報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「ロボット井辺」

2015-03-15 14:24:59 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月21日10:00.デイライト・コーポレーション埼玉研究所 井辺翔太&結月ゆかり]

「あ、こんにちは。プロデューサーさん」
 井辺がゆかりの待機している部屋に入ると、ゆかりが駆け寄ってきた。
「昨日、テストに全て合格したんですよ!」
 笑顔で報告してくる。
「おめでとうございます」
「これで私、正式にデビューできるんですね!?」
「その予定です」
「じゃあ、今日は何をしましょう?」
「調整をお願いします」
「調整ですね。分かりました。結月ゆかり、頑張ります!」
「お願いします」
 緊張した面持ちで頭を下げる井辺だった。

「井辺さん」
 ゆかりの部屋を出てエントランスに向かっていると、後ろから声を掛けられた。
「はい?」
 振り向くと、そこには無表情のエミリーがいた。
「これから・事務所へ・行かれます・か?」
「いえ。今日はこちらに顔を出しただけです。日程の都合もありますので、結月さんの引き取りはまた後日になります」
「了解・です」
「それじゃ」
「お気を・つけて」
 エミリーはペコリとお辞儀をした。
(……やはり・どう・スキャンしても・人間だ)
 後ろ姿をこっそりスキャンしたが、『human』(人間)としか出なかった。

[3月22日10:00.デイライト・コーポレーション埼玉研究所 井辺翔太&結月ゆかり]

「あ、こんにちは。プロデューサーさん」
 井辺がゆかりの待機している部屋に入ると、ゆかりが駆け寄ってきた。
「複雑なダンスのステップ、スムーズに踊れるようになりました!」
 まるで人間そのものの滑らかな動きで、ゆかりがステップを踏んだ。
「どうですか?」
「いい感じですね」
「ありがとうございます!それで、今日は何をしましょう?」
「調整をお願いします」
「調整ですね。分かりました」
「よろしくお願いします」
 井辺は頭を下げた。

 井辺が廊下に出ると、いつもエントランスに向かう廊下が定期清掃(ワックス掛け)で通行止めになっていた。
 しょうがないので迂回して進むと、ある部屋の前にエミリーが立っていた。
「井辺さん」
「この部屋が、鏡音さん姉弟が修理されている部屋ですか?」
「はい。ですが・井辺さんで・あっても・入室は・できません」
「社長からも言われてますので大丈夫です」
「井辺さん」
「何ですか?」
「結月ゆかりに・引き取り時期を・伝えましたか?」
「いいえ。既に把握していると思いますので」
「把握して・いません」
「は?」
「具体的な・期日が・入力されて・いません」
「昨日と今日は土日ですので、平日の明日が引き取りだと思いますが……」
「結月ゆかりは・まだ・そこまでの・知力を・持ち合わせて・おりません。『不安がって』・います。テストに・合格すれば・すぐに・引き渡しが・行われるものと・思って・いますから」
「分かりました」
 井辺は来た道を引き返した。
(……やはり・人間だ)
 エミリーは、もう1度スキャンして首を傾げた。

 井辺がゆかりの部屋に戻ると、ゆかりは部屋の隅に座り込んでいた。
「結月さん!」
「プロデューサーさん?どうかしましたか?」
 立ち上がる時、僅かにモーターの駆動音が聞こえた。
「あなたの具体的な引き取り時期を伝えていませんでした。予定では明日、社長と一緒に引き取りに伺います。だからそれまで、ここでお待ちください」
「……分かりました。明日、お待ちしています」
「申し訳ありません。テスト合格後、すぐに引き取るような認識をさせてしまいまして……」
「ああ、いえ!」
「どうしても曜日の配列の都合上、23日の引き取りとなってしまったのです」
「23日ですね。えーと……時間は……」
「この時間帯……10時を予定しています」
「10時ですね」
「10時頃ですので、10時ピッタリだとは思わないでください」
「では、秒の所は空欄にしておきます」
「……できれば、分の所も空欄にして頂けるとよろしいかと」
「そ、そうですよね!」
「明日の引き取り後、どのようなスケジュールになるかは、社長から説明があると思います」
「分かりました」
「それでは、明日の……」

 ガッシャーン!

「! 何だ、今のは?」
「ガラスの割れる音……ですね」
「!」
 井辺が外に飛び出した。
「いやだぁ!リン、レンと一緒にいるぅ!!」
「こら、リン!暴れるな!戻れ!」
 どうやらリンが錯乱して、部屋を飛び出してしまったらしい。
 エミリーが取り押さえようとするが、すばしっこいリンはスルリと抜けてしまう。
 ダッダッダッと廊下の奥に逃げようとするリンだが、
「でやぁーっ!」
 井辺に掴まれ、取り押さえられた。
「んきき……!」
「落ち着いてください。鏡音リンさん」
「う、うるさい……!」
 だが、後ろからレンにタックルされる。
「リンを放せ!ヘンタイ野郎!!」
 だが、すぐにエミリーに首根っこを掴まれる。
 そのままズルズルと、修理されている部屋に連れ戻された。
「大丈夫ですか、プロデューサーさん!?」
 そこへゆかりが駆け寄ってきた。
「ええ、大丈夫です。こういう修羅場は、何度か潜り抜けてきたので……」
「ええっ?」
「!」
 すると井辺はハッとなって、
(何で今、こんな言葉が出てきたんだろう?)
 と思った。

[同日同時刻 敷島エージェンシー MEIKO&シンディ]

 床にうつ伏せになり、頭から煙を出しているMEIKO。
 体に溜まった熱を放出する為、口から排気しているシンディ。
「壮絶な戦い……でしたね」
 固唾を飲んで(事務作業用のメイドロボットだが)見守っていた一海が言った。
 だが、シンディは肩を竦めた。
「どこが!てかMEIKO、アンタ弱過ぎ!」
 シンディの前のテーブルには、リバーシ(オセロ)があった。
 盤の上はシンディの黒で殆ど覆われていた。
「先週、プロデューサーに勝負を挑んで返り討ちにされたみたいだけど、人間に負けてるようじゃ、アタシにも勝てないわよ」
「ボーカロイドは……戦うロボットではないですからね」
 何とか自動復旧したMEIKO。
「……奥で、充電してきます」
「MEIKOさん、バッテリーならもう充電済みのがあるので、それを交換しては……」
 一海が言い終わらぬうちに、MEIKOが答えた。
「いいんです……。ほっといて……ください」
「明日には新しい後輩も来るんだから、しっかりした方がいいよ」
 シンディは奥に向かって言った。
「! 今、緊急信号が入りました。鏡音リンちゃんとレン君が暴走したと!」
「あー……姉さんが捕まえてくれたみたい……あ?プロデューサーが捕まえただぁ?」
「凄いですね!いくら戦闘力が無いとはいえ、生身の人間がボーカロイド2人を捕まえるなんて!」
 一海は驚いた様子だった。
「あのプロデューサー、社長の目論見通り、意外とやれるかもしれないね」
「頼もしい限りですね」

 芸能プロデューサーに求められているものはそれではないはずだが、何故か敷島エージェンシーでは必要なスキルなのだろうか。
コメント (2)
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