報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「結月ゆかり起動!」

2015-03-12 22:24:37 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月15日10:03.埼玉県さいたま市岩槻区 東武鉄道・岩槻駅 井辺翔太]

〔まもなく1番線に、上り電車が参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください〕

 休日の岩槻駅。
 当然ながら、駅構内は私服の乗客が多い。
 そんな中、井辺は紺色のスーツに身を包んで電車を待っていた。
 8000系と呼ばれる旧型の電車が仮設のホームに入線してくる。

〔「岩槻、岩槻です。各駅停車の大宮行きです」〕

 短い発車メロディが流れるが、初期の“電車でGo!”の発メロと同じなのは内緒。
 吊り革に掴まった井辺を乗せて、私鉄電車が走り出す。

〔「ご乗車ありがとうございます。大宮行きです。次は七里(ななさと)、七里です」〕

 井辺は自分のケータイを出し、そこからメール画面を確認した。
 そこには、4月1日から正式に上司となる敷島とのやり取りが残されている。

[3月13日17:00.東京都内 敷島エージェンシー 井辺翔太&敷島孝夫]

「ただいまァ」
「お帰りなさい、社長」
「お疲れ様です」
 帰社した敷島を出迎えたのは一海と井辺。
「あれ、井辺君?まだ帰ってなかったのかい?」
「はい。彼女達と色々話を聞いていて……」
「はは、そうか。この仕事について、興味を深めてくれたかな?」
「はい。とても」
「それは良かった。……あ、そうそう。明日、結月ゆかりを起動させることになったから」
「ええっ!?」
「平賀先生が、『リンとレンの修理よりも、先に結月ゆかりを起動させる方が早い』と判断されてね。明日起動させることになった。まあ、技術的なことは先生方にお任せするしかない。向こうの研究員達にも、いい経験になるということだしね」
「きっと、奥で待ってる彼女達も喜びますよ」
「そうだな。俺達、営業系は彼女が起動されている間、どんな売り方をするか企画をしっかり立てないとな。まあ、キミは駆け出しだから、まずは俺が叩き台を作るよ」
「あ、あの……社長」
「ん?」
「その……結月ゆかりの起動に、私は立ち会えないのでしょうか?」
「100パー技術的なことだから、俺達が行ったって意味が無いよ」
「じゃあせめて、彼女が周囲のことを認識できるようになるその次の日でも構いません。プロデューサーとして、真っ先に会っておきたいんです」
「そこまで言うんなら……」
「ありがとうございます!」
「俺もアリスが入院してることだし、ついでに行ってみるか」
 アリスは、さいたま市内の産婦人科に入院している。
「じゃあ明後日、大宮駅で会おう」
「はい!」
「今日はもう帰りなさい」
「失礼します。明後日、よろしくお願いします!」
 井辺が帰った後で、ふと敷島は思った。
「……ん?あいつ、何で新造ボーカロイドが起動して次の日に……なんてこと知ってるんだ?誰か教えた?」
「いいえ。今日はミクちゃんとしか話していませんし、そんな起動の話なんてしてませんよ?」
「ふーん……?」
 敷島は首を傾げた。

[3月15日10:30.JR大宮駅 井辺翔太&敷島孝夫]

「おはようございます、社長」
「おはよう。……日曜日なんだから、そんなスーツ着てこなくてもいいのに」
「いえ。社長も着ていらっしゃるので……」
「ああ、これ?奥さんの見舞いの後、ルカとMEIKOのライブに顔を出そうと思ってね。お世話になってるイベント主催者のお偉いさんも来るから、挨拶しておこうと思って。キミのことも話しておくからね」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、研究所へ向かおう」

 2人は大宮駅西口からタクシーに乗った。
 その道中、車内で……。
「そういえば井辺君」
「はい?」
「キミはボーカロイドについて、どれくらいの知識を持っているんだい?」
「どれくらいと申しましても、せいぜい『歌って踊れるアンドロイド』くらいしか分かりませんが……」
「その割には、『起動した後で認識力が次の日……』なんての、よく知ってたね?」
「はあ……。そう言えば、何ででしょうね。何か、頭の中に浮かんだので、ついそのまま喋ってしまって……。余計な一言だったでしょうか?」
「いや……。逆に何も知らないはずのキミが、そんなマニアックなことを知っているのに驚いたよ。もちろん、合ってる」
「どこかで、たまたま頭の片隅に入れておく機会でもあったのでしょうか?」
「いや、それは俺が聞きたいよ!」
「そ、そうですね。すいません」
「あ、それと、もう1つ」
「はい?」
「キミが帰った後、一海から聞いたんだけど、シンディから『マウンティング』を受けたんだってな?」
「マウンティング?何でしょう?」
「シンディの悪い癖で、『どっちが強いか』を決めたがるんだ。キミに威嚇してきて、脅かしてきたみたいだな?」
「ああ、あれですか。いえ、大丈夫です。近距離でライフルは不利ですから」
「よく知ってるな。銃火器への知識もあるのかい?」
「そういうわけではないんですが……。ただ、以前どこかで、シンディのようなロボットを見たことがあるような気がして……」
「右手に銃火器仕込んでるの、シンディとそのお姉さんで、今は仙台の大学の記念館に展示されてるエミリーくらいしかいないはずだけど……」
「夢のような記憶なので、昔、夢で見たのかもしれません」
「予知夢を見るプロデューサーかぁ……。それで売れそうな気がするなぁ……」
「……か、もしくは、そういう映画を見たか」
「そうか。趣味は映画鑑賞だと言ってたね」
「はい。逆に色々見過ぎて、却ってワケが分からなくなるくらいでして……」
「オススメの作品とかあるの?」
「“エコーナイト・オブ・ザ・クロックタワー”とか、最近ハマってます」
「あのホラーアドベンチャーの!」
「はい。確か将来、舞台化もするという話を聞きましたが……」
「あの映画の悪役の中に、両刀使いの姉弟が出て来るだろう?」
「ええ」
「主人公クラスの配役のオーディションは落ちたけども、実はリンとレンが合格ラインにいるんだ」
「本当ですか?」
「ああ。だから、早いとこあの2人には復活してもらいたんいだけどね。ボーカロイドのいい所は人間側が調整すれば、もうレッスンも稽古もいらないっていうのがあるんだ」
「ああ、なるほど」
「人間だったら、もうダメだ。こんなに休業期間が長いようでは、せっかくの配役も辞退しなければならない」
「はい」
「まあ、そこは俺に任せて、キミは新人の面倒を見てくれ。ああ、もちろん、どういうふうにやればいいのか、ちゃんと研修するから」
「分かりました」

 2人のプロデューサーを乗せたタクシーは、さいたま市内を西へ向かって進んだ。
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