報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「羽田空港での一時」

2017-03-30 21:15:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日13:45.天候:晴 羽田空港・国際線ターミナル]

 白とオレンジ色のバスが、国際線ターミナルのバス降車場に到着する。

 マリア:「師匠、起きてますよね?」
 イリーナ:「あいよ。アタシゃ起きてるよー」

 実はマリア、国内線第2ターミナルにバスが到着してからイリーナを起こす活動をしていた。
 第1ターミナルにバスが到着した時、また寝そうになったので、再びマリアが起こした。

 マリア:(見た目は30代なのに、中身はBBAなんだから……)

 マリアはチッと舌打ちした。
 大魔道師として尊敬はしているが、こういう所が面倒で仕方が無かった。
 稲生が面白がっているところを見ると、ただ単に自分が“怠惰の悪魔”と契約しているが故の面倒臭がりなのかとマリアは思ってしまう。

 係員:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話様でした」

 稲生はターミナルの係員から荷物を受け取った。
 荷物の大きさだけなら、確かにこれから飛行機に乗りそうな出で立ちではある。
 実は稲生、国内線の利用も考えた。
 だが、今回はそれを控えることにした。
 結局はバスと鉄道のみになった次第。

 マリア:「師匠、まだ大師匠様が到着されるまで時間があるので、ここでランチにしませんか?」
 イリーナ:「うんうん、そうだね。どこか、お勧めのお店があるのかい?」
 マリア:「ユウタ」
 稲生:「あ、はい。一応、検索しておきました。……和食いいですか?」
 マリア:「家ではいつも私達の食生活になっているので、たまにはいいかと」
 イリーナ:「そうだね。ただ、夕食もダンテ先生のことだから、日本食を希望されると思うよ?」
 稲生:「はい、そこは考えてあります」
 イリーナ:「それならユウタ君の意見を全面採用しようかしら」
 稲生:「ありがとうございます」

 稲生達、国際線ターミナルの中に入った。

[同日14:15.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル4F]

 イリーナ:「なるほど。ポークカツレツとは、考えたね」
 稲生:「朝が早かったので、お腹ペコペコでしたから」
 イリーナ:「うんうん、そうだね。……あ、ライスとサラダお代わり」
 店員:「かしこまりました」
 マリア:「師匠が1番食べてます」
 稲生:「少し、ゆっくりでしたかね?飛行機は14時40分着とのことですが、どこから来るんでしたっけ?」
 イリーナ:「ロンドンだって。ロンドンのヒースロー空港」
 稲生:「東アジア魔道団と会うような場所では無さそうですが……」
 イリーナ:「別件でしょう。まだ“魔の者”との戦いは完全終結したわけじゃないからね」
 稲生:「そうですか」
 イリーナ:「イギリスといえば、マリア絡みの“魔の者”発祥の地でもあるからね、ダンテ先生、何か発見されたかねぇ……」
 稲生:「東アジア魔道団は“魔の者”との戦いは無いのでしょうか?」
 イリーナ:「彼らは彼らで、別の問題を抱えてるみたいだね」
 稲生:「そうなんですか?」
 イリーナ:「そう。私達の問題と彼らの問題。今ケンカしていいものなのかどうか、それとも協力すべきか、それとも付かず離れずの関係にするか……そういう話し合いだね」
 稲生:「向こうは日本支部の支部長、それに対してこちらは総師範である大師匠様、何か違う気がしますね」
 イリーナ:「しょうがないさ。向こうはちゃんとピラミッド式の組織作りがされているけど、こっちは違うもの」
 稲生:「と、言いますと?」
 イリーナ:「ダンテ一門の日本支部ってどこだと思う?」
 稲生:「えっ?えっと……それは……」
 イリーナ:「ね?確かにアタシ達は日本に拠点を作ってはいるけども、別に正式に門内から日本支部と決められているわけじゃない。勝手に私達が日本を拠点にしているだけの話。だから、彼らとはそもそも組織体制が違うのよ」
 稲生:「なるほど。エレーナだって日本を拠点にしてますもんね」
 イリーナ:「そういうこと。ナスターシャだって、日本拠点を作ったって言ったからね」

 イリーナはグラスワインを口に運んだ。

 イリーナ:「だからいいのよ。ここはダンテ先生に任せて」
 稲生:「なるほど。よく分かりました」

[同日14:40.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル・到着ロビー]

 昼食を終えた稲生達は慌ただしく、到着ロビーに向かった。
 稲生は緊張した面持ちで、スーツのネクタイを締め直す。
 それにつられてか、マリアもえんじ色のリボンタイを直した。

 国際線のダイヤだからか、定時性が高いとは言い難い。
 それでも比較的、順調なフライトだったのだろう。
 ロンドンからの乗客達が、ぞろぞろと到着口から出て来た。
 そしてその中に、彼はいた。

 稲生:「?」

 言われないとダンテだと分からないくらい。
 肖像画に出ている詩人・哲学者としてのダンテとは、全く違う風体をしていたからだ。
 ダブルのグレーのスーツの上に茶色のコートを羽織り、ステッキを手にしていた。
 頭にはグレーの中折れ帽。
 その下に覗かせる顔は、肌の白いものだった。

 イリーナ:「ああ、ダンテ先生。また、変装されておられるのですね」
 ダンテ:「あの姿で日本に来るのは、無理があるからね。これならイギリスからやってきた、向こうの人間に見えるだろう?」

 イリーナも高身長の女性であるが、ダンテはそれ以上の高さで、稲生やマリアを見下ろす形となっている。
 見た目の歳は50代半ばくらいだろうか。

 ダンテ:「昨年のクリスマスパーティ以来だね。元気なようで何より」
 稲生:「お久しぶりです、大師匠様。本日から、よろしくお願い致します」
 ダンテ:「こちらこそよろしく。今回の行程はキミが全て決めてくれたそうだね。期待しているよ」
 稲生:「はい!」
 ダンテ:「そして、キミがマリアンナ君だね?」
 マリア:「はい。イギリスより遥々、お疲れさまです」
 ダンテ:「見違えるほど明るいコになったそうじゃないか!日本での修行が功を奏したのだろう!」

 ダンテはヒョイとマリアを抱え上げた。

 マリア:「きゃっ!?ま、まだ私はそんなに……!」
 イリーナ:「先生、はしゃぐのもこの辺してください」
 ダンテ:「おお、そうだったな。いやいや、フザけて済まなかった」

 ダンテはマリアを床に下ろす。

 マリア:「は〜、ビックリした……」
 稲生:「大師匠様、お荷物お持ちします。……これだけですか?」

 ダンテが持っている鞄は、少し大きめのビジネスバッグであった。

 ダンテ:「そうだよ。あとの荷物はここにある」

 ダンテはコートの内ポケットを指さした。

 稲生:「は、はあ……。(四次元ポケット?)」
 イリーナ:「それより、そろそろ移動しましょう。先生もお疲れでしょう?今日はうちのユウタがいいホテルを予約してくれたそうですので、そちらで休みましょう」
 ダンテ:「うむ、そうだな。私はさすがに、どこでも寝られる特技は持ち合わせていないんだ。今夜はちゃんとしたベッドで寝てみたいね」
 稲生:「お任せください」
 イリーナ:「東京駅の近くのホテルです。リムジンで向かうそうですので」
 稲生:「そうですね。こちらです」

 稲生の先導により、魔道師達が移動を開始した。
 だが稲生、この後、とんでもないミスをしでかすことになる。
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