[5月17日07:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
朝の勤行を終えた稲生勇太は、威吹を起こしに1Fの客間に向かった。
今日、マリアはルーシーと一緒にワンスターホテルに泊まっている。
だから今日、迎えに行く必要がある。
勇太:「威吹〜、起きてる?」
威吹:「うむ。……。ユタ、おはよう」
恐らく魔界稲荷にいる時は厳格な父親であり、剣術指南なのであろう。
だが、ここでは勇太の盟友としての顔を見せている。
……のだが一瞬、向こうの顔が出てしまった。
それは威吹が既に起床して、客間の外の裏庭で木刀の素振りをしているからだろう。
勇太:「勤行終わった」
威吹:「それでは朝餉に預かろうか」
威吹は汗を拭いて、再び家に上がった。
佳子:「こうして威吹君と朝食を囲むのも久しぶりねぇ」
威吹:「懐かしゅうございます」
宗一郎:「さすが威吹君も家庭持ち、弟子持ちになると凛々しくなるねぇ。勇太にも見習ってもらわないと」
勇太:「僕は僕の考え方があるから……」
威吹:「それでは、頂きます」
勇太と威吹とはついに使い魔の契約を交わした。
報酬は人間界の食糧と水で良いとのことだが、アルカディアでは年々インフレが起こるなどの経済問題が発生しているらしい。
まだまだ物価の安い魔界であるのだが、先進国に近づくと物価も上がるのは経済の常か。
水に関しては豊富な地下水が、魔界高速電鉄の強引な地下鉄工事のせいで枯渇しつつあるという。
地下鉄工事だけでそんなことになるのか首を傾げた勇太だったが、とにかくそういうことになっているらしい。
魔界王国アルカディアはファンタジーの世界ながら電化されており、その発電には水力発電と地熱発電が主となっている。
地下水が枯渇すると水力発電に影響があるような気がするのだが、電鉄側は何も考えていないのだろうか。
宗一郎:「どれ、テレビを……」
勇太の父親の宗一郎はリモコンを手にテレビを点けた。
如何に電化されていようと、さすがにまだテレビは魔界には無い。
ラジオはあるので、恐らく文明的には大正時代くらいなのではないか。
〔「……昨夜8時頃、東京都江東区○×のファミリーレストランで、店内の客席に乗用車が突っ込むという事故がありました。また、それをたまたま映していた報道のヘリコプターが同じ場所に墜落し、弾みでヘリコプターの燃料やガスボンベに引火し、爆発するという大惨事になりました。この事故で死者は……」〕
宗一郎:「老人がプリウス運転しちゃイカンよ」
勇太:「死亡フラグだもんね」
威吹:「何かしら恣意的なものを感じるのだが……」
勇太:「江東区に知り合いが何人か住んでるから、確かに嫌な予感はするね」
さすがは勇太と威吹。
長年、妖怪と戦っていた過去を持つだけのことはある。
〔「……プリウスを運転していた男性は『ブレーキとアクセルを踏み間違えた』と証言しており、ヘリコプターのパイロットは『事故を目撃したので高度を下げたら突然操縦不能に陥った』と証言しており、偶然が重なった不幸な事故と思われます」〕
宗一郎:「こりゃ、おちおち外食もできんなー」
佳子:「勇太も気をつけるのよ?」
勇太:「僕は毎日勤行して、大聖人様の御加護を頂いているから……」
威吹:「それに、昨日より某(それがし)……もとい、ボクが契約を結びましたから、ボクもユタを守りますよ」
宗一郎:「それは頼もしい。私からもよろしく頼むよ。そうだ。また新しい金時計を進呈しよう」
威吹:「かたじけない。しかし、既に頂いた銀時計と金時計は大事に保管してございます」
宗一郎:「誰が懐中時計だと言った?」
威吹:「と、申しますると?」
宗一郎:「今度は置時計としての金時計を進呈だ」
威吹:「高価な贈答、真にかたじけない限りでございます」
勇太:「確かに高い物だから、向こうでお金に困ったら売ればいいさ。向こうでも価値があるんだろ?」
威吹:「この前、古物商の者が件の金時計を売れ売れうるさかったので、坂吹に追い返させた」
勇太:「魔界にも『押し買い』っているんだねぇ……」
[同日09:05.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]
勇太と威吹は朝食を終えると、自宅の最寄りのバス停から開業したばかりの路線バスに乗って大宮駅に向かった。
〔お待たせ致しました。次は終点、大宮駅西口、大宮駅西口でございます。どなた様もお忘れ物のございませんよう、ご注意ください。毎度、丸建自動車をご利用頂きまして、ありがとうございました〕
威吹:「ユタの家に行く時はタクシーだったが、いつの間にかこういうバスが走るようになったんだな……」
勇太:「まあ、便利にはなったよね」
コミュニティバスではよく使用されている小型のバス。
その小回りの良さを生かし、大宮アルシェの横の一方通行の道に入る。
まだ閑散とした路線で、乗客も稲生達の他に2人しかいなかったが、コミュニティバスが混雑するというのもまた変な話のように思えてしまう。
停車して前扉が開くと、勇太は回数券を2枚出した。
勇太:「大人2人です」
運転手:「はい、ありがとうございました」
バスを降りると少し強めの風が吹いて来た。
それで威吹の銀色の髪が揺れる。
結婚前は腰まで伸ばして束ねていた髪も、今では肩の所で切っている。
勇太:「報酬はキミの家の所に届くようにしてあるから」
威吹:「かたじけない。報酬をもらった以上は全力で働くからね。イザとなったら、坂吹も連れて来よう」
勇太:「うん」
因みに威吹を呼ぶ手段として、呼子笛を使うことにした。
これを吹けば威吹が現れる。
勇太:「取りあえずワンスターホテルに行こう。そこから魔界に戻れる。送って行くよ」
威吹:「ユタと一緒に電車に乗るのも久しぶりだな」
勇太:「昨日、ホテルから家まで来るのにも一緒に乗っただろう?」
威吹:「逆方向って意味だよ」
勇太:「上りは京浜東北線でゆっくり行くか」
威吹:「了解」
朝の勤行を終えた稲生勇太は、威吹を起こしに1Fの客間に向かった。
今日、マリアはルーシーと一緒にワンスターホテルに泊まっている。
だから今日、迎えに行く必要がある。
勇太:「威吹〜、起きてる?」
威吹:「うむ。……。ユタ、おはよう」
恐らく魔界稲荷にいる時は厳格な父親であり、剣術指南なのであろう。
だが、ここでは勇太の盟友としての顔を見せている。
……のだが一瞬、向こうの顔が出てしまった。
それは威吹が既に起床して、客間の外の裏庭で木刀の素振りをしているからだろう。
勇太:「勤行終わった」
威吹:「それでは朝餉に預かろうか」
威吹は汗を拭いて、再び家に上がった。
佳子:「こうして威吹君と朝食を囲むのも久しぶりねぇ」
威吹:「懐かしゅうございます」
宗一郎:「さすが威吹君も家庭持ち、弟子持ちになると凛々しくなるねぇ。勇太にも見習ってもらわないと」
勇太:「僕は僕の考え方があるから……」
威吹:「それでは、頂きます」
勇太と威吹とはついに使い魔の契約を交わした。
報酬は人間界の食糧と水で良いとのことだが、アルカディアでは年々インフレが起こるなどの経済問題が発生しているらしい。
まだまだ物価の安い魔界であるのだが、先進国に近づくと物価も上がるのは経済の常か。
水に関しては豊富な地下水が、魔界高速電鉄の強引な地下鉄工事のせいで枯渇しつつあるという。
地下鉄工事だけでそんなことになるのか首を傾げた勇太だったが、とにかくそういうことになっているらしい。
魔界王国アルカディアはファンタジーの世界ながら電化されており、その発電には水力発電と地熱発電が主となっている。
地下水が枯渇すると水力発電に影響があるような気がするのだが、電鉄側は何も考えていないのだろうか。
宗一郎:「どれ、テレビを……」
勇太の父親の宗一郎はリモコンを手にテレビを点けた。
如何に電化されていようと、さすがにまだテレビは魔界には無い。
ラジオはあるので、恐らく文明的には大正時代くらいなのではないか。
〔「……昨夜8時頃、東京都江東区○×のファミリーレストランで、店内の客席に乗用車が突っ込むという事故がありました。また、それをたまたま映していた報道のヘリコプターが同じ場所に墜落し、弾みでヘリコプターの燃料やガスボンベに引火し、爆発するという大惨事になりました。この事故で死者は……」〕
宗一郎:「老人がプリウス運転しちゃイカンよ」
勇太:「死亡フラグだもんね」
威吹:「何かしら恣意的なものを感じるのだが……」
勇太:「江東区に知り合いが何人か住んでるから、確かに嫌な予感はするね」
さすがは勇太と威吹。
長年、妖怪と戦っていた過去を持つだけのことはある。
〔「……プリウスを運転していた男性は『ブレーキとアクセルを踏み間違えた』と証言しており、ヘリコプターのパイロットは『事故を目撃したので高度を下げたら突然操縦不能に陥った』と証言しており、偶然が重なった不幸な事故と思われます」〕
宗一郎:「こりゃ、おちおち外食もできんなー」
佳子:「勇太も気をつけるのよ?」
勇太:「僕は毎日勤行して、大聖人様の御加護を頂いているから……」
威吹:「それに、昨日より某(それがし)……もとい、ボクが契約を結びましたから、ボクもユタを守りますよ」
宗一郎:「それは頼もしい。私からもよろしく頼むよ。そうだ。また新しい金時計を進呈しよう」
威吹:「かたじけない。しかし、既に頂いた銀時計と金時計は大事に保管してございます」
宗一郎:「誰が懐中時計だと言った?」
威吹:「と、申しますると?」
宗一郎:「今度は置時計としての金時計を進呈だ」
威吹:「高価な贈答、真にかたじけない限りでございます」
勇太:「確かに高い物だから、向こうでお金に困ったら売ればいいさ。向こうでも価値があるんだろ?」
威吹:「この前、古物商の者が件の金時計を売れ売れうるさかったので、坂吹に追い返させた」
勇太:「魔界にも『押し買い』っているんだねぇ……」
[同日09:05.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]
勇太と威吹は朝食を終えると、自宅の最寄りのバス停から開業したばかりの路線バスに乗って大宮駅に向かった。
〔お待たせ致しました。次は終点、大宮駅西口、大宮駅西口でございます。どなた様もお忘れ物のございませんよう、ご注意ください。毎度、丸建自動車をご利用頂きまして、ありがとうございました〕
威吹:「ユタの家に行く時はタクシーだったが、いつの間にかこういうバスが走るようになったんだな……」
勇太:「まあ、便利にはなったよね」
コミュニティバスではよく使用されている小型のバス。
その小回りの良さを生かし、大宮アルシェの横の一方通行の道に入る。
まだ閑散とした路線で、乗客も稲生達の他に2人しかいなかったが、コミュニティバスが混雑するというのもまた変な話のように思えてしまう。
停車して前扉が開くと、勇太は回数券を2枚出した。
勇太:「大人2人です」
運転手:「はい、ありがとうございました」
バスを降りると少し強めの風が吹いて来た。
それで威吹の銀色の髪が揺れる。
結婚前は腰まで伸ばして束ねていた髪も、今では肩の所で切っている。
勇太:「報酬はキミの家の所に届くようにしてあるから」
威吹:「かたじけない。報酬をもらった以上は全力で働くからね。イザとなったら、坂吹も連れて来よう」
勇太:「うん」
因みに威吹を呼ぶ手段として、呼子笛を使うことにした。
これを吹けば威吹が現れる。
勇太:「取りあえずワンスターホテルに行こう。そこから魔界に戻れる。送って行くよ」
威吹:「ユタと一緒に電車に乗るのも久しぶりだな」
勇太:「昨日、ホテルから家まで来るのにも一緒に乗っただろう?」
威吹:「逆方向って意味だよ」
勇太:「上りは京浜東北線でゆっくり行くか」
威吹:「了解」