報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの卒業式」

2021-03-21 19:56:19 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月15日09:00.天候:晴 東京都墨田区某所 東京中央学園墨田中学校]

 アデランス:「これより第○○回、東京中央学園墨田中学校卒業式を開催致します。司会は私、アデランスこと、矢島であります。どうぞ、よろしくお願い致します」

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサが、いよいよ卒業式を迎える。
 なので、こうして私は保護者として参加しているわけだ。
 PTA会長席には斉藤社長が座っている。

 アデランス:「今年にありましては昨年に引き続き、新型コロナウィルスの脅威に晒された年でもあります。当校におきましては、何としてでも人生の節目である中学校の卒業式を開催したいとの思いから、三密対策を心掛け、分散卒業式を開催するという結論に至ったものであります。当校の卒業生は1組から6組までございます。本日の卒業式は1組から3組、そして4組から6組におきましては翌日開催されます。また、保護者の参加も生徒1人につき1名までとさせて頂き、席をソーシャルディスタンスすることで密とならぬよう、配慮させて頂きました。どうか皆々様の御理解、ご協力を賜りたいと存じます」

 それにしても司会者のネタ、東日本大震災前から日蓮正宗の信仰をしていた一部の読者しか知らないだろうなぁ……。
 この学園では司会者なんかも外注委託なんだな。
 普通は教職員がやるだろうに……。

 アデランス:「それではまず初めに、卒業生の入場です。皆様、拍手でお迎えください」

 うむ、これぞ卒業式って感じだな。
 リサと斉藤さんは3組だから、1番後かな。
 で、その際に流れるBGMだが、学校毎に個性がある。
 吹奏楽部による生演奏の所もあるし、校歌をインストゥルメンタルで流す所もあるし、勇ましいマーチを流す所もある。
 因みに“蛍の光”は退場曲だ。
 この中学校は何なんだろう?
 見た感じ、吹奏楽部ではないようだが……。

〔ダン!ドン!ダン!パッパラ~♪パパ~パパ~ン♪パッパラ~♪パパパパ~ン♪……〕

 おや?どうやらここは勇ましいマーチのようだ。
 しかし、何だ?軍歌かこれ?
 いいのかな?東京中央学園は、思想的には右寄りの学園だとは聞いたが……。
 しかし、どうやらやっぱり違うようだ。
 PTA会長席に座っていた斉藤社長が慌てて立ち上がり、体育館内の音響室に駆け込んだ。

 斉藤:「何を流してるんだ!?止めろ!」
 サトー:「あぁッ?何だよ、会長さんよォ!顕正会じゃ、“広宣流布の大行進”を流すのが鉄板だぜっ、あぁっ!?」
 斉藤:「バカモン!クビだ!私は“威風堂々”を流せと言ったんだ!つまみ出せ!」
 サトー:「あ~れ~……!」

 サトー様、斉藤社長の黒服SPに連れ出される。

 修羅河童:「全く。これだから顕彰会はダメですね~。この私にお任せあれ」
 斉藤:「頼んだぞ」

 斉藤社長、急いで音響室から出て会長席に戻る。

〔パン♪パパパパパ~ラッ♪パッパ~♪「濁悪の~♪此の世往く~♪学会の~♪往く手を阻むは♪何奴なるぞ~♪」〕

 ズコーッ!

 来賓:「うわっ!東京中央学園が創価学園になった!?」

 またもや音響室に駆け込む斉藤社長。

 斉藤:「消せーっ!」
 修羅河童:「怨嫉謗法はダメですよ」
 斉藤:「つまみ出せ!」

 斉藤社長の黒服SPが70過ぎの老人にも容赦無く連れ出す。

 修羅河童:「怨嫉謗法はやめなさい!それより功徳を語りましょう!」
 斉藤:「誰が“威風堂々の歌”を流せっつったよ!……あーあーあ。楽曲データ、メチャクチャにしちゃって……」
 愛原:「社長、代わりにこのCDを!」
 斉藤:「愛原さん、申し訳ありません」
 愛原:「さすがに音響係まで外注化するのは如何なものかと……」
 斉藤:「すいません。うちの会社では、それが当たり前なもんで」

 きっと社長の会社、正社員より派遣社員の方の数が多いんだろうなぁ……。

 斉藤:「あっ、いい曲だ。これなら……でも、何の曲ですか?」
 愛原:「“東方Project”で有名な上海アリス幻樂団より、“未知の花 魅知の旅”です」
 斉藤:「絶対それ、作者の趣味でしょ」
 愛原:「でしょうなぁ……」

 それから……。

 アデランス:「(えー、コロナ禍の影響と字数制限の都合で色々と省略致しまして)最後に、卒業生が退場致します。場内の皆様、拍手でお送りください」

 あ、ここで“蛍の光”が流れるのか。
 因みにこの歌、本当は4番まである。
 しかし、NHK紅白歌合戦を始め、殆ど1番しか歌われないのは、3番と4番が愛国主義的な歌詞である為、日教組やら共産党やら色々うるさいのでカットされている。
 が、ここではしっかり流れていた。

 3番『筑紫の極み、陸の奥、海山遠く、隔つとも、その真心は、隔て無く、一つに盡くせ、國の為』
 4番『千島の奧も、沖繩も、八洲の内の、護りなり、至らん國に、勳しく、努めよ我が兄、恙無く』

 特に4番にあっては、ロシアとアメリカに聞かせてやりたい。

 そして、卒業式は無事に終わった。

 斉藤:「愛原さん、私の依頼した仕事、行き先は考えて下さってますか?」
 愛原:「あ、はい。もう色々と……」
 斉藤:「コロナ禍で海外へは行けない状態なので、また国内になりますが、よろしくお願いします」
 愛原:「はい。そりゃもう……」
 斉藤:「どこか候補は決めてますか?」
 愛原:「そうですねぇ……。やっぱり緊急事態宣言がまだ出ていますし、そんなに遠くへは行けないと思うんですよ。でも、何か思い出になるような所へは行きたいと考えております」
 斉藤:「それはいいですね。具体的にはどんな?」
 愛原:「リサと絵恋さんは体力自慢ですから、何かこう体を動かすような所がいいんじゃないかと……。この時季なら、まだ雪国ではスキーができますし、あえて温水プールで泳ぐっていう意表を突くという手もあるでしょうし……」
 斉藤:「そして愛原さんは温泉に入りたいというわけですね?」
 愛原:「いや、まあ、その……ハハハ……」
 斉藤:「しかし、いいアイディアだと思います。娘はどうせリサさんと一緒ならどこでもいいと言うに決まってますし、結局のところは彼女の希望が優先になるんじゃないですかね?」
 愛原:「……ですね」

 そしてリサはリサで、私の行く所ならどこでも行くと言う。
 私と社長は、また後で打ち合わせすることになった。
 
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤社長からの依頼」

2021-03-21 11:38:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日15:35.天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所→都営バス新橋停留所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 NPO法人デイライト東京事務所で書類手続きと、善場主任との打ち合わせが終わり、私と高橋は事務所を出た。
 さっきまで降っていた雨だが、ようやく上がったようだ。
 まだ空はどんよりと雲っていたが。

 リサ:「お疲れさま、先生」
 愛原:「ああ、待たせたな。じゃあ帰ろう」
 高橋:「どこ行ってたんだ、お前ら?」
 リサ:「色々。この辺、色んなお店がある」
 斉藤:「1時間だけじゃ回り切れないですわ」
 高橋:「よし。じゃあ、俺達は先に帰るから、お前らは後で来い」
 リサ:「いや、私も帰るって」
 斉藤:「リサさんが言うならぁ、私も帰るぅ!」
 愛原:「別の意味で面白いコントをしてくれるなぁ……」

 菊川方面へ行く都営バスは、ただ単に『新橋』というバス停から出る。
 『新橋駅前』ではないのは、他の新橋駅前バス停と違って、新橋駅から少し離れているからだろう。
 しかし、新橋地区にはある。
 他のバス会社なら、それでも強引に『新橋駅前』にするか、『新橋駅入口』とかいう名前になりそうだ。
 本数は東20系統と違ってとても多く、私達が乗ろうとする便は、前の便が出てから4分後に発車するという高頻度ぶりだ。
 雨が降っていたら、もっと混んでいたかもしれない。
 バスがやってきて、私達は前から乗り込んだ。
 私と居候を始めたばかりの頃は、リサは電車やバスの乗り方を知らず、私が教えたものだ。
 今は随分と慣れた様子である。
 バスに乗り込むと、1番後ろの座席に座った。

 リサ:「あ……」

 そこでリサが思い出したかのように言った。

 リサ:「先生。今日ね、栗原……先輩も来ることになってたんだけど、『体調不良』で来れないって」
 愛原:「そうなのか。それはしょうがないな」

 栗原さんも来るつもりだったのかい。

 リサ:「そろそろ『来そう』だなぁと思っている時に天気が悪くなると、それがきっかけで『来る』こともあるからね」
 愛原:「そういうものか」

 私は頷いた。
 そんなことを話しているうちに、バスにエンジンが掛かる。
 この時点で座席の半分以上が埋まっていた。
 さすが都営バスはドル箱路線を多く抱えている。
 さぞかし一般路線バスとしては日本一の輸送量かと思いきや、都営バスは2位に甘んじているのだという。
 では1位はどこかというと、神奈川県の神奈川中央交通(略称、神奈中)とのこと。

〔発車致します。お掴まりください〕

 乗車口の前扉が閉まって、バスが走り出した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋がご便利です。次は、銀座西六丁目でございます〕

 斉藤:「あ、そうだ。私も事務所に行っていいですか?」
 高橋:「おい。子供の遊ぶ所じゃねーぞ」
 愛原:「まあまあ。どうかしたのかい?」
 斉藤:「お父さんが先生に送った依頼書がどんなものか見てみたいんです。フザけたものでしたら、私から言っておきますから」
 愛原:「フザけたというか……。まあ、面白い依頼書をいつも送ってくれるよね。それでいて報酬は高いんだから、俺としては文句は言えないな」
 斉藤:「でも、モノには限度ってものがありますから」

 私の中では斉藤社長の依頼内容は限度内だし、そもそも娘のお守りを依頼してくる時点で、探偵業とはおよそかけ離れた限度外だと思う。
 要は斉藤さんは、何か口実を作って、少しでも長くリサと一緒にいたいのだ。
 私はそう思い、了承した。
 斉藤さんは嬉しそうにしていたが、高橋が不満顔であった。

[同日16:45.天候:曇 墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 事務所に到着すると、まずはファックスとメールを確認した。
 斉藤社長の依頼書はファックスで送られており、やはり内容は娘である斉藤絵恋さんをリサの卒業旅行に同行させて欲しいというものだった。
 その代わり、宿泊先のホテルまたは旅館の優待券を融通するとのことだった。
 全く、予想通りの展開であった。
 まずは私は依頼を受ける旨の返事をする為、ボスの所に電話した。

 ボス:「退院おめでとう。私も嬉しいよ」
 愛原:「ありがとうございます。ボス」
 高橋:「ていうか今頃ボスが登場しても、今の読者は忘れてるんじゃねーか?」
 ボス:「聞こえてるぞ、高橋君。今度の仕事は、高橋君抜きで頑張ってくれ」
 高橋:「いや、冗談っスよ、ボス!ガヂバナじゃないッス!」
 ボス:「まあいいだろう。斉藤社長には私から言っておく。候補地を後でメールするから、粗方の目星を付けておいてくれ」
 愛原:「分かりました」
 ボス:「尚、このテープは自動的に消滅する」
 愛原:「は?」
 ボス:「スマン。1度言ってみたかったのだ」
 愛原:「そんな昔のスパイ映画みたいなこと、今では全然無理ですよ」
 ボス:「そうだな。今時、カセットテープなんて有り得ん。夢の無い話だ」
 愛原:「そうですね。……それじゃ」

 私は電話を切った。

 愛原:「特にフザけた内容じゃなかったな、斉藤さん」
 斉藤:「そのようですね」
 愛原:「むしろ今回はボスの方がお茶目だった」
 高橋:「読者に忘れられないように、わざとボケてるんスかね」
 愛原:「まあ、カンベンしてやってくれ」
 高橋:「はあ……」
 斉藤:「じゃあ、私はこれで。パールが心配しているといけないので」
 愛原:「ああ。気を付けて帰れな」
 斉藤:「じゃあね、リサさん」
 リサ:「ああ。また」
 高橋:「やれやれ。やっと帰ったか」
 愛原:「それより、候補地ってどこなんだろうな?」
 高橋:「意表をついて、地球の裏側とかかもしれないっスよ?」
 愛原:「ブラジルとかか?それは遠いな。うん、遠すぎるよ。確か飛行機でも丸一日掛かるような距離だぞ」

 国内だと思う。
 ただ、中には離島とかも入っているだろうな。
 まあ、私は温泉に入れればそれで良いのだが。
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