報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「夜の東海道を往く」 2

2019-06-03 19:23:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月14日23:39.天候:曇 静岡県三島市 JR三島駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、三島です。東海道本線、伊豆箱根鉄道線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 乗車時間は1時間足らず。
 これは“こだま”809号が本当の最終列車で、後続列車は無い。
 その為、途中駅での“のぞみ”や“ひかり”の通過待ちが無い分、早く進めるということだろう。

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、三島に到着致します。お出口は、右側です。三島からのお乗り換えをご案内致します。東海道本線下り、沼津行きは4番線から23時47分。……」〕

 途中、新横浜駅から小田原まではスピード感を堪能できるはずだが、いかんせん深夜帯なのでそれほどではないし、そもそも今はそういう心境ではない。
 そもそもこの辺りではよく見えるはずの富士山自体が夜で見えないのと、どうやら今は曇りのようである。
 雨が降るのかどうか、今は分からない。
 列車はホームのある副線に入る為、ポイントを渡る。
 三島駅は外側線が本線、内側線が副線となっていて、島式ホームも内側にある。

〔みしま〜、三島です。ご乗車、ありがとうございました。東海道本線、伊豆箱根鉄道駿豆線はお乗り換えです。5番線の電車は、回送電車です。……〕

 稲生達は深夜の新幹線ホームに降り立った。

 稲生:「東海道新幹線の最終に乗るのは初めてだ」
 鈴木:「俺もです」
 マリア:「私も……」
 稲生:「今度は在来線ですよ」

 足早に在来線ホームへ向かう3人。
 もちろんそれは稲生達だけでなく、乗客の半分くらいはそうだった。
 これは三島市よりも沼津市の方が栄えていることの表れである(人口も三島市より沼津市の方が凡そ8万人多い)。
 もっとも、この3人にとってはどちらの町にも用は無く、単なるトランジットである。

〔「4番線に停車中の電車は23時47分発、沼津行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 在来線ホームに行くと、5両編成の電車が停車していた。
 しかも2台連結。
 前2両が旧型の211系、後ろ3両が新型の313系である。
 但し、鉄ヲタならもうとっくに知っていると思うが、静岡地区の東海道本線普通列車はまずオールロングシートだと思ってもらって良い。
 この電車も御多聞に漏れず、両方ともそうだった。
 もっとも、新幹線の終電から乗り換えて来た乗客を詰め込むにはちょうど良い構造かもしれない。
 とはいえ、そこまで混んでいるわけではないが。
 日によってはそうなることもあるのだろうか。
 取りあえず稲生達は先頭車の乗降ドア付近に立っていたが。
 どうせ1駅だけ、しかも乗車時間5分だけの電車だ。
 この211系、JR東日本のものと構造はほぼ同じ。
 だが、優先席の位置が違う。
 東日本のは連結器横の5人席が優先席なのに対し、東海のは乗務員室後ろの2人席が優先席なのである。
 同じ旧国鉄車両でも、JRが違えばここまで違うというトリビアである。

 しばらくして発車時間になった。
 発車メロディではなく、普通の発車ベルである。
 しかも、ちゃんと車掌が笛を吹いて閉めるタイプ。
 211系であっても、ドアチャイムは後付けされている。
 少し甲高いタイプの、JR東海では当たり前の2回チャイム。
 東日本では京王電車で聞けるタイプか。
 夜の電車が走り出す。
 実はこれ、終電の新幹線に接続した電車ではあるが、在来線としては終電ではない。
 この後にもう一本、沼津止まりの電車が存在する。
 しかもそれは、この電車みたいに三島始発ではない。
 何と、宇都宮からやってくる電車なのだ。
 さすがにそれに乗るという発想は稲生達には無かったようだ。
 もっとも、東京駅発が22時台前半ではそもそも間に合うはずがない。

〔「今日もJR東海をご利用頂き、ありがとうございます。この電車は東海道本線、普通列車の沼津行きです。終点の沼津には23時52分の到着です。次は終点、沼津です」〕

 稲生:「本来なら、向こうに富士山が見えるはずなんだけど……」
 鈴木:「真っ暗で何も見えませんよ」
 稲生:「それもそうだな」

[5月15日00:00.天候:雨 同県沼津市 JR沼津駅]

 たった5分だけ、一駅だけの電車は無事に沼津駅に着いた。

 稲生:「あ、どうせなら313系に乗れば良かったかな」
 鈴木:「そうですよ。先輩にしては珍しいなと思ったんです」

 電車を降りてからの稲生の発言に、鈴木が呆れたように言った。

 稲生:「ゴメンゴメン。どうせロングシートだし、立ってるからどっちも同じだろうと思ったんだ」
 鈴木:「ま、気持ちは分かりますけどね……」

 で、今、稲生と鈴木は北口改札内コンコースでマリアを待っている。
 トイレに行ったのだ。
 一応、稲生と鈴木も行ったのだが、やはりこういう場合、男性の方が出て来るのが早い。

 鈴木:「先輩、こんな時間に大石寺に行って何をしろというんですか?」
 稲生:「うちの先生が言うには、遺品が足りないんだそうだ」
 鈴木:「遺品が足りない?」
 稲生:「そう。先生が水晶球で見た限り、ロザリーが首から掛けていたペンダントが衝撃で飛んで、どこかに落ちたらしいね」
 鈴木:「警察が回収したんじゃ?」
 稲生:「それでも警察がどういうものを回収したか、遺族に教えるでしょ?で、捜査の為……証拠品として預かる旨の書類とか……」
 鈴木:「あー……」
 稲生:「で、そのリストの中にペンダントが無かったんだってさ」
 鈴木:「ほおほお。……ん?ということは?」
 稲生:「現場付近にまだ落ちてる可能性が高い。それを速やかに回収するんだ」
 鈴木:「あの辺、警察が捜索したはずですよ」

 稲生やマリアは意識を失ってしまったが、鈴木は呆然自失としながらも意識喪失は免れた。
 だからイリーナが現れて、もろもろ対処しているのも見たし、そして不幸なことに、ゼルダとロザリーの無残な死体を見て嘔吐するハメになってしまった。

 マリア:「お待たせ」

 トイレから出て来たマリアと合流した稲生達は改札口を出て、駅の外に出ると、タクシー乗り場に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
 そして、それで大石寺へ向かったのである。
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“大魔道師の弟子” 「夜の東海道を往く」

2019-06-03 15:13:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月14日22:45.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東海道新幹線ホーム]

〔15番線の電車は、22時47分発、“こだま”809号、三島行きです。電車は前から1号車、2号車、3号車の順で、1番後ろが16号車です。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車と、11号車から16号車です。……〕

 ホームをバタバタと駆け登る稲生達。

 稲生:「間に合った間に合った!」
 鈴木:「早くこっちへ!」

 山手線に飛び乗ったはいいものの、実は新幹線のキップを買っていなかった3人。
 東京駅でのキップ購入に手間取ってしまった。

 鈴木:「前の車両、3人席空いてますよ!」
 稲生:「ああ!てか、その前に飲み物!」

 “こだま”号には最早車内販売は存在しない。
 駅の売店で予め購入するしか無いのだが、東京駅の売店も22時には閉店してしまう。
 必然的に自販機で購入するしか無いわけだ。

〔「レピーター点灯です」〕

 飲み物を購入し、車内に入る頃、どうやら信号が開通したようである。

〔「15番線に停車中の電車は、22時47分発、“こだま”809号、三島行きです。本日、東京駅を出発する最後の電車でございます。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、お気をつけください。まもなくの発車となります。ホームでお待ちのお客様、車内にお入りください」〕

 稲生達が空いている3人席に座る頃、ホームから発車メロディが聞こえて来た。
 いつもは300系“のぞみ”で使用されていた車内チャイムと同じものが一回鳴るだけだが、最終列車ということもあってか、もう1回鳴った。

〔15番線、“こだま”809号、三島行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕

 稲生:「ちょっと待っててください。藤谷班長に電話してきます」
 マリア:「あっ、私も行こう」
 稲生:「鈴木君は席取ってて」
 鈴木:「は、はい」

 通路席にポツンと残された鈴木。
 稲生とマリアはデッキの方へ。
 電車のドアは一回で閉まり、“乙女の祈り”のメロディが流れる安全柵(という名のホームドア)が閉まる。
 JR東日本の新幹線と違い、東海道新幹線は規格が統一された車両で運転されているので、安全柵設置も比較的容易だったのだろう。
 様々な編成、規格の車両が集まるJR東日本側には未だにホームドアは無い。

 稲生:「もしもし、藤谷班長ですか?稲生ですけど、実は折り入ってお願いが……」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“こだま”号、三島行きです。終点、三島までの各駅に停車致します。次は、品川です〕

 稲生は藤谷に交渉した。
 確かに藤谷は今日から夜間工事の現場責任者(現場監督)を指導する役として、今夜は夜通し起きているという。
 ところが、やはり新人監督を放って富士宮市外までは行けないということだった。
 今日は工事が早めに終わりそうだから、終わったら迎えに行けるということだったが、それでは遅いのだ。
 いくら早めに終わるといったところで、それはもちろん日付が変わった後。
 それまで沼津駅でボーッとしているハメになる。
 それではいけない。

 マリア:「いざとなったら、私がルゥ・ラ使うしか無いか……」
 稲生:「大丈夫ですか?」
 マリア:「3人一緒はキツいな……」

 2人は怪訝な顔で座席に戻った。
 車両はN700系の中でも更に内装がマイナーチェンジされたN700Advanced(略称、N700A)と呼ばれるもの。
 それまでのN700系と違うのは、普通車で言えば座席のモケットの青さが薄くなったこと。
 それとヘッドレストの張り出しが大きくなったことである。
 E5系がヘッドレストの張り出しはそのままにピローを付けたのに対し、N700Aはピローは付けずにヘッドレストの張り出しを大きくした。
 その席に座る。

 鈴木:「ダメだったんですか?」
 稲生:「さすがに沼津駅まで迎えに行くのは難しいってさ。せめて、在来線電車が富士駅まで行ってくれればなぁ……」
 鈴木:「じゃあ、タクシーで行きましょう」
 稲生:「えっ!?だって、沼津から富士宮までだよ!?」
 鈴木:「大丈夫ですよ。俺、金ならありますから」

 鈴木の家は稲生の家よりも富裕層らしい。
 稲生でさえ自由に使える金は少ないのに、鈴木の方は湯水のように使える。
 尚、公共交通機関利用などの経費はイリーナから預かったカードで決済できている。
 今回のことも同門の仲間を救う為であるので、公共交通機関の利用については認められるだろう(もちろん、グリーン車はダメだろうが)。
 その後のタクシーが認められるかどうかが問題だ。

 稲生:「ちょっと待って。沼津から富士宮までのタクシー料金、調べて見る」
 鈴木:「高速料金込みで計算してくださいよ?」
 マリア:「本当にいいのか、鈴木?」
 鈴木:「錬金術も魔法の1つですよ」
 マリア:「……なるほど」

 ルーシーの所属しているベイカー組が、確か錬金術のジャンルであったことを思い出した。
 金が絡みやすいジャンルなだけに、色々とトラブルが発生することも多々あるようだ。

 稲生:「2万円でお釣りが来る額らしい」
 鈴木:「そんなもんですか。俺は5万円くらい行くかと思いましたよ。俺が出しますから、先輩達は安心してください」
 稲生:「ありがとう」
 マリア:「必要なら契約書を交わすぞ?」
 鈴木:「それは俺に何かくれるということですか?」
 マリア:「ダンテ一門の『協力者』になってくれるのならそうなる」
 鈴木:「『協力者』ねぇ……。俺はエレーナにいい所見せたいだけなんですけど……」
 マリア:「分かった。あなたともう少し親密に付き合うよう、私からの口添えと師匠から圧を掛けるようお願いしておく」
 鈴木:「口添えだけしてくくればいいですよ。何ですか、『圧』って……
 マリア:「あいつは圧掛けるくらいがちょうどいいんだ。分かった。着くまでに契約書は作成する。もし破ったりしたら、命は無い」
 鈴木:「そんなに!?」
 稲生:「鈴木君、魔女との契約はイコール悪魔との契約と思ってもらって差支えは無いよ」
 鈴木:「謗法じゃないですよね?」
 稲生:「多分、それは大丈夫。多分……」
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