[魔界時間4月9日14:30.天候:晴 魔王城新館]
イリーナ:「おやおや、やっと来たかい」
稲生とマリアが魔王城に戻ると、イリーナは退屈そうな顔でゲストルームにいた。
稲生:「すいません。色々とあったもので……」
イリーナ:「いいよいいよ。水晶球で見ていたから。……いっそのこと、威吹君とは再び契約してみたらどうかと思うんだけどね」
稲生:「えっ?でも、僕と契約する悪魔はもう決まってるんじゃ……?」
イリーナ:「いやいや。魔力を提供してくれる悪魔とは、別にだよ。要は、使い魔(ファミリア)との契約さ。エレーナは黒猫だし、キャサリンはカラスだろう?」
稲生:「妖狐を使い魔にするなんて……」
イリーナ:「勇太君ならできるさ。威吹君も、今や家族持ち。その家族を食わせる為の金策は欲しいだろうからね」
稲生:「なるほど……」
イリーナ:「ま、それはもう少し先の話か」
マリア:「そんなことを話す為に、わざわざ呼んだんですか?」
イリーナ:「ハハハ、んなわけないよ。先生は今度、冥界に行くことになったから」
稲生:「冥界!?」
マリア:「まだ、その体の耐用年数は少し残っているはずですが……」
イリーナ:「もちろん、今生の別れをしようってんじゃないよ。あくまでダンテ先生の付き添いで、バァル大帝に会いに行くだけさ。あの2人、仲良しだから」
マリア:「そうでしたね」
稲生:「確か、冥界にゴルフ場を造ったとか……」
イリーナ:「それも飽きちゃって、今度はカジノを造ったんだけど、ディーラーが欲しいんだって」
マリア:「師匠がディーラーやったら、とんでもないことになりそうですが……」
稲生:「西洋の地獄界であるはずの冥界が、段々レジャーランドと化してません?」
イリーナ:「というわけで、しばらく帰れないから、当面の生活費は屋敷に送ったインゴッド(金の延べ棒)でも使ってて」
稲生:(換金しに行くのが大変なんだけど……)
マリア:(カジノのディーラーをやることで、あの老翁達から『お小遣い』たんまりもらってくるってオチだな)
もっとも、インゴッドを換金しに行かなくても、イリーナから預かっているプラチナカードやゴールドカードがあるのだが。
イリーナ:「屋敷に帰るのはいつでもいいけど、ちゃんと先生が戻ってくるまでに課題はこなしておくのよ?分かった?」
稲生:「はい」
マリア:「分かりました」
イリーナ:「日本国内へはどこに行ってもいいけど、海外には行かないように」
マリア:「分かってますよ」
稲生:「……何かあるんですか?」
イリーナ:「“魔の者”がどこで狙ってるか分からないでしょう?ユーラシア大陸の東端から、ずっとこっちを見ているわけよ」
“魔の者”の正体は未だに分からずじまい。
北海道などで戦ったのは、結局ただの眷属だった。
悪魔の一種だと思われるが、他の悪魔に聞いても全く分からない。
かなり凄い力を持っていると思われるが、『日本海に阻まれて、日本まで追って来ることができない』とはこれ如何に?
強い悪魔なら、いとも容易く日本海など越えて来られそうなものだが……。
稲生:「まあ、長野県から西に行くことは無いと思いますが……」
長野県にも埼玉県にも海が無いから、そもそも日本海まで行くことすら無いだろう。
[同日15:00.天候:晴 魔界高速電鉄1番街駅・地下鉄乗り場→地下鉄線内]
イリーナと別れた稲生とマリアは、魔王城の外で待っていた威吹と合流した。
稲生:「それじゃ、行くか」
薬屋のある42番街へは地下鉄で行くことができる。
初めて魔界に来た時は地下鉄も3路線しか無かったのだが、今や東京の地下鉄並みの路線数がある。
最初は1号線で町の西部へ向かう。
やってきた電車は、開業したばかりの銀座線の車両1000形に酷似していた。
照明も当時の電球であり、車内は薄暗い。
乗員も乗客も人間より魔族が多く、地上の鉄道と比べて概して治安が悪いとされている。
高架鉄道や路面電車と同じ鉄道会社の運営とは思えないレベルである。
にも関わらず、地下鉄はワンマン運転なのである。
威吹:「久しぶりに乗るが、何だかワクワクするな」
稲生:「そうなの?」
もっとも、威吹は座席に腰掛ける時、帯刀している妖刀と脇差を足の間に挟んでいる。
日本では帯刀禁止だが、このアルカディアシティでは認められている。
その為、RPGに登場する戦士や剣士なんかも堂々と帯剣しているわけである。
明らかに他の場所ではエンカウントしてきそうなモンスターがこちらを見ているが、基本的には電車内や駅構内でエンカウントすることはない。
鉄道会社側もそれは分かっているので、警乗員を乗せているからだ。
〔「49番街、49番街です。お出口は、左側です」〕
銀座線で使われていた頃は車内放送装置は無かっただろうが、ここでは取り付けられたようだ。
運転士がハンドルを握りながらマイクで放送している。
稲生:「ここで乗り換えだな」
稲生は路線図片手に席を立った。
威吹:「うむ」
威吹も立ち上がって、刀を腰に差す。
あんまりソフトではないブレーキングで、電車がガックンガックン揺れる。
日本ほど上手に且つソフトに電車を止める鉄道は無いそうだ。
止まってから、大きなエアー音がして片開きのドアが開く。
地下鉄ではどういうわけか駅に到着すると、運転士は客用扉を開けると、自分も立ち上がって、横の乗務員室扉も開ける。
ワンマン運転をしていることもあってか、運転台の脇にはサイドミラーが取り付けられ、それで運転士が車掌の代わりに乗降監視をしているものと思われるが……。
稲生:「やっぱり外国の地下鉄なんだなぁ……」
特に運転士が乗務員室から直接ホームに顔を出して監視しているわけでもなく、自動でホームに流れる発車ブザーが鳴り終わると、ドアを閉めるのである。
で、ちゃんと閉まったかどうかを見るわけでもなく、乗務員室ドアもバタンと閉めてそのまま発車するのである。
もちろん、そこで誰かが何かが挟まったとしたら発車できないので、それでいいだろうと思っているのだろうが……。
いずれにせよ、ホームドアを設置する以前の問題である。
稲生:「えーと……向こうの通路に、9号線の乗り場が……」
49番街とて、そんなに治安の良い街区ではないらしい。
それでもまだ駅構内は安全であるという。
稲生やマリアだけだったら、何だかエンカウントしそうな雰囲気ではあったが、そこは威吹の睨みのおかげでそんなことはなかった。
だが、シティで1、2を争う治安の悪い所へ向かう路線の方はというと……。
イリーナ:「おやおや、やっと来たかい」
稲生とマリアが魔王城に戻ると、イリーナは退屈そうな顔でゲストルームにいた。
稲生:「すいません。色々とあったもので……」
イリーナ:「いいよいいよ。水晶球で見ていたから。……いっそのこと、威吹君とは再び契約してみたらどうかと思うんだけどね」
稲生:「えっ?でも、僕と契約する悪魔はもう決まってるんじゃ……?」
イリーナ:「いやいや。魔力を提供してくれる悪魔とは、別にだよ。要は、使い魔(ファミリア)との契約さ。エレーナは黒猫だし、キャサリンはカラスだろう?」
稲生:「妖狐を使い魔にするなんて……」
イリーナ:「勇太君ならできるさ。威吹君も、今や家族持ち。その家族を食わせる為の金策は欲しいだろうからね」
稲生:「なるほど……」
イリーナ:「ま、それはもう少し先の話か」
マリア:「そんなことを話す為に、わざわざ呼んだんですか?」
イリーナ:「ハハハ、んなわけないよ。先生は今度、冥界に行くことになったから」
稲生:「冥界!?」
マリア:「まだ、その体の耐用年数は少し残っているはずですが……」
イリーナ:「もちろん、今生の別れをしようってんじゃないよ。あくまでダンテ先生の付き添いで、バァル大帝に会いに行くだけさ。あの2人、仲良しだから」
マリア:「そうでしたね」
稲生:「確か、冥界にゴルフ場を造ったとか……」
イリーナ:「それも飽きちゃって、今度はカジノを造ったんだけど、ディーラーが欲しいんだって」
マリア:「師匠がディーラーやったら、とんでもないことになりそうですが……」
稲生:「西洋の地獄界であるはずの冥界が、段々レジャーランドと化してません?」
イリーナ:「というわけで、しばらく帰れないから、当面の生活費は屋敷に送ったインゴッド(金の延べ棒)でも使ってて」
稲生:(換金しに行くのが大変なんだけど……)
マリア:(カジノのディーラーをやることで、あの老翁達から『お小遣い』たんまりもらってくるってオチだな)
もっとも、インゴッドを換金しに行かなくても、イリーナから預かっているプラチナカードやゴールドカードがあるのだが。
イリーナ:「屋敷に帰るのはいつでもいいけど、ちゃんと先生が戻ってくるまでに課題はこなしておくのよ?分かった?」
稲生:「はい」
マリア:「分かりました」
イリーナ:「日本国内へはどこに行ってもいいけど、海外には行かないように」
マリア:「分かってますよ」
稲生:「……何かあるんですか?」
イリーナ:「“魔の者”がどこで狙ってるか分からないでしょう?ユーラシア大陸の東端から、ずっとこっちを見ているわけよ」
“魔の者”の正体は未だに分からずじまい。
北海道などで戦ったのは、結局ただの眷属だった。
悪魔の一種だと思われるが、他の悪魔に聞いても全く分からない。
かなり凄い力を持っていると思われるが、『日本海に阻まれて、日本まで追って来ることができない』とはこれ如何に?
強い悪魔なら、いとも容易く日本海など越えて来られそうなものだが……。
稲生:「まあ、長野県から西に行くことは無いと思いますが……」
長野県にも埼玉県にも海が無いから、そもそも日本海まで行くことすら無いだろう。
[同日15:00.天候:晴 魔界高速電鉄1番街駅・地下鉄乗り場→地下鉄線内]
イリーナと別れた稲生とマリアは、魔王城の外で待っていた威吹と合流した。
稲生:「それじゃ、行くか」
薬屋のある42番街へは地下鉄で行くことができる。
初めて魔界に来た時は地下鉄も3路線しか無かったのだが、今や東京の地下鉄並みの路線数がある。
最初は1号線で町の西部へ向かう。
やってきた電車は、開業したばかりの銀座線の車両1000形に酷似していた。
照明も当時の電球であり、車内は薄暗い。
乗員も乗客も人間より魔族が多く、地上の鉄道と比べて概して治安が悪いとされている。
高架鉄道や路面電車と同じ鉄道会社の運営とは思えないレベルである。
にも関わらず、地下鉄はワンマン運転なのである。
威吹:「久しぶりに乗るが、何だかワクワクするな」
稲生:「そうなの?」
もっとも、威吹は座席に腰掛ける時、帯刀している妖刀と脇差を足の間に挟んでいる。
日本では帯刀禁止だが、このアルカディアシティでは認められている。
その為、RPGに登場する戦士や剣士なんかも堂々と帯剣しているわけである。
明らかに他の場所ではエンカウントしてきそうなモンスターがこちらを見ているが、基本的には電車内や駅構内でエンカウントすることはない。
鉄道会社側もそれは分かっているので、警乗員を乗せているからだ。
〔「49番街、49番街です。お出口は、左側です」〕
銀座線で使われていた頃は車内放送装置は無かっただろうが、ここでは取り付けられたようだ。
運転士がハンドルを握りながらマイクで放送している。
稲生:「ここで乗り換えだな」
稲生は路線図片手に席を立った。
威吹:「うむ」
威吹も立ち上がって、刀を腰に差す。
あんまりソフトではないブレーキングで、電車がガックンガックン揺れる。
日本ほど上手に且つソフトに電車を止める鉄道は無いそうだ。
止まってから、大きなエアー音がして片開きのドアが開く。
地下鉄ではどういうわけか駅に到着すると、運転士は客用扉を開けると、自分も立ち上がって、横の乗務員室扉も開ける。
ワンマン運転をしていることもあってか、運転台の脇にはサイドミラーが取り付けられ、それで運転士が車掌の代わりに乗降監視をしているものと思われるが……。
稲生:「やっぱり外国の地下鉄なんだなぁ……」
特に運転士が乗務員室から直接ホームに顔を出して監視しているわけでもなく、自動でホームに流れる発車ブザーが鳴り終わると、ドアを閉めるのである。
で、ちゃんと閉まったかどうかを見るわけでもなく、乗務員室ドアもバタンと閉めてそのまま発車するのである。
もちろん、そこで誰かが何かが挟まったとしたら発車できないので、それでいいだろうと思っているのだろうが……。
いずれにせよ、ホームドアを設置する以前の問題である。
稲生:「えーと……向こうの通路に、9号線の乗り場が……」
49番街とて、そんなに治安の良い街区ではないらしい。
それでもまだ駅構内は安全であるという。
稲生やマリアだけだったら、何だかエンカウントしそうな雰囲気ではあったが、そこは威吹の睨みのおかげでそんなことはなかった。
だが、シティで1、2を争う治安の悪い所へ向かう路線の方はというと……。