[11月19日17:45.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 白馬八方バスターミナル]
観光案内所も兼ねた小さなバスターミナル。
ここに1台の車が到着した。
見た目は新型のタクシーのようだが、肝心の社名表示灯は無いし、緑ナンバーでもない。
そこから降りて来たのは稲生勇太とイリーナとマリア。
稲生:「ちょっと待っててください。今、乗車券を買って来ますから」
イリーナ:「ああ。頼むよ」
3人はバスターミナルの中に入り、稲生は券売機へ向かった。
マリア:「夜になってから移動するとは……」
イリーナ:「今週末の件で、教会の動きも警戒レベルになっているからね。昼間は堂々と大きく動けないさ」
マリア:「教皇の来日する日に私達も移動するのに?」
イリーナ:「彼が到着したら、教会の動きにそれに合わせる。だからこそ逆に、明後日の方向へ向かう方は安心だってことさ」
マリア:「なるほど……」
稲生が3人分の乗車券を買って来て、それからバスが到着した。
係員:「お待たせしました!長野駅東口行きの最終便でーす!」
何日も留守にすることもあり、稲生も大きなバッグを持っていた。
こういう時、観光バス仕様の特急バスだと荷物室があるので便利である。
3人の中で軽装備の魔道師と魔道士は先にバスに乗った。
このバスターミナル始発ではないので、既に先客はいる。
ただ、ド平日ということもあってか、そんなに観光客の姿は見受けられなかった。
来月になれば冬期ダイヤとなり、スキー客見当ての便が増車されるだろう。
しかし今は秋期ダイヤである。
イリーナ:「着いたら起こしてね」
稲生:「はい」
マリア:「またですか」
イリーナは稲生達の前の席に座ると、座席を倒して来た。
長距離便ではないのでトイレは無く、シートピッチも狭いタイプであるが、それでも遠慮無いのは師匠の特権か。
バスは稲生達ら乗客を乗せて発車した。
最終便とはいえ駆け込み乗車の客も無く、その発車風景はあっさりとしたものだった。
夏ならまだ明るい時間帯だが、この時期ともなると、もう外は暗い。
バスはヘッドライトを灯して走行しているし、車内灯も最前部以外はマックス点灯されている。
昔のバスと違って随分と明るくなったが、逆にイリーナのように寝たい乗客にとっては眩しいことだろう。
イリーナはローブのフードを目深に被っているし、他にもサングラスや帽子を深く被って寝ている乗客もいた。
マリア:「勇太のことだから、計画は万全だろう。それなのに、早めに上京するとは……」
稲生:「まあ、本来はそれが普通なんですけどね。大師匠様並みのVIPが来られるとなると……」
マリア:「でもスパ(温泉)までは下見できないと思うけど……」
稲生:「それはネットで見て頂くしか無いですねぇ……。ってか、先生なら水晶球で見られるのでは?」
マリア:「それを面倒臭がる大魔道師様なんだよ」
マリアは口元を歪めて言った。
稲生:「ははは……」
稲生も一緒に苦笑いする。
その後で真顔になった。
稲生:「実は今回のホテル予約などについては、1人の協力者がいます」
マリア:「う……嫌な予感」
稲生:「まあ、その予感当たりですけどね。鈴木君です。温泉の方も鈴木君の協力がありました」
マリア:「何かヤだな……」
稲生:「まあ、そう言わないでくださいよ。顕正会時代やその後は罪障のせいで変人期間がありましたが、今ではだいぶそれも消滅して、いいヤツになりましたよ」
マリア:「うーん……。ま、被害はエレーナに引き受けてもらおう。私はゴメンだ」
稲生:「鈴木君、悔しがってましたよ。彼も魔道士になりたいって言ってたのに、けんもほろろに断られたんですから」
マリア:「そもそもあいつに才能を見出すことはできない。基本的にこのダンテ一門というのは、志願制ではないんだ。師匠が弟子候補を探して勧誘する方式だから」
稲生:「でも例外はありそうですね。要は志願しつつ才能があればいいんでしょう?」
マリア:「あとはその師匠が気に入るかどうかだね。実は、いる。アナスタシア組にもいるし、ベイカー組のゼルダなんかもそうだったらしいな」
稲生:「なるほど……」
車内は暖房が効いて温かい。
人によっては暑いくらいだ。
マリアは着ていたローブを脱いで、膝掛けの代わりにした。
ローブの下にはいつものモスグリーンのダブルのブレザーを着て、下はグレーのプリーツスカートをはいている。
その下には黒いストッキングをはいている。
マリア:「ところで、乗り換え先の新幹線はどうなの?」
稲生:「はい。暫定ダイヤですけど、ちゃんと乗れます。今は本数が通常の8〜9割で済んでいるからいいようなものの、台風通過直後の状態の本数だったらどうしようかと思いましたよ」
マリア:「師匠が占いで何も言ってなかったから、多分大丈夫だとは思っていたけど……」
稲生:「ええ。かといって、今更高速バスには乗れませんし……」
マリア:「どうせ師匠は乗ったら寝るだけだろうし、このバスよりはシートも広いからいいんじゃないの?」
稲生:「このバス会社だと終点がバスタ新宿なので、森下に行くのが大変なんですよ。そりゃ都営新宿線一本ですけどね、平日の帰宅ラッシュの中に偉い先生を乗せるのは……」
マリア:「師匠は別にいいって。それに、タクシーでもいいじゃないの?」
稲生:「新宿から森下まで何千円掛かることやら……」
マリア:「だから師匠にとっては、路線バスに乗るようなもんだって」
稲生:「まあ、もう新幹線で東京駅まで行くルートを確保しちゃいましたし、同じタクシーでも東京駅からなら2000円台で済みますよ。大石寺から富士宮営業所くらいまでの金額」
マリア:「ま、タクシー代は師匠に出してもらおう」
稲生:「宿泊先のホテルがワンスターホテルでいいのかっていう不安はありますけど……」
マリア:「特に鈴木が常宿にしているという時点で嫌な予感しかしないけど、師匠が何も反対してないからなぁ……」
稲生:「エレーナの話じゃ、やっぱりあそこにも教会の魔女狩り隊が嗅ぎ付けてやってきたことがあったんだそうですよ」
マリア:「やっぱりか」
稲生:「その時、鈴木君が『正証寺アポ無し折伏隊』を結成して、激しく応戦して撃退した後、2度と来なくなったそうですが」
マリア:「その手があったか……」
それでも正証寺の誓願達成率は【お察しください】。
観光案内所も兼ねた小さなバスターミナル。
ここに1台の車が到着した。
見た目は新型のタクシーのようだが、肝心の社名表示灯は無いし、緑ナンバーでもない。
そこから降りて来たのは稲生勇太とイリーナとマリア。
稲生:「ちょっと待っててください。今、乗車券を買って来ますから」
イリーナ:「ああ。頼むよ」
3人はバスターミナルの中に入り、稲生は券売機へ向かった。
マリア:「夜になってから移動するとは……」
イリーナ:「今週末の件で、教会の動きも警戒レベルになっているからね。昼間は堂々と大きく動けないさ」
マリア:「教皇の来日する日に私達も移動するのに?」
イリーナ:「彼が到着したら、教会の動きにそれに合わせる。だからこそ逆に、明後日の方向へ向かう方は安心だってことさ」
マリア:「なるほど……」
稲生が3人分の乗車券を買って来て、それからバスが到着した。
係員:「お待たせしました!長野駅東口行きの最終便でーす!」
何日も留守にすることもあり、稲生も大きなバッグを持っていた。
こういう時、観光バス仕様の特急バスだと荷物室があるので便利である。
3人の中で軽装備の魔道師と魔道士は先にバスに乗った。
このバスターミナル始発ではないので、既に先客はいる。
ただ、ド平日ということもあってか、そんなに観光客の姿は見受けられなかった。
来月になれば冬期ダイヤとなり、スキー客見当ての便が増車されるだろう。
しかし今は秋期ダイヤである。
イリーナ:「着いたら起こしてね」
稲生:「はい」
マリア:「またですか」
イリーナは稲生達の前の席に座ると、座席を倒して来た。
長距離便ではないのでトイレは無く、シートピッチも狭いタイプであるが、それでも遠慮無いのは師匠の特権か。
バスは稲生達ら乗客を乗せて発車した。
最終便とはいえ駆け込み乗車の客も無く、その発車風景はあっさりとしたものだった。
夏ならまだ明るい時間帯だが、この時期ともなると、もう外は暗い。
バスはヘッドライトを灯して走行しているし、車内灯も最前部以外はマックス点灯されている。
昔のバスと違って随分と明るくなったが、逆にイリーナのように寝たい乗客にとっては眩しいことだろう。
イリーナはローブのフードを目深に被っているし、他にもサングラスや帽子を深く被って寝ている乗客もいた。
マリア:「勇太のことだから、計画は万全だろう。それなのに、早めに上京するとは……」
稲生:「まあ、本来はそれが普通なんですけどね。大師匠様並みのVIPが来られるとなると……」
マリア:「でもスパ(温泉)までは下見できないと思うけど……」
稲生:「それはネットで見て頂くしか無いですねぇ……。ってか、先生なら水晶球で見られるのでは?」
マリア:「それを面倒臭がる大魔道師様なんだよ」
マリアは口元を歪めて言った。
稲生:「ははは……」
稲生も一緒に苦笑いする。
その後で真顔になった。
稲生:「実は今回のホテル予約などについては、1人の協力者がいます」
マリア:「う……嫌な予感」
稲生:「まあ、その予感当たりですけどね。鈴木君です。温泉の方も鈴木君の協力がありました」
マリア:「何かヤだな……」
稲生:「まあ、そう言わないでくださいよ。顕正会時代やその後は罪障のせいで変人期間がありましたが、今ではだいぶそれも消滅して、いいヤツになりましたよ」
マリア:「うーん……。ま、被害はエレーナに引き受けてもらおう。私はゴメンだ」
稲生:「鈴木君、悔しがってましたよ。彼も魔道士になりたいって言ってたのに、けんもほろろに断られたんですから」
マリア:「そもそもあいつに才能を見出すことはできない。基本的にこのダンテ一門というのは、志願制ではないんだ。師匠が弟子候補を探して勧誘する方式だから」
稲生:「でも例外はありそうですね。要は志願しつつ才能があればいいんでしょう?」
マリア:「あとはその師匠が気に入るかどうかだね。実は、いる。アナスタシア組にもいるし、ベイカー組のゼルダなんかもそうだったらしいな」
稲生:「なるほど……」
車内は暖房が効いて温かい。
人によっては暑いくらいだ。
マリアは着ていたローブを脱いで、膝掛けの代わりにした。
ローブの下にはいつものモスグリーンのダブルのブレザーを着て、下はグレーのプリーツスカートをはいている。
その下には黒いストッキングをはいている。
マリア:「ところで、乗り換え先の新幹線はどうなの?」
稲生:「はい。暫定ダイヤですけど、ちゃんと乗れます。今は本数が通常の8〜9割で済んでいるからいいようなものの、台風通過直後の状態の本数だったらどうしようかと思いましたよ」
マリア:「師匠が占いで何も言ってなかったから、多分大丈夫だとは思っていたけど……」
稲生:「ええ。かといって、今更高速バスには乗れませんし……」
マリア:「どうせ師匠は乗ったら寝るだけだろうし、このバスよりはシートも広いからいいんじゃないの?」
稲生:「このバス会社だと終点がバスタ新宿なので、森下に行くのが大変なんですよ。そりゃ都営新宿線一本ですけどね、平日の帰宅ラッシュの中に偉い先生を乗せるのは……」
マリア:「師匠は別にいいって。それに、タクシーでもいいじゃないの?」
稲生:「新宿から森下まで何千円掛かることやら……」
マリア:「だから師匠にとっては、路線バスに乗るようなもんだって」
稲生:「まあ、もう新幹線で東京駅まで行くルートを確保しちゃいましたし、同じタクシーでも東京駅からなら2000円台で済みますよ。大石寺から富士宮営業所くらいまでの金額」
マリア:「ま、タクシー代は師匠に出してもらおう」
稲生:「宿泊先のホテルがワンスターホテルでいいのかっていう不安はありますけど……」
マリア:「特に鈴木が常宿にしているという時点で嫌な予感しかしないけど、師匠が何も反対してないからなぁ……」
稲生:「エレーナの話じゃ、やっぱりあそこにも教会の魔女狩り隊が嗅ぎ付けてやってきたことがあったんだそうですよ」
マリア:「やっぱりか」
稲生:「その時、鈴木君が『正証寺アポ無し折伏隊』を結成して、激しく応戦して撃退した後、2度と来なくなったそうですが」
マリア:「その手があったか……」
それでも正証寺の誓願達成率は【お察しください】。