報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「妖狐、威吹の契約」

2019-06-09 20:50:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日10:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生勇太は自分のスマホで魔界に住む威吹の家に電話を掛けた。
 だが……。

〔お掛けになった番号は、現在使われておりません〕

 勇太:「あれ?」

 勇太は番号を間違えたのかと思い、もう一度掛け直した。
 だが、やはり電話口の向こうの反応は最初と同じだった。
 そして3回目に掛け直して気づく。

 勇太:「あ、そうか!家の固定電話でないとダメなんだった!」

 これもホラーなのか?
 魔界に住む妖怪から電話が掛かってくる、という状況を言葉にしただけでもホラーなのだが、稲生家の人々にとっては国際電話が掛かって来た程度の認識である。
 勇太は部屋を飛び出した。

 マリア:「きゃっ!?」
 勇太:「あっと!ゴメン!」

 勇太は2階に上がって来たマリアとぶつかりそうになった。
 替えの下着とワンピース型の寝巻、そしてバスタオルとフェイスタオルを持っている。

 マリア:「びっくりしたぁ……」
 勇太:「ゴメンゴメン!ちょっと急いでて!」
 マリア:「何かあったの?」
 勇太:「まだ威吹と連絡取れてないんだ。下の固定電話でないとダメなんだった!」

 そう言って勇太、階段を駆け下りる。

 マリア:「全くもう……」

 マリアは呆れた顔になると、勇太の部屋の斜め向かいにあるシャワールームへと向かった。

 勇太:「思い出した!この電話でないと威吹の家に繋がらないんだった!」
 佳子:「威吹君から着信拒否でも食らってるの?」
 勇太:「違う!固定電話専用!向こうの電話、黒電話だから!」

 それは関係あるのか?
 とにかく、何かしらの通信制限はあるらしい。
 稲生は家の固定電話を取ると、それで威吹の家に電話した。

 坂吹:「はい、こちら魔界稲荷社務所です」
 稲生:「(これ、社務所の電話番号だったのか)もしもし、稲生勇太です」

 電話口に出たのは威吹の弟子の坂吹死屍丸であった。
 高校生くらいの見た目ながらその実力は大したもので、狐火を火球にして高射砲代わりに撃つこともできる。
 そんな狐妖術としては大技が扱えるほどの実力者が、剣術に関してはてんで自信が無いということで、妖狐族の中でも剣豪扱いされる威吹の元に弟子入りしたというわけだ。
 そこは勇太も威吹のことを剣豪だと思っていて、鬼族の剣豪、蓬莱山鬼之助(愛称キノ)とは互角で未だに勝負が付かない状態だ。

 坂吹:「どちら様ですか?」
 勇太:「ええと……威吹とは人間界で盟約を結んでいた稲生勇太です。威吹に僕の名前を出してくれれば分かると思います」

 すっかり坂吹に忘れられていた勇太だった。

 坂吹:「ああ!これは失礼しました!先生に御用ですね!?すぐにお繋ぎします!」
 勇太:「(保留音が“レントラー舞曲”!?)」

 鉄ヲタには京急の接近メロディだと言えば分かり、ギャンブラーには川口オートレースの車券販売終了3分前メロディだと言えば分かる。

 威吹:「もしもし!?」
 勇太:「おーっ、威吹!久しぶり!」
 威吹:「その様子だと元気みたいだね!」
 勇太:「おかげさまで」
 威吹:「まだ“魔の者”とやらを相手にしているのかい?」
 勇太:「大石寺の前で襲撃されたよ!」
 威吹:「ええっ!?大丈夫だったのかい!?」
 勇太:「僕やマリアさんは軽傷で済んだけど、そんなのすぐにイリーナ先生が魔法で治してくれたさ。問題はマリアさんの同期の先輩達だ。3人のうち2人は即死、もう1人は瀕死の重傷で入院中だよ」
 威吹:「困ってるみたいだな。それならボクが手を貸そうか?」
 勇太:「それはつまり……?」
 威吹:「ユタの所の法門の流儀に合わせた『契約』とやら、引き受けさせてもらおうか」

 もちろんこの『法門の流儀』というのは日蓮正宗門のことではなく、ダンテ流魔法門のことである。

 勇太:「ありがとう!明日、イリーナ先生と会うことになってるんだ!早速明日、契約書を出してもらおう!」
 威吹:「ボクがそっちに行けばいいのか?」
 勇太:「そう、だね。そうしてもらえるなら、そうしてもらった方がいい」
 威吹:「分かった。それでは明日、そちらにお邪魔しよう。時間はどうする?」
 勇太:「午前中は瀕死の重傷の先輩が一気に回復して退院するから、午後の方がいいな。ワンスターホテルを知ってるでしょ?あそこに到着できるようにしたい」
 威吹:「心得たり。それではそうしよう」

 勇太やその両親については、一人称を『ボク』にしている威吹だが、本来目上の者には『某(それがし)』と名乗り、目下の者及び同等の者には『俺』という一人称を使っている。
 その後勇太は威吹と近況を語り合った。
 威吹は威吹で威織という一人息子がいるが、妻のさくら(人間の女性で禰宜)が2人目の子供を妊娠していること。
 その為、生活費が更に必要になったことを明かした。
 それで、前々から持ち掛けられていた勇太との使い魔契約の話に対し、前向きに動くようになったということだ。
 尚、威織は妖狐と人間のハーフ(半妖)ということになるが、人間名は伊織と名乗る。
 この名前、女子に多そうだが、実は元々これは男子に使う名前であった。
 妖狐族は自分の名前の一文字を子孫に伝える不文律がある。
 恐らく、戦国武将や江戸時代の大名の名付け方を参考にしたものと思われる。
 江戸時代には南光坊天海僧正を助けていたりしていたくらいだから……。

 勇太:「それじゃそういうことで、よろしく」

 勇太は電話を切った。

 佳子:「威吹君、何だって?」
 勇太:「明日、こっちに遊びに来るよ」
 佳子:「威吹君、結婚してお子さんもいらっしゃるんだってね。勇太も頑張らないとね」
 勇太:「な、何をだよ……」

 だが勇太は母親の言葉で、マリアの顔が浮かんだ。

 勇太:(そうだ!マリアは今、シャワーを使ってるんだった!)

 勇太は鼻息を荒くして急いで2階への階段を駆け登った。
 だが、2〜3段目で足を滑らせて再び1階まで落ちる。

 佳子:「何やってんの。あれだけ階段の駆け登りは危ないって、言ったでしょ?」
 勇太:「いててて……。すっかり忘れてた」

 幸いケガは無い。
 据え膳食う直前の男の下半身は、階段を踏み外したくらいではめげないのだ。

 勇太:「あっ!?」

 だが、勇太が2階に辿り着いた時には既にマリアはシャワーから出ていて、ワンピースタイプの寝巻に着替えていた。

 マリア:「シャワー使わせてもらったよ。ありがとう」
 勇太:「どういたしまして……」

 マリアには勇太がガックリ肩を落とす理由が分かっていた。

 マリア:「勇太の気持ちは分かるけど、今はママがいるからダメだって」
 勇太:「ううっ……」
 マリア:「それに私も眠いから、先に寝させてもらうよ」
 勇太:「あんまり寝すぎると、夜寝れなくなりますからね!」

 勇太は悔しそうに言って、自分の部屋に閉じこもってしまった。

 マリア:(しょうがないヤツ……。ま、そこがかわいいんだけど)

 マリアの方が実年齢は勇太より年上である。
 マリアは大きな欠伸をした。゜

 マリア:(歯磨きして寝よ……)

 そして1階へ下りて行った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする