報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「42番街へ」

2018-05-10 19:36:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日14:30.天候:晴 魔王城新館]

 イリーナ:「おやおや、やっと来たかい」

 稲生とマリアが魔王城に戻ると、イリーナは退屈そうな顔でゲストルームにいた。

 稲生:「すいません。色々とあったもので……」
 イリーナ:「いいよいいよ。水晶球で見ていたから。……いっそのこと、威吹君とは再び契約してみたらどうかと思うんだけどね」
 稲生:「えっ?でも、僕と契約する悪魔はもう決まってるんじゃ……?」
 イリーナ:「いやいや。魔力を提供してくれる悪魔とは、別にだよ。要は、使い魔(ファミリア)との契約さ。エレーナは黒猫だし、キャサリンはカラスだろう?」
 稲生:「妖狐を使い魔にするなんて……」
 イリーナ:「勇太君ならできるさ。威吹君も、今や家族持ち。その家族を食わせる為の金策は欲しいだろうからね」
 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「ま、それはもう少し先の話か」
 マリア:「そんなことを話す為に、わざわざ呼んだんですか?」
 イリーナ:「ハハハ、んなわけないよ。先生は今度、冥界に行くことになったから」
 稲生:「冥界!?」
 マリア:「まだ、その体の耐用年数は少し残っているはずですが……」
 イリーナ:「もちろん、今生の別れをしようってんじゃないよ。あくまでダンテ先生の付き添いで、バァル大帝に会いに行くだけさ。あの2人、仲良しだから」
 マリア:「そうでしたね」
 稲生:「確か、冥界にゴルフ場を造ったとか……」
 イリーナ:「それも飽きちゃって、今度はカジノを造ったんだけど、ディーラーが欲しいんだって」
 マリア:「師匠がディーラーやったら、とんでもないことになりそうですが……」
 稲生:「西洋の地獄界であるはずの冥界が、段々レジャーランドと化してません?」
 イリーナ:「というわけで、しばらく帰れないから、当面の生活費は屋敷に送ったインゴッド(金の延べ棒)でも使ってて」
 稲生:(換金しに行くのが大変なんだけど……)
 マリア:(カジノのディーラーをやることで、あの老翁達から『お小遣い』たんまりもらってくるってオチだな)

 もっとも、インゴッドを換金しに行かなくても、イリーナから預かっているプラチナカードやゴールドカードがあるのだが。

 イリーナ:「屋敷に帰るのはいつでもいいけど、ちゃんと先生が戻ってくるまでに課題はこなしておくのよ?分かった?」
 稲生:「はい」
 マリア:「分かりました」
 イリーナ:「日本国内へはどこに行ってもいいけど、海外には行かないように」
 マリア:「分かってますよ」
 稲生:「……何かあるんですか?」
 イリーナ:「“魔の者”がどこで狙ってるか分からないでしょう?ユーラシア大陸の東端から、ずっとこっちを見ているわけよ」

 “魔の者”の正体は未だに分からずじまい。
 北海道などで戦ったのは、結局ただの眷属だった。
 悪魔の一種だと思われるが、他の悪魔に聞いても全く分からない。
 かなり凄い力を持っていると思われるが、『日本海に阻まれて、日本まで追って来ることができない』とはこれ如何に?
 強い悪魔なら、いとも容易く日本海など越えて来られそうなものだが……。

 稲生:「まあ、長野県から西に行くことは無いと思いますが……」

 長野県にも埼玉県にも海が無いから、そもそも日本海まで行くことすら無いだろう。

[同日15:00.天候:晴 魔界高速電鉄1番街駅・地下鉄乗り場→地下鉄線内]

 イリーナと別れた稲生とマリアは、魔王城の外で待っていた威吹と合流した。

 稲生:「それじゃ、行くか」

 薬屋のある42番街へは地下鉄で行くことができる。
 初めて魔界に来た時は地下鉄も3路線しか無かったのだが、今や東京の地下鉄並みの路線数がある。
 最初は1号線で町の西部へ向かう。
 やってきた電車は、開業したばかりの銀座線の車両1000形に酷似していた。
 照明も当時の電球であり、車内は薄暗い。
 乗員も乗客も人間より魔族が多く、地上の鉄道と比べて概して治安が悪いとされている。
 高架鉄道や路面電車と同じ鉄道会社の運営とは思えないレベルである。
 にも関わらず、地下鉄はワンマン運転なのである。

 威吹:「久しぶりに乗るが、何だかワクワクするな」
 稲生:「そうなの?」

 もっとも、威吹は座席に腰掛ける時、帯刀している妖刀と脇差を足の間に挟んでいる。
 日本では帯刀禁止だが、このアルカディアシティでは認められている。
 その為、RPGに登場する戦士や剣士なんかも堂々と帯剣しているわけである。
 明らかに他の場所ではエンカウントしてきそうなモンスターがこちらを見ているが、基本的には電車内や駅構内でエンカウントすることはない。
 鉄道会社側もそれは分かっているので、警乗員を乗せているからだ。

〔「49番街、49番街です。お出口は、左側です」〕

 銀座線で使われていた頃は車内放送装置は無かっただろうが、ここでは取り付けられたようだ。
 運転士がハンドルを握りながらマイクで放送している。

 稲生:「ここで乗り換えだな」

 稲生は路線図片手に席を立った。

 威吹:「うむ」

 威吹も立ち上がって、刀を腰に差す。
 あんまりソフトではないブレーキングで、電車がガックンガックン揺れる。
 日本ほど上手に且つソフトに電車を止める鉄道は無いそうだ。
 止まってから、大きなエアー音がして片開きのドアが開く。
 地下鉄ではどういうわけか駅に到着すると、運転士は客用扉を開けると、自分も立ち上がって、横の乗務員室扉も開ける。
 ワンマン運転をしていることもあってか、運転台の脇にはサイドミラーが取り付けられ、それで運転士が車掌の代わりに乗降監視をしているものと思われるが……。

 稲生:「やっぱり外国の地下鉄なんだなぁ……」

 特に運転士が乗務員室から直接ホームに顔を出して監視しているわけでもなく、自動でホームに流れる発車ブザーが鳴り終わると、ドアを閉めるのである。
 で、ちゃんと閉まったかどうかを見るわけでもなく、乗務員室ドアもバタンと閉めてそのまま発車するのである。
 もちろん、そこで誰かが何かが挟まったとしたら発車できないので、それでいいだろうと思っているのだろうが……。
 いずれにせよ、ホームドアを設置する以前の問題である。

 稲生:「えーと……向こうの通路に、9号線の乗り場が……」

 49番街とて、そんなに治安の良い街区ではないらしい。
 それでもまだ駅構内は安全であるという。
 稲生やマリアだけだったら、何だかエンカウントしそうな雰囲気ではあったが、そこは威吹の睨みのおかげでそんなことはなかった。
 だが、シティで1、2を争う治安の悪い所へ向かう路線の方はというと……。
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“大魔道師の弟子” 「別に、拝まなければ邪教の敷地に入っても罪障は積まないはず」

2018-05-10 10:23:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日13:00.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド地区(通称、南端村) 稲荷神社]

 稲生達はマリアの水晶球で、河合有紗の遺骨が盗まれたとされる時間帯の様子を見てみた。
 マリアの魔力では性能の悪い監視カメラの白黒映像といった感じの画質ではあったが、それでも何があったか確認するには十分だった。

 稲生:「あっ!だ、誰か来た!」
 マリア:「シッ」

 犯行時刻は午前2時頃。
 世間一般では丑三つ時であり、魑魅魍魎が跋扈する夜間でもピークの時間帯とされる。
 大石寺からすれば、午前2時半からの丑寅勤行に向けて心身共に準備をしている時間帯だろうか。

 威吹:「……なあ、これ……」

 威吹が眉を潜めて言った。

 威吹:「河合有紗だ!」
 稲生:「何だって!?」

 水晶球に映っていたのは、河合有紗によく似た女性だった。
 幽霊となって現れたのは死亡した当時に着ていた高校の制服(と、横田が確認した勝負下着)であったが、こちらは普通の私服を着ていた。

 マリア:「……これ、幽霊か?何だか、生きてる人間の動きだぞ?」
 稲生:「そ、そうですね……」

 手際の良い作業であった。
 あっという間に墓石を退けると、中から骨壺を取り出して、そのまま何処へと消えていった。

 マリア:「……なにこれ?どういうこと?」
 稲生:「えーっと……」
 威吹:「まるで河合殿が生きていて……あれから10年強の月日が経ったわけだ。ユタとは同い年だったわけだから、ユタと同じ……だよね」

 つまり河合有紗が生きていて、そのまま成長すればああいう感じの女性になるだろう的な姿をした女性だったのだ。
 威吹ですら混乱する有り様でだった。

 威吹:「……なあ。ユタの方こそ、何か心当たりは無いのか?」
 稲生:「ええ?」
 威吹:「ボクは河合殿とはキミを通して知り合っただけだ。直接の知り合いであるキミの方が知っているはずなんだ」
 稲生:「それが……世界樹の葉の薬を飲んだせいか、よく覚えていないんだ。どうして僕が有紗のことを好きだったのかも……」

 見た目の雰囲気がマリアと似ているから、多分稲生はそういう女性がタイプで、一目惚れしたのだろう。

 威吹:「ああ、そうか。なあ、マリアよ。その薬の効能を消し去る物は無いのか?」
 マリア:「それが、あるんだ。間違って薬を飲んだり、用量を間違えたりする者もいるからね」
 稲生:「エレーナ辺りが持ってますかね?」
 マリア:「あいつがまだ魔王城にいればいいんだけど……」
 稲生:「ちょっと聞いてみますよ」

 稲生は手持ちのスマホを取り出した。
 で、ダイレクトにエレーナに掛ける。

 マリア:「ちょっと待って。何で、エレーナの電話番号直接知ってるんだ?」
 稲生:「何か、エレーナが頼みもしないのに教えてくれたんですけど?」
 マリア:「後で消去しといて。で、あいつは後で半殺しにする」
 威吹:「ただの情報屋としての営業だろう?別にそう目くじら立てんでも……」

 しかし、マリアは氷のような冷たい目で威吹を睨みつけた。

 威吹:「分かった。分かったから」

 威吹は右手を振って辟易するように行った。

 威吹:(魔女ってのは、こういう所が面倒臭い。オレの嫁は巫女で良かったな)

 実際はこの神社の禰宜である。

 稲生:「マリアさん、エレーナはホテルに帰ってしまいました。だけどシティ内に薬屋があって、そこに置いてあるそうです」
 マリア:「なるほど」
 稲生:「エレーナがその薬屋をよく知っているので、話を通してくれるそうです」
 威吹:「何だ。ちゃんと役に立つ魔女もいるんじゃないか。何も、消去までする必要は無いと思うぞ?」
 マリア:「その魔女は、仲間内に盛った金額で売り付けるようなヤツだぞ」
 威吹:「……それは半殺しにしておいた方がいいかもしれんな」
 マリア:「だろ!」

 この時、初めて威吹とマリアの考えが一致した。

 稲生:「場所は42番街です。行きましょう」
 マリア:「ちょっと待った」
 威吹:「ちょっと待て」

 稲生が立ち上がると、残る2人が止めた。

 マリア:「まずは師匠と会ってからだ。師匠からの呼び出しなんだから」
 威吹:「42番街はスラム街だぞ?普通に治安の悪い所だ。ユタ達だけで大丈夫か?何なら、オレが一緒に行くぞ」
 稲生:「な、なるほど。それじゃ、お願いしようかな。でも、さくらさん達が帰って来ないのに、いいのかい?留守番してるんだろ?」
 威吹:「もう、そろそろ帰って来るはずなんだが……」

 と、そこへ坂吹が飛び込んで来た。

 坂吹:「先生、大変です!」
 威吹:「何だ!?」
 坂吹:「階段の下に幽霊が張っていて、禰宜様が足止めされてます!」
 威吹:「なにぃっ!?」
 稲生:「幽霊って……!」
 マリア:「あいつに決まってる!」

 稲生達は急いで鳥居の下にある階段に向かった。

 稲生:「うわっ!?」

 そこには強い怨念を放ち、恨めしそうな目で見上げる有紗の姿があった。
 隣にいるさくらのことなど、まるで眼中に無い。
 さくらもまた稲生ほどでないにせよ、強い霊力を持った女性だ。
 それを意に介さないほどであった。

 マリア:「あいつ!性懲りも無くまた!」

 マリアは魔法の杖を出した。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 威吹:「待て待て待て!恐らく総攻撃を仕掛けるんだろうが、さくらを巻き添えにするな!」
 稲生:「さくらさーん!こっちから先制攻撃仕掛けますから、離れててくださーい!!」

 稲生は大声で階段の下にいるさくらに叫んだ。
 だが、さくらは有紗に何か呼び掛けているようだった。
 しかし、有紗は階段の上を見上げている稲生達に集中し、さくらの言葉は全く聞いていないようだった。

 坂吹:「禰宜様、危険です!」

 坂吹は鳥居の外に飛び出した。

 威吹:「あっ、バカ!」

 階段の下へ飛び降りる坂吹を迎撃せんとする有紗。
 だが、坂吹は大きな狐の姿に戻ると、目にも留まらぬ速さでさくらと伊織を咥え込んだ。
 そして、有紗の青白い火の玉攻撃を交わして、再び階段の上に舞い戻った。

 威吹:「おおっ!その手があったか!」
 坂吹:「はい!」
 マリア:「食らえ!ウィ・オ・ラ!!」

 今度は力加減を考えて魔法攻撃をした。
 マリアが魔法攻撃をしている間、さくらが言った。

 さくら:「あれだけの強い怨念を抱いた霊がまだいたなんて、驚きだわ」
 威吹:「ああ、そうだな。恋は盲目というが、それだけでああなるものなのか」
 坂吹:「この神社までは入って来れないようですね。やはり、聖域には悪霊など入れないのでしょう。その点、オレ達は神の使いという面もありますから、こういう所は平気ですから」
 威吹:「! なるほど……」

 威吹は何か良いことを思いついたようだ。

 威吹:「それは良いかもしれん」
 坂吹:「何がですか?」
 マリア:「魔法が当たらない!避けるな!この!」

 マリアは苛立った様子だった。

 威吹:「まあ、待て。魔力を無駄にするな。オレにいい考えがある」

 威吹はそう言うと、スラッと妖刀を抜いた。

 稲生:「有紗を斬るのか」

 妖刀は人間は斬れない。
 しかし、妖怪は斬れる。
 それでは、幽霊はどうなのだろう?

 威吹:「いや、恐らくは斬れないだろう」
 稲生:「え?」

 威吹も妖刀を右手に階段の下に飛び出した。

 威吹:「よお!久しぶりだな、河合殿?」
 有紗:「……威吹……!?」
 威吹:「そんな所におらんで、我が社(やしろ)へ招待するでござるよ!」
 有紗:「や……やめてっ!!」

 威吹は妖刀を鞘に納めると、後ろから冷たい有紗の体を抱き抱えた。

 有紗:「いやっ!放して!それ以上はダメ!!」
 威吹:「遠慮は要らんでござる!」
 有紗:「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 威吹は軽い足取りで階段を一気に飛ぶように上がる。
 そして、鳥居をくぐった。

 有紗:「きゃあーーーーーーーーーーっ!謗法よ!!罪障だわ!!地獄に堕ちちゃう!!大聖人様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 有紗はまるで地獄の釜の中に放り込まれた亡者のように暴れ回ると、そのまま消えていった。

 稲生:「……そ、そうか!有紗は!」

 有紗は顕正会女子部員のまま死んだ。
 今の顕正会員はどうだか知らないが、中には邪教の敷地内に入っただけで即罪障を積むと思っている者も少なからずいる。
 実際はそうではないのだが、顕正会の組織の中にはそれを逆手に取って、折伏に駆り立てる指導を行う悪徳上長もいるのだという。
 特に、女子部に多いのだと。
 有紗の組織がそうだったのかもしれない。

 稲生:「有紗は僕以上に信心興成の顕正会員だったから、それでか……」
 威吹:「哀れな事だが、致し方無い」
 マリア:「チェック……メイトだ……!」

 久しぶりにマリアは嗜虐的な、魔女の目つきをしていた。
 
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