
「ふーん……」
「これを飲めば、今日中に完治するでしょう」
「ええっ?」
「とにかく飲んでみて。このままだと、ユタの病気がどんどんひどくなってしまう」
「恐らくこのままですと、今日中に肺炎を併発するかと」
「カンジ!」
「統計の上からですよ」
「いつ、統計を取った!?いつ!?」
「それは……」
「分かった分かった。せっかくだから飲むよ」
ユタは辟易した感じで、山手線よりは濃く、しかし埼京線よりは薄い緑色の粉を飲んだ。
「う……」
「本当に大丈夫なんだろうな?もしユタを死なせでもしたら……」
「大丈夫ですよ。明日から、先生はオレを正式な弟子にしてくださるでしょう」
「万が一失敗したら、お前の体をさっきの“しょうけら”のようにしてやる」
「どうぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この辺はOKネタと大して変わらない。カンジは人間形態ではなく、頭に狐耳を生やした第2形態で現れるだけであります。威吹が、ここは人間界なんだから、せめてオレと同じ第1形態にするか、人間形態にしろとたしなめる。
カンジは素直に言う事を聞いて人間形態になるが、服装も着物から上記のジャンパーにジーンズというラフな姿になり、
「だからって別に、服装まで変えることは無いんだぞ」
と、突っ込まれている。