[9月16日14:02.天候:曇 JR白馬駅]
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、白馬です。大糸線、南小谷、糸魚川方面はお乗り換えです。……〕
電車が単線のローカル線を走行する。
マリア:「そろそろ師匠を起こした方がいいぞ」
稲生:「そうですね。先生、先生。そろそろ着きますよ。起きてください」
稲生がイリーナの肩をゆする。
イリーナはグリーン車の座席を深々倒し、ローブのフードを被って寝ていた。
〔「……お乗り換えには、まだだいぶ時間がございます。今度の普通列車、南小谷行きは15時49分……」〕
稲生:「先生……?」
マリア:「どうした?」
稲生:「何か、いつもの先生と違う反応なんです」
マリア:「どういうことだ?まさか死んで……?」
稲生:「いや、ちゃんと呼吸はあるんですけど、反応が無いというか……」
〔「……まもなく終点、白馬、白馬です。1番線到着、お出口は左側です。……」〕
マリア:「師匠、師匠」
イリーナ:「う……うぁあっ!」
イリーナはようやく目が覚めた。
イリーナ:「はあ……はあ……」
稲生:「せ、先生?大丈夫ですか?」
イリーナ:「う、うん……。大丈夫よ……」
マリア:「何か、予知夢でも……?」
イリーナ:「う、うん……。ちょっとね……」
稲生とマリアは顔を見合わせた。
マリア:(それまでずっと寝ていたわけだから、私達に直接何かあるというわけでもないみたいだけど……)
電車は駅舎と直接繋がっている1番線に到着した。
〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は、回送となります。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕
改札口を出て待合室を抜け、駅前のロータリーに出る。
駅前には観光客を出迎えに来たホテルや旅館の送迎バスが散見された。
稲生:「先生、本当に大丈夫ですか?少し、お休みになってからの方が……」
イリーナ:「いいえ、大丈夫よ。それより、迎えの方は?」
マリア:「おかしい。いつもなら、私達を迎えに来ているはずなのに……」
魔法で作り上げた車と運転手。
今回はイリーナが使っているはずだから、それらしい高級車と制服と制帽に身を包んだ運転手が迎えに来ているはずだった。
それがどこにもいない。
イリーナ:「……!」
マリア:「どうします?ル・ゥラで帰りますか?」
イリーナ:「ダメよ。いくら何でもここで魔法は使えないわ。タクシーで近くまで行きましょ」
稲生:「分かりました」
稲生達は駅前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
[同日14:35.天候:曇 長野県北部 マリアの屋敷付近]
稲生:「すいません。あのバス停の前で止めてください」
運転手:「えっ?そんな所でいいんですか?」
稲生:「はい、お願いします」
助手席に座る稲生は、運転手に停車場所を指示した。
運転手が驚くのも無理は無い。
ここは山道の途中で、バス停も誰得な位置にあるからだ。
『峠道』なんて適当な名前が付いているくらいだ。
一応、時刻表としては1日3本のバスが走っていることが分かる。
それでも作者の家の近くを通る西武バス大宮営業所、大38系統より多い。
運転手:「これから、山菜取りかキノコ狩りですか?」
バス会社と同グループのタクシー会社に所属する運転手は、一応ここが山菜取りやキノコ狩りに来る人達くらいはいるということは理解しているようだ。
一応、そのバス停もそんな利用者を見込んでのことだろう。
しかし稲生は、このバス停で乗り降りするのを自分以外に見たことが無い。
稲生:「いえ、帰宅ですよ」
運転手:「帰宅!?」
稲生:「……あ、カードで払います。こんな山奥でも、電波は入るはずなんで……」
運転手:「は、はい……」
稲生の言う通り、クレジットカードは使えた。
運転手:「では、こちらにサインを……」
稲生:「はい」
運転手:「ありがとうございました」
稲生達はタクシーを降りた。
運転手:「あっ、お客さん!そっちは崖……!」
稲生達にははっきり見える林道のような砂利道。
しかし、タクシーの運転手には崖へのダイブにしか見えなかった。
運転手:「……いない……」
これでまた、この山道における怪談話を1つ増やしてしまった。
まあ、シートを濡らして消えてしまう幽霊よりはマシだろう。
料金はちゃんと支払われているのだから。
[同日14:40.天候:曇 マリアの屋敷]
公道から見えなくなった所で、イリーナは瞬間移動魔法を使った。
それで稲生達は屋敷の前に移動する。
稲生:「こ、これは……!?」
イリーナ:「くっそ〜……!」
マリア:「やられたか……」
屋敷が半壊していた。
具体的には主にマリア達が居住していた西側のダメージが大きかった。
稲生:「先生、あれを!」
公道に通じる道の途中で、車が激突事故を起こしていた。
あれはイリーナが召喚し、駅まで迎えに来させるはずの車だ。
それで来れなかったのである。
マリア:「だ、誰がこんなことを……!」
イリーナ:「ちょっとあなた!大丈夫!?」
イリーナが玄関近くで倒れてた魔道師に駆け寄った。
稲生:「あっ、あなたは……!キャサリンさん!?」
マリア:「何だって!?」
イリーナ:「キャシー、一体どういうことなの!?」
キャサリン:「『3時の魔道師』を連れて来たはいいものの……待ち伏せしていた東アジア魔道団の攻撃を受けて、このザマです」
稲生:「『3時の魔道師』は!?」
キャサリン:「私のレストランで働いていた弟子候補のエリザベス・リー。……実際は、東アジア魔道団のスパイだったようです」
イリーナ:「やっぱりか」
稲生:「『3時の魔道師』は東アジア魔道団のヤツだったんですか!?」
キャサリン:「そういうことになります。あなた達のことは、お客として知っていたんですね。それで、殺してしまうと足が付くと思ったとのことです」
イリーナ:「つまり、これは……東アジア魔道団の正式なる宣戦布告と見て良いということね?」
キャサリン:「イリーナ先輩。このことを早く、大師匠様に……!」
イリーナ:「ええ。もちろんよ」
稲生:「一体、何がどうなってるんだ……!?」
キャサリン:「稲生君が思っているほど……あの学校は、ただ単に怪奇現象に晒されただけの場所じゃないということよ」
稲生:「ええっ?」
イリーナ:「とにかく、中に入りましょう。半壊程度で済んで良かったわ。これくらいなら、まだ魔法で直せる」
いつの間にか単に曇っていた空から雷鳴が響き、雨が降り出して来ていた。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、白馬です。大糸線、南小谷、糸魚川方面はお乗り換えです。……〕
電車が単線のローカル線を走行する。
マリア:「そろそろ師匠を起こした方がいいぞ」
稲生:「そうですね。先生、先生。そろそろ着きますよ。起きてください」
稲生がイリーナの肩をゆする。
イリーナはグリーン車の座席を深々倒し、ローブのフードを被って寝ていた。
〔「……お乗り換えには、まだだいぶ時間がございます。今度の普通列車、南小谷行きは15時49分……」〕
稲生:「先生……?」
マリア:「どうした?」
稲生:「何か、いつもの先生と違う反応なんです」
マリア:「どういうことだ?まさか死んで……?」
稲生:「いや、ちゃんと呼吸はあるんですけど、反応が無いというか……」
〔「……まもなく終点、白馬、白馬です。1番線到着、お出口は左側です。……」〕
マリア:「師匠、師匠」
イリーナ:「う……うぁあっ!」
イリーナはようやく目が覚めた。
イリーナ:「はあ……はあ……」
稲生:「せ、先生?大丈夫ですか?」
イリーナ:「う、うん……。大丈夫よ……」
マリア:「何か、予知夢でも……?」
イリーナ:「う、うん……。ちょっとね……」
稲生とマリアは顔を見合わせた。
マリア:(それまでずっと寝ていたわけだから、私達に直接何かあるというわけでもないみたいだけど……)
電車は駅舎と直接繋がっている1番線に到着した。
〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は、回送となります。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕
改札口を出て待合室を抜け、駅前のロータリーに出る。
駅前には観光客を出迎えに来たホテルや旅館の送迎バスが散見された。
稲生:「先生、本当に大丈夫ですか?少し、お休みになってからの方が……」
イリーナ:「いいえ、大丈夫よ。それより、迎えの方は?」
マリア:「おかしい。いつもなら、私達を迎えに来ているはずなのに……」
魔法で作り上げた車と運転手。
今回はイリーナが使っているはずだから、それらしい高級車と制服と制帽に身を包んだ運転手が迎えに来ているはずだった。
それがどこにもいない。
イリーナ:「……!」
マリア:「どうします?ル・ゥラで帰りますか?」
イリーナ:「ダメよ。いくら何でもここで魔法は使えないわ。タクシーで近くまで行きましょ」
稲生:「分かりました」
稲生達は駅前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
[同日14:35.天候:曇 長野県北部 マリアの屋敷付近]
稲生:「すいません。あのバス停の前で止めてください」
運転手:「えっ?そんな所でいいんですか?」
稲生:「はい、お願いします」
助手席に座る稲生は、運転手に停車場所を指示した。
運転手が驚くのも無理は無い。
ここは山道の途中で、バス停も誰得な位置にあるからだ。
『峠道』なんて適当な名前が付いているくらいだ。
一応、時刻表としては1日3本のバスが走っていることが分かる。
運転手:「これから、山菜取りかキノコ狩りですか?」
バス会社と同グループのタクシー会社に所属する運転手は、一応ここが山菜取りやキノコ狩りに来る人達くらいはいるということは理解しているようだ。
一応、そのバス停もそんな利用者を見込んでのことだろう。
しかし稲生は、このバス停で乗り降りするのを自分以外に見たことが無い。
稲生:「いえ、帰宅ですよ」
運転手:「帰宅!?」
稲生:「……あ、カードで払います。こんな山奥でも、電波は入るはずなんで……」
運転手:「は、はい……」
稲生の言う通り、クレジットカードは使えた。
運転手:「では、こちらにサインを……」
稲生:「はい」
運転手:「ありがとうございました」
稲生達はタクシーを降りた。
運転手:「あっ、お客さん!そっちは崖……!」
稲生達にははっきり見える林道のような砂利道。
しかし、タクシーの運転手には崖へのダイブにしか見えなかった。
運転手:「……いない……」
これでまた、この山道における怪談話を1つ増やしてしまった。
まあ、シートを濡らして消えてしまう幽霊よりはマシだろう。
料金はちゃんと支払われているのだから。
[同日14:40.天候:曇 マリアの屋敷]
公道から見えなくなった所で、イリーナは瞬間移動魔法を使った。
それで稲生達は屋敷の前に移動する。
稲生:「こ、これは……!?」
イリーナ:「くっそ〜……!」
マリア:「やられたか……」
屋敷が半壊していた。
具体的には主にマリア達が居住していた西側のダメージが大きかった。
稲生:「先生、あれを!」
公道に通じる道の途中で、車が激突事故を起こしていた。
あれはイリーナが召喚し、駅まで迎えに来させるはずの車だ。
それで来れなかったのである。
マリア:「だ、誰がこんなことを……!」
イリーナ:「ちょっとあなた!大丈夫!?」
イリーナが玄関近くで倒れてた魔道師に駆け寄った。
稲生:「あっ、あなたは……!キャサリンさん!?」
マリア:「何だって!?」
イリーナ:「キャシー、一体どういうことなの!?」
キャサリン:「『3時の魔道師』を連れて来たはいいものの……待ち伏せしていた東アジア魔道団の攻撃を受けて、このザマです」
稲生:「『3時の魔道師』は!?」
キャサリン:「私のレストランで働いていた弟子候補のエリザベス・リー。……実際は、東アジア魔道団のスパイだったようです」
イリーナ:「やっぱりか」
稲生:「『3時の魔道師』は東アジア魔道団のヤツだったんですか!?」
キャサリン:「そういうことになります。あなた達のことは、お客として知っていたんですね。それで、殺してしまうと足が付くと思ったとのことです」
イリーナ:「つまり、これは……東アジア魔道団の正式なる宣戦布告と見て良いということね?」
キャサリン:「イリーナ先輩。このことを早く、大師匠様に……!」
イリーナ:「ええ。もちろんよ」
稲生:「一体、何がどうなってるんだ……!?」
キャサリン:「稲生君が思っているほど……あの学校は、ただ単に怪奇現象に晒されただけの場所じゃないということよ」
稲生:「ええっ?」
イリーナ:「とにかく、中に入りましょう。半壊程度で済んで良かったわ。これくらいなら、まだ魔法で直せる」
いつの間にか単に曇っていた空から雷鳴が響き、雨が降り出して来ていた。