[魔界時間4月9日12:00.天候:曇 アルカディアシティ・サウスエンド地区(通称、南端村) 稲荷神社]
威吹の話が終わった。
威吹:「オレは……ボクは身内の暴走を止められなかった。この事を知ったのは……カンジがボクの所に来てからだ。カンジが教えてくれたんだ。だけど……ボクは教えることができなくて……。申し訳ない……申し訳ない……」
威吹はうな垂れて何度も稲生に謝罪した。
カンジこと、威波莞爾は妖狐の里からやってきた若い妖狐で、威吹の押し掛け弟子となっていたが、その正体はダンテの作り上げた化身であった。
確かにダンテなら、真相を知るのは造作も無いことだろう。
この時から既に、ダンテ一門では稲生の弟子入りを企んでいたということが分かる。
マリア:「それで、その玉上とやらはどうした?」
威吹:「まだ……生きてるよ。処刑のしようが無いんだ。別に、掟に違反したというわけでもないのだから」
特定の妖狐と盟約を結んだ人間に対しては、他の妖狐の手出しは一切無用という掟はある。
だが、その友人・知人にまで手を出すなという掟は無い。
家族に手を出すなという掟も無いのだが、こちらは無くても手を出さないことが不文律になっている。
それは空気読めということだ。
威吹:「但し、あいつは2度と人間界にも魔界にも出てこれまい。人間界に行けばユタに殺されるだろうし、魔界に来ようものなら、オレが痛い目に遭わせてやるからな。そう、オレは言ってあるんだ。里の長老も、苦い顔をしていたよ」
マリア:「……取りあえず、使用者責任でその長老を引き立てるというのはどうだ?それとも、もう一度イブキを殴り飛ばすか?」
威吹:「長老はさすがにムリだが、ボクを殴るのは一向に構わない」
稲生:「……やめておくよ。キミを殴っても、長老さんに責任を求めても、何がどうなるというわけでもない。それに……マリアさんと初めて会って、キミと世界樹の葉を見つけても、何にもならなかったじゃないか」
威吹:「う、うん……」
死んだ人間を無理無く生き返らせる魔法の葉っぱという噂だったが、実際は煎じて服用した者から死亡した者に関する一切の記憶を消し去る魔法の葉っぱだった。
この場合は稲生から河合有紗の記憶を全て消し去るというものだった。
が、稲生は忘れなかった。
当初は忘れていたのだが、それほどまでに稲生の霊力は強かったのだろう。
マリアに惚れたのは、河合の面影があったからというのはある。
稲生:「だから、もういいよ。むしろ、真実を正直に話してくれてありがとう」
威吹:「こんなことを言うのも何だけど……、ボクも正直ホッとしたような気がする」
稲生:「うん。そうだね」
と、そこへ襖の戸が叩かれた。
坂吹:「失礼します。あの……昼食の準備ができましたが、如何でしょうか?」
威吹:「おっ、もうそんな時間か。ユタ達も食べて行ってよ」
稲生:「そうだね」
坂吹:「こちらにお持ちしてありますので」
坂吹はお盆に乗ったどんぶりを運んだ。
きつねうどんだった。
稲生:「さすがは稲荷神社。やっぱり、油揚げとかお供えされて行くの?」
坂吹:「そうだね。ユタにとっては邪教だろうけどさ」
稲生:「いや、まあ、しょうがない。神社で言うなら、御神体に拝まなければいいんだ」
ここでは殆ど威吹が御神体のようなものだ。
妖狐の里というのは本来、稲荷大明神より使いを頼まれる狐達が寄り集まってできた村だという。
坂吹が折り畳み式のテーブルを出して、その上に丼を載せる。
稲生:「頂きます」
稲生は早速、うどんを口に運んだ。
稲生:「美味い!」
威吹:「うむ。なかなかよくできてるな」
坂吹:「ありがとうございます!」
マリア:「あなたが作ったのか」
坂吹が作ったようである。
威吹:「こいつ、こういうのが好きで、何でも一から作っちゃうんだ」
稲生:「ということは、うどんも粉から作ったということ?」
坂吹:「そうです。いやー、踏みつけてコシを出すのに苦労しましたよ」
稲生:「それはそれは」
稲生が感心していると、マリアが箸を止めた。
マリア:「踏みつけて?……足で?」
稲生:「そうです。……って、いや、マリアさん。もちろん、直接足で踏むわけじゃないですよ。ちゃんと何かカバーをして、その上からって意味です」
マリア:「変わった作り方だ。……でも、美味しい」
マリアの髪はショートカットなのであまりしないが、セミロング以上の長さの女性だと、麺を口に持って行く際、片方の手で髪を避けるだろう。
あれが萌えポイントなのだ。
威吹も結婚前は腰まで髪を伸ばしていたのだが、総髪にしていたこともあってか、そのようなことはしなかった。
稲生:「それにしても……。有紗殺しの犯人は分かったけど、それだけじゃなぁ……」
威吹:「ん?」
稲生:「それを有紗に伝えても、僕達を襲うのは止めないかもな。やっぱり、盗まれた遺骨を見つけて供養してあげないとダメな気がする」
威吹:「確かにそうだな」
マリア:「イブキは心当たりは無いのか?」
威吹:「無いなぁ……。それに、ボクがいたから妖狐の里から色々と誰かが来ていたわけだからね。今や人間界に、どれだけの妖狐が住み着いているか……。それに、ボクがそうであるように、誰も墓に納められた遺骨なんか興味無いよ。その墓に、何か重要なものが納められていたというなら別だけど」
稲生:「いや、無いはずだね。あったら、もう既に情報を掴んでいるわけだし」
マリア:「うんうん」
マリアはうんうんと頷いた。
と、そこへマリアの手持ちの水晶球が光る。
携帯用に、大きさはソフトボールくらいだ。
マリア:「師匠からかな。……はいはい、こちらマリアンナです。どうぞ」
威吹:「いつも思うんだが、何でこいつの水晶球の交信は無線交信みたいなんだ?」
稲生:「他の人達からも言われるよ……」
稲生は苦笑した。
相手はイリーナからで、現在地を確認するものだった。
魔界は往々にして水晶球同士のやり取りがしにくい。
ましてや、アルカディアシティの郊外にある南端村は、殆ど水晶球での位置確認ができないのだろう。
マリアは昼食を終えたら魔王城に戻る旨を伝えていた。
マリア:「全く。あれだけ酔い潰れておいて……」
稲生:「ハハハハ……」
威吹:「大変だな。おもしろ師匠を持つと」
威吹もついでに笑う。
と、その時、威吹はこんなことを言い出した。
威吹:「なあ、さっきの遺骨泥棒の話なんだが……」
稲生:「なに?」
威吹:「占いで分からないのか?その、泥棒が遺骨を盗み出す所とか見れないのか?」
稲生:「あ!」
マリア:「そうだ!その手があった!」
2人の魔道師はポンと手を叩いた。
稲生:「水晶球占いなんて身近過ぎて、逆に忘れていたよ」
マリア:「私の腕じゃまだ未熟だけど、取りあえず何とか分かるかもしれないな」
稲生達は急いで昼食を済ませると、早速マリアの水晶球で占うことにした。
すると、だいたい上手く行った。
性能の悪いカメラの白黒映像みたいな画質ではあったが、犯人を特定するには無理のない程度であった。
それで、その映像を観た稲生達は狐に摘ままれる思いをしたという。
それは何故だと思う?
1:犯行時刻に何も映っていなかったから
2:墓がひとりでに暴かれたから
3:遺骨を盗んだのが有紗だったから
4:想像もつかない
威吹の話が終わった。
威吹:「オレは……ボクは身内の暴走を止められなかった。この事を知ったのは……カンジがボクの所に来てからだ。カンジが教えてくれたんだ。だけど……ボクは教えることができなくて……。申し訳ない……申し訳ない……」
威吹はうな垂れて何度も稲生に謝罪した。
カンジこと、威波莞爾は妖狐の里からやってきた若い妖狐で、威吹の押し掛け弟子となっていたが、その正体はダンテの作り上げた化身であった。
確かにダンテなら、真相を知るのは造作も無いことだろう。
この時から既に、ダンテ一門では稲生の弟子入りを企んでいたということが分かる。
マリア:「それで、その玉上とやらはどうした?」
威吹:「まだ……生きてるよ。処刑のしようが無いんだ。別に、掟に違反したというわけでもないのだから」
特定の妖狐と盟約を結んだ人間に対しては、他の妖狐の手出しは一切無用という掟はある。
だが、その友人・知人にまで手を出すなという掟は無い。
家族に手を出すなという掟も無いのだが、こちらは無くても手を出さないことが不文律になっている。
それは空気読めということだ。
威吹:「但し、あいつは2度と人間界にも魔界にも出てこれまい。人間界に行けばユタに殺されるだろうし、魔界に来ようものなら、オレが痛い目に遭わせてやるからな。そう、オレは言ってあるんだ。里の長老も、苦い顔をしていたよ」
マリア:「……取りあえず、使用者責任でその長老を引き立てるというのはどうだ?それとも、もう一度イブキを殴り飛ばすか?」
威吹:「長老はさすがにムリだが、ボクを殴るのは一向に構わない」
稲生:「……やめておくよ。キミを殴っても、長老さんに責任を求めても、何がどうなるというわけでもない。それに……マリアさんと初めて会って、キミと世界樹の葉を見つけても、何にもならなかったじゃないか」
威吹:「う、うん……」
死んだ人間を無理無く生き返らせる魔法の葉っぱという噂だったが、実際は煎じて服用した者から死亡した者に関する一切の記憶を消し去る魔法の葉っぱだった。
この場合は稲生から河合有紗の記憶を全て消し去るというものだった。
が、稲生は忘れなかった。
当初は忘れていたのだが、それほどまでに稲生の霊力は強かったのだろう。
マリアに惚れたのは、河合の面影があったからというのはある。
稲生:「だから、もういいよ。むしろ、真実を正直に話してくれてありがとう」
威吹:「こんなことを言うのも何だけど……、ボクも正直ホッとしたような気がする」
稲生:「うん。そうだね」
と、そこへ襖の戸が叩かれた。
坂吹:「失礼します。あの……昼食の準備ができましたが、如何でしょうか?」
威吹:「おっ、もうそんな時間か。ユタ達も食べて行ってよ」
稲生:「そうだね」
坂吹:「こちらにお持ちしてありますので」
坂吹はお盆に乗ったどんぶりを運んだ。
きつねうどんだった。
稲生:「さすがは稲荷神社。やっぱり、油揚げとかお供えされて行くの?」
坂吹:「そうだね。ユタにとっては邪教だろうけどさ」
稲生:「いや、まあ、しょうがない。神社で言うなら、御神体に拝まなければいいんだ」
ここでは殆ど威吹が御神体のようなものだ。
妖狐の里というのは本来、稲荷大明神より使いを頼まれる狐達が寄り集まってできた村だという。
坂吹が折り畳み式のテーブルを出して、その上に丼を載せる。
稲生:「頂きます」
稲生は早速、うどんを口に運んだ。
稲生:「美味い!」
威吹:「うむ。なかなかよくできてるな」
坂吹:「ありがとうございます!」
マリア:「あなたが作ったのか」
坂吹が作ったようである。
威吹:「こいつ、こういうのが好きで、何でも一から作っちゃうんだ」
稲生:「ということは、うどんも粉から作ったということ?」
坂吹:「そうです。いやー、踏みつけてコシを出すのに苦労しましたよ」
稲生:「それはそれは」
稲生が感心していると、マリアが箸を止めた。
マリア:「踏みつけて?……足で?」
稲生:「そうです。……って、いや、マリアさん。もちろん、直接足で踏むわけじゃないですよ。ちゃんと何かカバーをして、その上からって意味です」
マリア:「変わった作り方だ。……でも、美味しい」
マリアの髪はショートカットなのであまりしないが、セミロング以上の長さの女性だと、麺を口に持って行く際、片方の手で髪を避けるだろう。
あれが萌えポイントなのだ。
威吹も結婚前は腰まで髪を伸ばしていたのだが、総髪にしていたこともあってか、そのようなことはしなかった。
稲生:「それにしても……。有紗殺しの犯人は分かったけど、それだけじゃなぁ……」
威吹:「ん?」
稲生:「それを有紗に伝えても、僕達を襲うのは止めないかもな。やっぱり、盗まれた遺骨を見つけて供養してあげないとダメな気がする」
威吹:「確かにそうだな」
マリア:「イブキは心当たりは無いのか?」
威吹:「無いなぁ……。それに、ボクがいたから妖狐の里から色々と誰かが来ていたわけだからね。今や人間界に、どれだけの妖狐が住み着いているか……。それに、ボクがそうであるように、誰も墓に納められた遺骨なんか興味無いよ。その墓に、何か重要なものが納められていたというなら別だけど」
稲生:「いや、無いはずだね。あったら、もう既に情報を掴んでいるわけだし」
マリア:「うんうん」
マリアはうんうんと頷いた。
と、そこへマリアの手持ちの水晶球が光る。
携帯用に、大きさはソフトボールくらいだ。
マリア:「師匠からかな。……はいはい、こちらマリアンナです。どうぞ」
威吹:「いつも思うんだが、何でこいつの水晶球の交信は無線交信みたいなんだ?」
稲生:「他の人達からも言われるよ……」
稲生は苦笑した。
相手はイリーナからで、現在地を確認するものだった。
魔界は往々にして水晶球同士のやり取りがしにくい。
ましてや、アルカディアシティの郊外にある南端村は、殆ど水晶球での位置確認ができないのだろう。
マリアは昼食を終えたら魔王城に戻る旨を伝えていた。
マリア:「全く。あれだけ酔い潰れておいて……」
稲生:「ハハハハ……」
威吹:「大変だな。おもしろ師匠を持つと」
威吹もついでに笑う。
と、その時、威吹はこんなことを言い出した。
威吹:「なあ、さっきの遺骨泥棒の話なんだが……」
稲生:「なに?」
威吹:「占いで分からないのか?その、泥棒が遺骨を盗み出す所とか見れないのか?」
稲生:「あ!」
マリア:「そうだ!その手があった!」
2人の魔道師はポンと手を叩いた。
稲生:「水晶球占いなんて身近過ぎて、逆に忘れていたよ」
マリア:「私の腕じゃまだ未熟だけど、取りあえず何とか分かるかもしれないな」
稲生達は急いで昼食を済ませると、早速マリアの水晶球で占うことにした。
すると、だいたい上手く行った。
性能の悪いカメラの白黒映像みたいな画質ではあったが、犯人を特定するには無理のない程度であった。
それで、その映像を観た稲生達は狐に摘ままれる思いをしたという。
それは何故だと思う?
1:犯行時刻に何も映っていなかったから
2:墓がひとりでに暴かれたから
3:遺骨を盗んだのが有紗だったから
4:想像もつかない